第3話 アウリンコ

 この世には数えきれないほどのFPSゲームが存在しているが、アウリンコもそのうちのひとつである。

 アウリンコは、5人VS5人で行うFPSゲームだ。攻撃側と防衛側に別れてゲームは進む。

 攻撃側はマップの特定の敵エリア内に侵入し、キチという名称の爆弾物をエリアに設置することが目的だ。

 キチは設置された後、規定の時間が経つと爆発してしまう。自陣エリアにキチを設置されてしまった防衛側は、解除ができる時間内にキチを解除しなければならない。

 キチを設置した側(攻撃側)はキチの解除を妨害し、キチを設置された側(防衛側)はキチの解除を行う。キチが爆発した場合、攻撃側の勝ちとなる。

 1試合は1分50秒で行われ、7試合終了すると、攻撃側と防衛側が入れ替わる。

 プレイヤーは躍起となって、キチをエリアに設置し、そして、解除の妨害を目指す。目的の遂行のため、エリアに存在しているプレイヤーごとの銃やスキルを駆使した殺し合いが行われる。

 試合に勝つごとにプレイヤーはポイントを獲得する。ポイントを得て、ランクと呼ばれる、アウリンコ内での自身のゲームスキルがどのレベルの上達度なのかを高め合い、切磋琢磨し合うゲームなのだ。

 

 アウリンコのキャラクターたちは四つの役割のいずれかに属しており、使用できるスキルは、役割に依存している。

 

 エリアと呼ばれる敵陣地に、真っ先に入り込む、主に敵をキルすることに特化している【タイステリヤ】

 タイステリヤが敵陣地に入る前に、敵がエリアのどこにいるのかを検知することに特化する【ロイチェーン】

 敵から味方の姿を見えなくさせ(射線を切る)、エリアを取りやすくすることに特化する【ファシリテーター】

 味方陣に後方から迫りくる敵を感知すること、味方がいないエリアへの敵の侵入を感知することに特化している【ヴァフティ】


 これら四つの役が割り振られ、役割ごとに現在7,8人のキャラが存在する。キャラ数がまちまちなのは、ゲームのアップデートにより、新しいキャラクターが都度導入されるためである。新キャラクターの導入によって、ゲームには常に新鮮さが生まれる。プレイヤーたちは、味方5人をどの役割のキャラで構成するのかを都度研究し、更新し続ける。アウリンコにハマった者は、このゲームに飽きるということがなかった。

 

 最近の配信者は専らゲーム配信を行うことで収益を立てているが、彼ら彼女らが現在注目し、熱い、とされているゲームのひとつにアウリンコがあった。

 そのゲーム性もさることながら、このゲームが配信者やゲーマーの中で注目されているのには理由があった。

 

 何の事前告知もなしにある日のアップデートで、アウリンコゲーム内で試合に勝つごとに得られるポイントを、現実の通貨と交換できるという情報が公式から発表されたのだ。

 当初1P=0.5円という割合だった。が、それでも、ただゲーム内のランクを上げることのみに集められていたポイントが、現実でも使用可能となることは画期的であった。

 どのようにしてこの制度が導入されたのか、当初公開されていなかったが、このアップデート後に、現実の通貨とゲーム内でのポイントを紐づけるのは道徳的にいかがなものか、という議論が世界中で巻き起こり、アウリンコを作った海外のゲーム会社、ランマスパイメンの社長がじきじきに声明文をホームページに掲載する運びとなった。

 

 社長はホームレスからの成り上がりであった。どのような者に対しても、人生をやりなおすきっかけというものが与えられるべきであり、それは、一般的な印象の良い学問以外の場所においても行われるべきだとした。世の中には、勉強のできない人がいる。文字の読み書きができない人がいる。家庭環境が悪く勉強をする以前の問題であったり、親の稼ぎにより進学が難しい人もいる。人生のいたるところで、自分自身をものさしで比べられる際に、他者から判断材料となる学力、学歴というものにそのような人たちは生まれながらにハンデがある。

 そのような人達でも、ゲームを行うことで、たとえプロになる技量はないとしても、ある程度の賃金を稼ぎ、最低限度の生活を行う支えになればよい、との考えの下、ポイントを現実の通貨に還元する制度を導入する、という決定を下した、と社長は発表をした。世間による反応やポイントの通貨交換による影響の様子を見つつの試験期間は設けるが、この制度を退ける気はない、とも。


 ゲームを頑張りポイントを得れば、現実の世界でお金を稼ぐことができるとアウリンコは一躍有名となった。配信者ならずとも、これまでゲームをすることがなかった層までこぞってアウリンコをプレイするようになったのだった。アウリンコはパソコンでのみプレイ可能なゲームだったため、ゲームをする人が増えるということは、ゲーム環境周りの金の動きも良くなることを意味していた。ゲームをより良い環境でプレイするために、性能の良いパソコン、マウス、キーボードの需要が高まった、売れに、売れた。パソコンやキーボードは安くはない。しかし、アウリンコをすれば、ゲーム内ポイントの現実通貨への交換により、ゲームを続けるうちに元を取れるようになる。配信者はゲームをプレイするだけで、配信するプラットフォームからの収益とアウリンコからの収益で、より稼ぎが良くなった。

 ゲームを、アウリンコを、しない理由がなかった。特に、人生に落ちこぼれ、暇を持て余す者にとっては。

 人々は、アウリンコをプレイした。アウリンコの運営会社、ランマスパイメンの株価は上昇する。さらにアウリンコに金が集まり、金に人が群がる。ランマスパイメンはさらに資産を蓄えて、ゲーマーに還元する。この構図が構築されてからかれこれ二年が経った。 当初1P=0.5円という割合だった還元率も今は、1P=200円まで上がってきている。さらに人が群がって、アウリンコで生計を立てている一般市民が世界中で増殖した。彼ら、彼女は、それまで、引きこもりでそれまで職の経験がなく人とのコミュニケーションが難しくて職につけなかった人だったり、障害や家庭の環境で普通の仕事に就くのが難しい人達だった。人々はこぞって言う。「アウリンコによって、世界が変わった」「アウリンコで人生を救ってもらえた」そのような声が世界中で響き渡る。

 ランマスパイメンの社長の信念が世界中に浸透しようとしていた。

 

 そんな数多くいるアウリンコのプレイヤーの中に、ハイカラとプメールがいる。

 

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Amber 二階堂 @Riozutomo800

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