ぼくはおじいさんの弟子になる!

高秀恵子

ぼくはおじいさんの弟子になる!

太朗くんはさっきから、なぞのお店の前で、うろうろしています。

お店のやねのかんばんには『やきそば おにぎり まんじゅう たなかや』と書いてあります。

(でもこのお店は、やっているのかなあ?)

まちの新しいビルの中に、そのお店は2かいだてです。そして、かんばんも、店の入り口のガラス戸も、とても古くさいのです。

(思いきって、中に入ってみようっと)

 太朗くんの気ぶんは、知らない世界をたびする勇者でした。そして、古くてふしぎなお店のドアを開けました。

(せまいお店だな……)

テーブルには、チェックもようのテーブルかけが、かかっています。それから木のいすがありました。

お店のすみでは、木のおなべが白いゆげをたてています。そして、白いぼうしに白い服を着たおじいさんが、いすのせにもたれて、ぐうぐうねています。

(このお店のコックさん? おこそうか?)

太朗くんはおじいさんに近よって、おじいさんの体をゆさぶりました。

「おじいさん、おじいさん」

「うえぇ……いらっしゃい」

おじいさんはいいます。めがねをかけた、やせたおじいさんです。

「かいたいものがあったら、先にあそこの自動はんばい機で、食券をかうんだなぁ……」

おじいさんはそういうとまた、ねむりました。

「おじいさん! なべを火にかけたままだよ! 木でできたなべだから火事になるよ!」

太朗くんが大声でいいました。おじいさんはようやく

「ああ、気もちよかった」

といって、おきました。そして     

「木でできたなべは『せいろ』という」

 といいながら、そのせいろの中から、おまんじゅうをとり出しました。茶色や緑色にピンクに白。色とりどりのおまんじゅうです。

火は止まっていました。

「ちょうどできあがったな。お前も一こ食べろ。おこしてくれたおれいに」

太朗くんは、ちょっとまよってから、ピンクのおまんじゅうを食べました。

そのおまんじゅうは、あたたかく、ふわふわのかわの中に、とろとろのあんこが、ぎっしりつまっています。太朗くんは、おしょうがつに食べたおまんじゅうよりも、ずっとおいしいと、思いました。

「昼ねしたら元気が出たわい。おばあさんが病院に入ってしまって、わし一人でお店をやって、つかれるんじゃ」

「ふ―ん」

太朗くんは、おじいさんのことが少しわかりました。

おじいさんはいいます。

「あそこにある食券の自動はんばいきは、いいやつだ。昼のいそがしいときも、わしはずっと、火の前にいられる」

「お昼、たいへんなの?」

太朗くんは聞きました。こんな古くて、あいているかどうかわからないお店に、お客さんは来るのかな?

「昼はたくさん来る。やきそばやおにぎりや赤飯を買いに。午後ももう少しすればお前ら子どもが、まんじゅうやおにぎりを買いにくる」

おじいさんは、そういいながらマスクをつけました。それから、とてもていねいに手をあらいます。そして、はかりで、こなやさとうを、はかり始めました。

「何しているの?」

「見りゃわかるだろう? まんじゅうを作っとるんじゃ」

太朗くんは、おじいさんがはたらくようすを見ました。水を入れてボウルのきじをこね、白いねんどみたいな、だんごを10こ。つづいて、れいぞうこから出したあんを、どろだんごみたいにまるめて10こ。そして、白いかわであんを包み、手の上でくるりと丸めると、おまんじゅうのでき上り。

「おまんじゅう作るの、うまいね」

するとおじいさんは顔を横にむけ

「わしを何者だと思っとる! この道50年いじょうの、りっぱな菓子しょくにんじゃ!」

と大声でどなります。顔を横にむけたのは、つばがおまんじゅうにとばないためだと、太朗くんにもわかりました。

おじいさんは、つぎつぎと色とりどりのおまんじゅうを、作ります。

(まるでまほうつかいだ!)

