アルカディアワールド

@SparkOfLife

第一話

「「エラー、エラー、マスター権限を確認できません。」」


「…は? なぜだ、なぜ"ルナ"のマスター権限が移行されている!.....」


ま、まさか...


和村湊は、そこのテレビに目を移す。


「どのニュースを見てもあのクソ野郎のことしか書いてない!」


何が天才リアム・ペンブルック博士だ、何が神脳だ、ふざけるなルナを作ったのは俺だ。


『アルカディアワールド発売まで、あと二日、全国から大勢のユーザーが一般公開の日をいまかといまかと待ち望んでいます。』


『アルカディアワールドは、人工知能AI、Luna(ルナ)によって作られた、世界初の超感覚没入型ゲーム。そのゲームを手に入れようと、予約は、なんと1か月待ち。』


『アルカディアワールド開発責任者、リアム博士によると、人工知能AI Lunaは、リアム博士自身の知能データをコピーさらにより知能を発展させるように開発された人間に限りなく近いAIとのことです。』


違う、何もかもそいつのでまかせだ!


ルナを生み出したのは俺だ!!


『リアム博士は、このプロジェクトの成功を機に、人工知能AI Lunaをゲーム事業への利用にとどめておくのではなく、アルネットオンライン社は、軍事産業への利用も視野に入れていると述べられていました。』


違う、俺はそんなことのためにルナを生み出したのでは決してない!


『私のルナは、我が社のAIであり、我が社にとっての誇りです。』


違う、ルミナスは決して誰のものでもない!


違う、違う、違うふざけるな!


薄暗い部屋の中、ただそれを見つめることしかできなかった……。


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―――二週間前


「おはようございまーす、先輩」


俺こと和村湊は、この会社の研究要員としての社員であり、一応、AI開発部門の管理部長で、こいつの名前は、五十嵐甲斐。いつも絡んでくる、結構だるいが役に立つ後輩である。


「おはよう」


「先輩は、今日も元気ないっすねー」


「お前は、いつも元気だな」


「当たり前すよ、というか先輩、昨日の最近有名なドラマ、”人がサルになった日”見ました?ちょーおもろかったすよ、まじで」


「お前なぁー、俺がそんなもの見る時間あると思うか?」


「ないっすねー。そろそろ、その不健康な生活辞めたらどうっすか?」


「それは、そうと甲斐、昨日任せていた調査書類は出来上がったのか?」


「ああ、はい、これでいいっすか?」


うーん、やっぱり、役にはたつんだよなぁー。


「まぁ、完璧だ。それじゃ、昨日に引き続き、ルナのセキュリティーチェック頼めるか?」


「了解っす。」


そう言って、甲斐は、セキュリティールームに向かっていた。


「さぁて、ワールドレコードの修正しますか」


アルカディアワールド発売まで残り数日だ。時間が惜しい、それになりより、一番完成を楽しみにしているのは、俺自身だ。


この作業のあとは......そうだな、九条さんに報告書をもっていかないとな。


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「もう夕方かぁ、さすがに、報告書もっていかないとな」


時間がたつのは早い、特に熱中していると。


そう思い、うちの会社の技術開発総監督である九条玲奈のもとへ報告書を渡すために研究室を出ようとしたところ...


ガチャリ、


「えっと...監督」


「和村さん、まだ残っていたのですか?」


提出が遅れたことで怒りに来たのか?と思ったが、そうでもないらしい。


―――九条玲奈


名家、九条家のご令嬢である。その気品のある立ち振る舞いと誰でも分け隔てなく接する姿から男女問わず人気がある。


九条さんとは、会社設立の時から関わりがある。落ちこぼれて、何もする気が起きなかった時の自分を気にかけ、たすけてくれた恩人でもある。


元々、この会社の設立や研究費などの財源のほとんどが九条家からである。


実際、この会社の実権のほとんどが九条家にあると言っても良い。


九条さんがこの会社のCIOをしてるのも、九条さんが実務経験を詰めれるよう九条家の案だ。


「え、ええ、あのこの報告書なんですが、すみません少し遅れてしまって。」


「大丈夫ですよ、優先度的にはそう高いものでもなかったですし。」


よかった、大丈夫だったらしい。


「それはそれとして、そろそろ監督というのやめてもらえますか?恥ずかしいのですが。」


部署内で監督と言うのは、俺だけだが、監督と言うのが長い間で身についてしまったのだから仕方ない。


「あと、最近、睡眠をとってないのではないですか?隈が凄いですよ。」


確かに、最近は帰宅するのも遅い。まぁ独身だし、誰に心配をかけるもないんだけどね。


「もうすぐ、完成なので自分も楽しみなんですよ。」


「働くことはいいことですが、働きすぎも生産性が落ちるだけです。今日は、早く帰って、しっかり休息をとってください。和村さんに、今体調を崩されると、会社の負担になりますので。」


