第6話「儚く美しい花」

私は罰のために幸せを拒絶するのに対し、姉は幸せを必要としていなかった。


それが悔しくて泣く妹でしかないのに、姉は微笑んで抱きしめてくれた。


「永遠はね、慣れなの。だから醜くなっても気づくことが出来ない。その生き方に慣れてしまうから。私はもう、自分が何を望んでいたかさえ思い出せない」


「お姉ちゃんは……!」


言葉が出なかった。


姉はたしかに彼に恋をしていたのに、今の姉は彼を必要としていない。


そして何より姉に彼を求めるよう強要する自分が嫌だった。


「仁頼くん。もし一つ、私が望むことがあれば妹の幸せよ」


「あなたは醜くない」


「ふふ、ありがとう。……だからいいやって、思ったのかな」


もうそんなことも忘れたけれど、と姉は消え入るような声で呟いた。


「たとえ一瞬だとしても、どんな風に生きたいかを考えて。行動して。本当に幸せになりたいと願うのなら、きっとそれは美しいと誰もが認めるものだから」


自ら不幸になろうとしないで。


あなたはとてもキレイなのだから。


そう言ってくれた姉に、私も同じ言葉を返したかった。


でもそれを姉は聞いたところで何も疑問に思わない。


それだけ永遠は姉を鈍らせてしまったと悟り、私は涙を拭って姉の頬に触れた。


「大好き、お姉ちゃん」


「私も大好きよ」


ざわっと桜が震え、花吹雪が襲いかかってくる。


姉の微笑みを見て、だんだんと景色が遠ざかっていくことに気づく。


「お姉ちゃん!!」


「私を助けたいと想ってくれてありがとう。いつもあなたを想ってるわ」


「私も……私もずっとお姉ちゃんを想ってる! ずっと、ずっとだよ!」


やっぱり姉は微笑んでいて。


それをとてもキレイだと思った私は精一杯の微笑みを返した。



***



目を覚ませば山のふもとに戻っていた。


「起きた?」


身体を起こせば真下に彼がいた。


私は驚いて真っ赤になった顔を隠し、距離をとる。


それを彼は容赦なく追いかけ、手を掴んでニヤリと笑った。


「琴葉のこと、好きなんだけど。まだダメ?」


変わらないことがあるとすれば、彼のあきらめない心だ。


それが愛なのか執着なのかはわからないが、彼との幸せを望んでみてもいいのかもしれない。



「いいよ。どれくらい生きられるかわからないけど、あなたといたいわ」


「そっか。ならよかった」


イタズラに彼が私の腰に手を回し、引き寄せて唇を啄んだ。


惑わされていたのは私も同じだと、どうにでもなれといった気持ちで彼の後頭部に手を回した。



短く儚い命だとしても、幸せをあきらめられない。


誰かを愛したいし、愛されたい。


その本能からは逃げられないのだと、私は目の前の彼にいとおしさを感じて思い知った。



まだ姉の心はわからない。


私が儚く限りある命で、姉は永遠のような時間をもつ。


どうして永遠の象徴として姉が居続けるのか。


私は何度も生きては死に、また生まれてくるのか。


その答えはまだまだ知れそうにない。


ただ願わくば、いつか辿りつく永遠が美しく咲き誇りますように。



【了】

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死神と呼ばれた娘と永遠の花 泉花 @senka_hoshina

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