後はおまんじゅうを、せいろであたためるだけ。

太朗くんは、思いきっていってみました。

「ねえ……おじいさん……ぼくを弟子にしてよ。 ぼく、ほいく園のとき、どろだんご作りが、とっても、うまかったんだ」

「ほんとうににくたらしい子どもだ。まんじゅうは食べものだ。どろあそびなんぞ、けしからん!」

おじいさんはおこります。

「どろあそびなんて、もうしないもん。ぼく」

太朗くんもいいかえします。

するとお店に、赤ちゃんをだいた女の人が入って来て、おまんじゅうを買いました。おじいさんは、にこにことお客さんと話をしています。太朗くんは、すこしイライラしてきました。

お客さんが帰った後、太朗くんに

「お前は、学童ほいくとか、じゅくとかに行かないのか?」

とたずねました。

「ぼく、学童ほいくが大っきらい! ルールがとてもうるさいんだ」

「ふうん…………」

おじいさんはしばらくかんがえた後、めがねの下の目を大きく開けて

「じゃあ、お前を弟子にしてやる」

といってくれました。

「わあ、うれしいな」

太朗くんは大声でよろこびました。

「そのかわり、手はいつもきれいにすること、時間どおり来て時間どおり帰ること、わしの弟子であるならわしのいうことをよく聞くこと。それがじょうけんだ」

おじいさんは、はっきりした声でいいます。

太朗くんはたずねました。

「ねえ、土曜日曜も来てもいい? ぼくのパパとママは、しごとで、るすなんだ」

「お前さんの親のしごとは何なのか聞いていいか?」

こんどは、おじいさんがたずねます。

「パパもママも病院で、かんじゃさんのおせわをしているんだよ!」

「そうか……じゃあ親が、りょうほうとも、しごとだったら、ここに来い」

「わぁほんとう? ありがとう」

太朗くんは心からよろこびました。

「ところで、おじいさん。ここは何のお店なの? おにぎりもやきそばも、おまんじゅうも売っているけど」

「わしも何の店だか、わからなくなってしまったわ」

おじいさんと太朗くんは、顔を見合わせて、大わらいをしました。

 太朗くんは、あさってから、おじいさんの弟子になることにきまりました。前の日のうちに、おじいさんは、弟子のためのじゅんびするそうです。

 太朗くんはうれしくて、スキップをして家に帰りました。


 弟子入りの日、太朗くんは、学校からより道せず、お店に来ました。

「おじいさん、こんにちは!」

「よく来てくれたな」

 おじいさんも、にこにこしています。

 おじいさんは、太朗くんにまっ白なエプロンと白いぼうしを、きせてくれました。そしてマスクをつけて、足もとは白いサンダルをはくようにいいます。

「さいしょは手のあらい方から」

 おじいさんは、太朗くんをお店のおくにある、手あらい場にあんないしました。

「まず、お湯でよくあらう。つぎに、せっけんで、もこもこあわだてる。手のひら・手のこう・ゆびのあいだ・ゆびさき・おやゆび……さいごに手くび。20かぞえて、よくゆすぐ。これを3かい! そしてペーパータオルでふいて、さいごにアルコールしょうどく!」

「うわぁ、長い!」

「あたりまえじゃ。ここは食べものの店だからな」

 太朗くんは、いわれたとおりに手をあらいました。でも、こんなにていねいに、手をあらうのは、はじめて。

「まんじゅう作りはむずかしい。弟子はおにぎりからじゃ!」

 おじいさんは、ゆげの立つあたたかいごはんに、せんぷうきの風をかけながら、しゃもじでかきまわしています。

「おにぎりは、このプラスチックのかたをつかって、作るんじゃ」

 おじいさんは、三角のかたちが二つならんだ、おにぎりのかたを見せてくれました。

「このかたのうちがわに、ごはんを半分入れる。わしが、はかりの目もりに、しるしをつけておいた。ごはんを半分入れたら、この青い目もりまで、ごはんが入っているか、たしかめる」

 おじいさんは、ごはんをへらで、すくって入れました。そしてはかりではかると、青い目もりのところにピタっと止まりました。

「つぎに、スプーンでくぼみを作って、すりつぶしたうめぼしを、スプーン一ぱい入れる。それからまた……こんどは赤い目もりのところまでごはんを入れる。そしてこちらの、おしがたでごはんを、しっかり力を入れておす……おしがたをはずして、ひっくりかえして、かたのうらに、小さなぴらぴらがあるじゃろ? そこをおして、おにぎりをかたから出すと、はいできあがり」

 太朗くんは、ほいく園でのねんど細工を思い出しました。そして

(これなら、むずかしくないさ)

 と思いました。

「ごはんが目もりより多かったり少なかったりすれば、へらでかげんするんじゃよ」

 おじいさんは、つけたします。

 太朗くんのおにぎり作り、はじまり!

