マーモット

鈴鳴さくら

好き

読者さまは自分以外に、誰も納得してくれなさそうな理由で好きなものってありますか。

わたしはあります。マーモットという動物です。

マーモットとは、リス科の大形げっ歯類の動物です。大きいリスのようなルックスで、ふくよかなボディーをたぷたぷ揺らして仲間ととっくみあいの喧嘩する姿は一時期snsでバズりました。

個人的には、マーモットは獰猛なんだな…仲間内でも争う修羅の生物よ…と引きました。しかしなぜかわたしの人差し指はSNSでマーモットの写真や動画を載せている動物園のアカウント、手作りのマーモットグッズを販売するアーティストのアカウント、マーモットのファンアートを生み出すアカウントをフォローしてまわりました。時間があればマーモットを追ってしまう。

首を傾げながら、マーモットに魅了された理由を暫く考えました。

現在マーモットを推している状態です。しかしわたしは本能の底からふるえるような共感がわかないと推さない女…つまりこじらせて厄介オタクなのです。

確かにマーモットはかわいい。キャベツをちまちま食べる愛らしい姿は、まるで毛むくじゃらの妖精です。

しかし、こじらせ厄介オタクが軽率に好きになることはないのです…。

そして、気づきました。

わたしの中では、とあることとマーモットが結びついていたのです。

改めて実感しわたしは胸に手を当て「ぐう」と唸りました。マーモットを見つめるわたしの瞳の中にハートが浮かんでいることでしょう。


え?

とあることとはなにか…?

OK!

お教えしましょう。


(妄想はじまり)

隣の席の女子は、なんというか気性が荒い。口喧嘩で常に誰かを言い負かしており、一部のクラスメイトから反感を買っているが当の本人はどこ吹く風。あんま関わりたくねー。大して可愛くないし。担任はやく席替えしろ。そう思っていた。

あの日、一限目が始まる直前に

隣の席の女子が消しゴム忘れたから貸してよってわざわざ机くっつけてきた。

前の方の席のおれたちにイレギュラーが発生してもクラスメイトはなじってこないし教室の雰囲気は和やかでわるくないにおれは頭を掻きながら小っ恥ずかしくてからだをひねっている。にもかかわらず、隣の女子の威風堂々たる姿、敗北した気になる。机のサイドフックに掛かったシューズバッグをしぶしぶ反対側へ移動させながら思う、ああ嫌だ。

授業がはじまってすぐ、これ消しゴムを使うタイミングが被ってるて瞬間で隣の席の女子は一重のアーモンド形の瞳でそろりとおれの様子を伺って伸ばした手を引っ込めた。

俺の消しゴムなんだから、俺がはじめに使うのは当たり前だろ。

「いいよ、使いなよ」咄嗟に口から滑らかに出た言葉は思考とは真逆の意味を成していた。断じてカッコつけてるわけじゃない。ただ隣の席の女子の普段と違った一面が物珍しくて、譲ってやってもいい気分になっただけだ。

「ありがと」

申し訳なさそうに消しゴムを受け取ったとき細くてすらりとした女子の指と触れる。ひんやりとしていてほんの少し動揺した。

ノートのまちがえた文字をふたもじ、控えめに消す隣の席の女子の顔をはじめて近くで見るはめになる。

近くで見たらぶさいくではないな… 



結局、1日中机はくっついたままだった。

さすがに、昼休憩中も机をくっつけていたらクラスメイトにからかわれたけど隣の席の女子がへらりと笑いながら「じゃあおまえらの誰かが消しゴムち切ってわたしに寄越せや」と低い声ですごんだので、クラスメイトは蜘蛛の子を散らすように退散した。

おっかねえけど、それより隣の席の女子が昼メシ用にファミマで買ったらしいメロンパンを両手で掴んでちまちま食べてんのにパン屑こぼさないの器用だなと思って見ていた。

(妄想おわり)



…はい、これらは“あんま知らないし興味なかったマーモットのふいに見せる一面や仕草に惹かれてしまう人間の心理”になぞらえて


隣の席の女子マーモット化現象と呼びます。わたしがひそかに勝手に呼んでます。妄想ですが、どこかの教室でこういうイベントがあってもおかしくないはず。


つまり妄想とマーモットが結びついたということです。


マーモットは青春の香りと形をしているので好きです。



あなたさまは、わたしがマーモットが好きな理由に納得してくださいますか。


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マーモット 鈴鳴さくら @sakura3dayo

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