第3話:分かれの極
しかし、さらなる事態が襲い掛かってくる。明らかに我慢できないほどの突破力のあるものが関門を突破してこようとしていた。歩き方が明らかにおかしかったが、腰が痛い振りをしつつ、半ば肛門上部を開かないように押さえておかないと幽体離脱ではなく、もはや“有体”離脱してしまいそうだった。この関門を突破しようとしているものが、観念論(オナラ)なのか実在論(ウンコそのもの)なのかは、判別不能状態。しかし、圧の強さからして、ベントしないことには内壁が持たない。もはや、圧を逃し、量子力学ではないが、「観察されるまでは確定されない」という「不確定性原理」にかけるしかないかった。細心の注意を払いながら、ナノミクロン単位でわずかに弁を開放する。観察の結果、それは観念の方であった。助かった!
踏切も奇跡的に引き留められることなく通過!あと30mで救済の地コンビニエンスストアだ!しかし、思念がそこに及ぶと途端に一気に肛門の開放要求が急速に高まってくる。
俺は心の中で声を限りに叫んだ!
「自律神経よ静まれ!静まれたもう!」
宮崎駿監督の「もののけ姫」に出てくるアシタカではないが、俺はシシ神ならぬシリ神に心からの祈りを捧げた。
「シリ神よ、自律神よ!聞いてくれ、今、このしばしの間だけ、俺の言うことを聞いて自立も而立もしないでくれ!あと、あともう少しなんだ!」
AI時代にあって、私はiPhoneのSiriとは会話したことすらないが、未だ嘗てないほどの濃密な魂が触れ合わんばかりの会話をシリ神と必死の交信を交わしていた。この交信に比肩するものは、人類初の月面着陸をおこなったアポロ11号クルーと地上管制官との交信か、後に偉大なる失敗と謳われ、地球への帰還は絶体絶命と言われたアポロ13号クルーと地上管制官との交信ぐらいであろう。あと10mで「静かな海」への着陸が可能なポイントまで来た。
しかし、現実はニーチェの言うとおりだった!「神は死んだ」のである。まさかの「想定の範囲外」であったが、コンビニエンスストアが閉店となっていた!なんと、人口減少の影響は地域の熊出没だけでなく、神奈川県のコンビニエンスストアにまで及んでいたのである!「おぉ、神よ!」ストア派哲学に身を寄せた自分を呪った。そう、自分は中学生の頃に『スコラ』に出会って以来、スコラ派哲学信奉者ではなかったか!
その時である。シシ神は夜が明けるとダメであったが、シリ神は日が陰るとダメであるようだった。野糞解禁令がシリ神の脳内にはあるのか、もはや、抑えが効かない猛烈な鉄砲水が押し寄せるような途轍もない圧力を感じつつあるところに、姿を消してしまったはずの「神の見えざる手」が文字通り直に我が直腸を鷲掴みに揉みしだいてくる。
「腸よ、肛門よ!分かれ、分かってくれ!今はダメなのだ!このままでは、私はこの辻で社会的死を遂げることとなってしまう!ま、まだローンが残っているのだ!この土地から別れるわけにはいかないのだ!頼む、分かってくれ!」とピアノの「別れの曲」ではなく、今や「『分かれ!』の
しかし、願い虚しく今や核弾頭が頭を覗かせようとしていた。俺は「核弾頭発射命令は出した覚えはないぞ!」と必死に大統領令を発行した覚えがないことを伝える。キューバ危機を迎え、世界の破滅の半歩手前まで行ったケネディ大統領の心中察するに余りある!
「いや、待てよ!この状況はどこかで見覚えがあるぞ!そうだ!映画『War Game』ではないか!?あの時はどうした?そうだ、○×ゲームで、機械学習させて、「核の発射」では、「勝者なき戦い」というオクシモロン状態しか現出しないということを学習させて、「核の発射は無駄であり、何も解決せず、地獄だけが現出する」ことを分からせたのであった!」
脳内で急ぎ高速ディープラーニングのプロンプトを叩く。できれば深層学習というよりかは、浅層学習ですぐに“真相”学習してほしいところである。しかし、どうだ?脳内で〇を思浮かべれば、それは発射サインGoのように見え、×はもはやこれ以上は耐えられないサインにしか見えない。ついに、AIが暴走したのか、これは確実に「核爆弾発射シーケンス」がすでに走っている「シリ応え」があった。
「
「1名ですが、まず、トイレを貸してください。」
「あちらでございます。」
なんと心得た、短き応接!もはや一刻の猶予もない。走れメロス!エロス!モロス!
ここでトイレが塞がっていたらアウトだ。しかし、赤の上下のウェアが効いたか、そこは「シャア専用トイレ」と化していた。颯爽とコックピットに入り、着座しようとする。しかし、なんということだろう。スマホを入れてジョギングしてもズボンが下がってこないように、紐の戒めをきつく結んでいたため、解けない!しかし、脳内指令からもはや独立記念してしまっている肛門君はその戒めを解こうとしている。
「ウォー!」腹をひっこめられる状態ではなかったが、無理矢理ひっこめ、強引にパンツもろとも毟り取るように脱がす。
あと0.1秒遅れていたら、核の放射能で私のパンツは汚され、一生、コメダ珈琲店のトイレに引き籠る羽目になっていただろう。本当に危なかった!
「急場危機」と命名しても間違いではないほど、絶体絶命状態であった。神奈川県はお隣東京都に比べて明らかにトイレの数が少ないのである。これは大問題だ!
老齢社会と人口減少局面を迎える日本の将来にむけて、私は提言を発信したい!
「議員定数は減らせ。0増50減!然れども、声なきトイレ事情を鑑み、また老人はトイレの不安を抱えて外出を控えてしまう傾向があるため、『十人十色』ならぬ『十人トイレ』を是として、トイレの充実を心得よ!そうでないと、おちおち安心して散歩ができなくなり、フレイル状態はますます加速し、人口のボリュームゾーンを占める50歳以上の人間が外出しなくなると街の活性化までもが失われていってしまうであろう。」
50歳の私が危うく社会的生命の終焉を迎えるところであったのだから、60歳・70歳・80歳・90歳などの方々の不安を考えると想像に難くないのである。
それにしても「コメダ珈琲店ここにあり!」である。本当に今日は社会的死を覚悟した日となった。なんとか事なきを得て、その後、席について、本作品のプロットが脳内に満ちてくるのを感じながら、ゆっくりとコメダブレンドを飲んだ。
会計を済ますと、そこには、こう印字されていた。「コメダブレンド 540円。」
私にはうっすらと下に「排便コストが540円かかるも
< 完 >
分かれの極 青山 翠雲 @DracheEins
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