 でもごはんを、目もりのとおりに入れるのはたいへん。目もりをすぎたり、たりなかったり。そしてなかみを入れ、ごはんをまた、くろうして入れ、かたをおしがたでおしました。

「もっと力を入れて、おすのじゃあ!」

 おじいさんがいいます。ぎゅうぎゅう。ほんとうに力を入れて、おしました。そして、かたから、おにぎりを出しました。

「でかしたぞ。つぎはカバーをつけるんじゃ」

 おじいさんは、太朗くんが見たこともない、うすい四角のとうめいなものを見せました。中に黒いのりが入っています。

「これでつつめば、コンビニのおにぎりみたいに、のりがつくんじゃよ。こうしてつつんで……そしてシールをはるんじゃ」

 そばにある小さなきかいから、その日の日づけが書いたシールが出てきました。

「それから『うめ』と書いたシールをはって、さいごにこのシールをはる」

 シールには、『おやつは たなかや』とでんわばんごうが、書いてあります。でも、太朗くんは、おにぎりにカバーをかぶせることも、シールをはることも、うまくできません。

「しかたがない。これはわしがやる。お前はおにぎりを作れ」

 太朗くんがうめぼしおにぎりを10こ作りおわると、おじいさんは、つぎにこんぶのつくだにを持ってきました。おなじように10このおにぎりを作ります。それがおわれば、おかかです。

 太朗くんは、おにぎり作りを続けます。太朗くんのむねは、どきどきしました。そして、おにぎりを作っている間は、いきをしていないような気すらしました。

 ようやく、ぜんぶのおにぎりができて、ごはんおけの中はからっぽに。太朗くんは、大きくいきをしました。

 気もちがおちつくと、おじいさんは、やきそばをやいています。女の人のお客さんが、お店の中にいました。

 おじいさんは

「お前がおにぎりをにぎっている間に、3人のお客が、お前のおにぎりを買っていったよ」

 といいます。

「つかれただろう。後でジュースを飲ませてやる」

 おじいさんは、やきそばをケースにつめながら、いいます。

「かわいい売り子さんね」

 お客さんが、いいます。

「いや、わしの弟子じゃ」

 おじいさんは、うれしそうにいって、太朗くんのほうを見ました。太朗くんはむねが、ぽかぽかするのを感じました。

 その日から、太朗くんは毎日おにぎり作り。それが終われば食器あらいです。そして夕方の5時には、ジュースを飲んで、おにぎりかおまんじゅうを、1つ食べて帰ります。

太朗くんは、ほうかごが楽しみになりました。なにしろ太朗くんが作ったおにぎりを、お客さんが食べてくれるのです!

そしてパパもママもおしごとがある、日曜日がやってきました。弟子になったことは、パパとママには、ないしょです。

 

日曜日は、朝の8時から、はじまります。

「おはようございます!」

 太朗くんが元気よくお店に入ると、お客さんがもう、いました。

「おはよう、小さなお弟子さん」

 おじいさんがいいます。

 太朗くんが、おにぎりのケースを見ると、おにぎりがたくさん、ならんでいます。そして、おにぎりのしゅるいがふえていて、びっくり。しゃけ・めんたいこ・のざわなつけ。さらに赤飯と五目おこわのおにぎりまで!