「ええ、わかりました。気お付けます。」


まぁ、きりの良いところで帰ろう。


「それより、何か研究室に用事でもあるのですか?」


普段、監督は研究室にくることはない。何か用事があるのは、大体こちら側なのでいつもこちらが彼女のもとへ足を運んでいる。


「ええ、ルナに関する話で明良さんとお話がありまして、ここに来るとの話だったので――」


――ガチャリ、


そんな、話をしていると明良さんが研究室に入ってきた。


「湊、どうだ、調子は?」


「まぁまぁです。」


「なんだ、まぁまぁって、まっ、元気そうで何よりだ。」


「それはそうと、湊、AIルナの開発、順調に進んでるか?」


「ええ、明良さん、順調ですよ。」


東条明良、大手ゲーム会社アルネットオンラインの若社長であり、ゲーム業界では、名前を知らない人がいないほどの有名人だ。そして、九条さん同様、行く当てのない俺に仕事を与えてくれた人である。


現在、この会社は、大きな転換期のさなかにある。


名家である、九条家からの資金支援も受け、会社の経営方針や会社のありようが今までとは大きく変わってきている。


特に、今、俺たちが総力を挙げて挑んでいるプロジェクトは、人類の娯楽史を変えるものになるだろう。


これが、完成すれば、世界の見方が一変する。


超感覚没入型の機器、NeuroLink System Device(略してNSD)のリリースとともに売り出すゲーム、アルカディアワールドの開発・研究をしている。


過去、仮想空間没入型のゲームは、できている


かつては、夢物語であった、人間の脳の情報をデータ化する技術が今、現代では当たり前になりつつある。


簡易的だが、脳の記憶の一部をバックアップするなどは、もうすでにできるような世界になったのだ。


その技術を利用してわが社が開発に成功したのが、NSDである。


NSDとは、人間の感覚神経の伝達信号をデータ化し、脳が発した信号をNSDがそして、NSDが発した信号を脳が受け取る。


このように、神経データのやり取りを可能にするための装置である。


それにより、触った感覚から嗅覚まで、まるで現実世界と同様の感覚がゲーム内で味わえるというものである。


過去、仮想空間没入型のゲームは、できている。しかしながら、現実と同様の感覚というものは全くなく、やはりリアルとのギャップが存在していた。


アルカディアワールドは、基礎段階を除き、現在開発中の最新AIルナが管理者として創造・制御するリアル没入型ゲームである。


もし、無事にこのプロジェクトが成功したなら、世界初のNSDを利用したゲームとなる。


人工知能Artemis Lunaria(アルテミス・ルナリア)略称Lunaは、俺のすべての知能データをニューラルコア(Lunaの脳内)にコピーした人工知能である。


これにより、俺が今まで培ってきた経験や知識、技術なんかは、すべて受け継がれている。


さらに、ルナは、世界中の情報源にアクセスできそこから自由に学ぶことができる。さらには、自身で問題提起、解決、応用までやってのけるのだ。


その成長速度は、人間とは違い恐ろしく速い。


ルナが知能学習に集中すれば、簡単に表すならば、人間が一つ物事を学ぶのに対し、ルナは、10億もの情報データを学ぶ。そのくらい差があるのだ。


「今のルナから見れば俺の知能はまるで赤ん坊のように見えるかもしれませんね。」


今段階、ルナには知能学習に集中してもらっている。


数日前までは、俺の知能を基盤としていたこともあり、まだルナの思考力についていけるレベルだったのだが、今では、俺の知能の遥かに上回ってしまった。


今のルナは、どこの国のどんなに大きい図書館でさえ、ルナの知識量には、及ばないだろう。


「ところで、明良さん、監督と話があるんですよね?こんなところで無駄骨さいてていいんですか?」


「ああ、確かに九条、会議室の予約してあるからそっちで話そう。」


「ああ、あと、この技術は、日本、いや世界をすばらしく発展に導いてくれる代物だ。

君は理解していると思うがこのことは開発部門の研究者の内だけで、他の誰にも、たとえ身内であっても他言禁止だ。

こういう物は、世間に公開するにはタイミングというものがあるんだ。」


そう言い残し、明良さんと九条さんは、研究室を出ていった。


ちらっと見えた明良さんの目は、どこか笑っていった。


この時、俺は、気づくべきだった。


俺は、想像以上にこの世を揺るがすほどの悲劇を世界中にもたらすこととなる、とんでもないものを作ってしまったことに...。


そして、私は、東条明良の手のひらの上で転がされていたということに…。









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