「まだまだおにぎり作りじゃよ。手をあらっておいでな……さあ、はじめよう!」

 おじいさんは、ごはんにせんぷうきの風をあてながら、やいてほぐしたしゃけをまぜています。太朗くんはおにぎりをぎゅうぎゅうぎゅう。

 おにぎりは、作るとすぐに、つぎからつぎへと売れていきます。太朗くんはとても、とくいな気もちになりました。

だけど、すいとうを持った親子が、おにぎりを買うのを見ると、すこしだけ、さみしくなります。

 太朗くんがおにぎりをつくるそばで、おじいさんはキャベツを切ったり、おにぎりにカバーやシールをつけたり、おにぎりのごはんをよういしたり、お客さんのあいてをしたり、大いそがし。

 そしてお昼になりました。こんどは、やきそばを買いに来るお客さんがやって来ます。

「おい、お前。じゃまをしないのも弟子のしごとの一つだ。あそこのいすにすわって、昼めしを食べておれ」

 おじいさんがいいます。おじいさんは、食券を見ながら、つぎからつぎへと、そばをやきます。

「はい、50番。ぶたやきそば・ソース味・ねぎなし1人前、できあがり~」

「つぎのお客さん、51番。イカやきそば・しおあじ・ねぎ入り・3人前できあがり~」

 おじいさんは、もうスピードで、そばをやきあげます。

 太朗くんは、ママの作ったサンドイッチを食べながら、だんだんねむくなりました。


 気がつくと、太朗くんはたたみのへやで、毛布をかぶってねていました。

「ほんとうに、いつもありがとう」

 おじいさんがいいます。そして、小さなふくろに入ったお菓子を見せてくれました。

「わしの作ったかりんとうと、おばあさんの作ったクッキーじゃ」

かりんとうは、黒だけでなく、白やピンクや緑色のかりんとうもあります。そしてクッキーは、どうぶつのかたちをしていて、とてもかわいいのです。

太朗くんは、食べるのが、もったいない気がしました。

「おじいさん、かりんとうも作れるの? おばあさんもお菓子を作るの?」

「おばあさんは、ケーキやクッキーが、とくいじゃよ。わしはせんべいや、あめも作る」

 へえ、ふうふそろって、おやつのまほうつかいなんだ!

「おばあさんが、病院から帰ってきた。あしたからいっしょにはたらくよ。お店の中でも食べられるようにする。……今は持ち帰りしかしてないが」

 太朗くんはとてもうれしくなりました。おばあさんって、どんな人だろう?

 すると、おじいさんは、へんなことをいい出しました。

「お前さんの弟子としてのしごとは、きょうでおわりじゃ」

「えっ?」

「お前さんが、もっと大きくなれば、また弟子にしてやる。今は学校の勉強をして、体をきたえなさい」

「……どうして? どうしてなの?」

 おじいさんは、それには答えず、とおくを見る目になりました。

「わしがお菓子の弟子になったころは、ほんとうにつらかった……毎朝、早くおきてそうじにせんたく。ちょっとしっぱいでも、しかられてな……」

 おじいさんはいいます。

「でもな。あしたから、まんじゅうやおにぎりを買いに来るのなら、OKだよ。ぜひ買いに来てくれたまえ、太朗くん」

「うん! ぼく、毎日買いに来る!」

 太朗くんは、明るくいいました。


そのあくる日、太朗くんはおじいさんのお店におやつを買いに、やってきました。だけど、お店のシャッターがおりています。シャッターのはりがみには『しばらくお店をお休みします』と書いてあります。

(こんどはおじいさんが、病気なのかな?)

 太朗くんは、心配してお店の前に立っていました。すると、さぎょう服をきたお兄さんが、太朗くんに

「ぼうや、このお店の人なら、やくしょの人につかまったよ。子どもをはたらかせていたからね」

「なに!?」

「小さな男の子がおにぎりを作っていたよね」

 ぼくのことだと、太朗くんは思いました。

(ぼくのせいで、おじいさんはけいさつにつかまったんだ……ぼくは、お弟子ごっこのつもりだったのに……)

 太朗くんは、なきそうになりながら家に帰りました。そして太朗くんは、家についたときには、すっかりべそをかいて、ないてしまいました。

 その日から、太朗くんは元気がありません。

 ママは、太朗くんのだいすきなスパゲティをつくってくれました。パパは、いちごのケーキを買ってくれました。

「なにか、学校で悪いことがあったの?」

と、パパもママもたずねます。

「何もないよ……」

 と、太朗くんは力なく、こたえました。

そして、おじいさんのお店はいつまでも、シャッターがおりたままでした。

 

 パパとママのりょうほうが、病院のおしごとがおそくなる日のことです。太朗くんは、子ども食堂で、夕ごはんを食べることになりました。

太朗くんが、子ども食堂に入ると、なんと、あのおじいさんが、エプロンすがたでいます!

「おじいさん!」

 太朗くんは、さけびました。 

「けいさつの、ろうやにいたのじゃないの!」

 太朗くんは、うれしくて大声でいいました。

「けいさつなんぞ、つかまっておらん!」

おじいさんも、まけずに大きな声でいいます。おじいさんは、ゼリーをたくさん、おぼんにのせて、くばっています。

「太朗くん。わしもしばらく病院にいたんじゃ。病院にとまって、体に悪いところがないか、しらべてもらったんじゃよ」

「病気?」

「どこも悪くはないさ。このとおりピンピンしておる! おばあさんも元気じゃよ」

 おじいさんは、うれしそうにいいます。

「わしは、ひと月に一回、ここでおてつだいを、することになってなぁ。みんなでお菓子を作るんじゃよ」

「わあ、ほんとう?」

 太朗くんは、おじいさんにハグしました。

「おいおい。ハグはうれしいが、わしがおぼんをおとしそうになる。みんなで作ったゼリーじゃよ」

 太朗くんは、おじいさんからはなれました。

「おじいさんの作るやきそばは、とてもおいしいの。わたしも、ママの帰りがおそいときに、買いにいくの」

「ぼくは、じゅくのあるときは、おじいさんのおにぎりを買うんだ。おにぎりは、どこのコンビニのものより、おいしいんだ」

 太朗くんの近くにいた、子どもたちが、そう話します。

「えへん。ぼくもよく知っているよ。おじいさんは、あっというまにおまんじゅうを作るんだ。かりんとうもせんべいも、作れるんだよ。おじいさんは、おやつのまほうつかいさ!」

 そして、太朗くんはいいました。

「ぼくは、まほうつかいの、弟子だったんだ!」

 夕ごはんを食べおわると、おじいさんが、やってきました。

「ねえ、おじいさん。これからも、来てくれるんだね」

「まあ、お店もいそがしいから、ときどきだけどな」

「おじいさん、お菓子のつくりかたを教えてよね! かりんとうも、せんべいも!」

「おいおい、そんなむずかしいお菓子はまだだよ。はじめはみんなが作れる、パンケーキやおだんごさ」

 気がつけば、おじいさんのまわりに、子どもたちがあつまっていました。

「おじいさんのゼリーは、とってもおいしかったわ!」

「ぼくもおじいさんのおまんじゅうが大すき。おまんじゅうをいっしょに作りたいなあ」

 おじいさんは、大もてです。

 そして太朗くんはいいました。

「ぼくはおじいさんの一ばんの弟子になる!」


            *      *


 それから十年後のことです。太朗くんは大きくなりました。そして、とても大きな大きなまちの、お菓子作りの学校にかよっています。太朗くんは、おじいさんに手紙を書きました。

『はいけい おじいさん おばあさん。ぼくは学校で、パンとケーキと和菓子の勉強をしています。毎日こなをこねては、焼いたり蒸したりしています。学校をそつぎょうすれば、大きいりっぱなお店で、はたらくよていです。そして、おじいさんのお店に帰って来て、おじいさんの弟子になります。それまで、おじいさんもおばあさんも、元気でいて下さい。かしこ』

 おじいさんは太朗くんの手紙を読んで、がっかりしました。

「太朗くんは、まだ、わしの弟子になりたいという。せっかく大きなまちで、勉強しているのに。わしよりも、もっともっと、うでもセンスもいい人がいるのに。なんでわしの、小さなお店の弟子になりたいんじゃ!」

 でも、おばあさんはいいました。

「太朗くんが、そういってくれるのは、うれしいわ。太朗くんが、この店にもどって来るまで、わたしたちは元気でいましょうよ」

 お店では、せいろが白いゆげをたてています。                (了)    

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