俺は冒険者から人形魔になり変わる

白斗 呂

第1話 俺が最強になったわけ

あるダンジョンの深層。五人の冒険者たちが、巨大なドラゴンと死闘を繰り広げていた。


ドラゴンが大きく息を吸い込むと、灼熱の炎を吐き出す。だが、一人のガタイのいい男が大盾を構え、その炎を正面から受け止めた。


「ミリア!」


大盾の男が叫ぶ。呼応するように、美しい金髪を靡かせた一人の女性が跳躍し、レイピアを突き出す。


「はぁあああ!」


レイピアはドラゴンの右目に突き刺さった。ドラゴンは狂ったように頭を振り回し、レイピアを弾こうとする。しかし彼女はさらに強く押し込み、抜かせない。


大量の血が噴き出す。だが、それでもドラゴンは炎を吐こうとした。


その瞬間、大剣を担いだ男と、細身の体で二本の短剣を両手に構えた男が、同時にドラゴンの足元へ切りかかった。


ズバァァ!!


大剣の男が放つ一撃が、重い轟音となって響き渡る。


シャキシャキ!


短剣の男の方は、鋭く軽快な音を何度も響かせた。


ドラゴンはバランスを崩し、前のめりに倒れ込む。そして、倒れかけた頭部めがけて、ミリアのレイピアの先端から眩い閃光が走った。


ドラゴンは低く唸り、そのまま地面に伏す。

ひ弱そうな少年──サクト=ローヴァは、ドラゴンの心臓の鼓動が止まったのを確認し、仲間に共有した。


「皆さん、ドラゴン討伐は成功です!」


その声を聞いた四人は歓声を上げた。
大剣の男──ゴン=ザファルは大剣を背に預け、腰に手を当て豪快に笑う。


「なぁははは! これも戦士である俺のおかげだな!」


すぐさま短剣の男──ヒグノ=ヴォンドが鋭く反論する。


「いやいや、ミリアちゃんと俺を忘れんなよ! スキルのポイズンで地道に削ってたのは俺だからな!」


その言い合いに、大盾の男──アトラス=ジャレーが割って入り、二人をなだめた。


「まぁ、落ち着け。これはみんなで協力して勝ち取った結果だろ。争っても意味ないさ」


レイピア使いの彼女──ミリア=オリーもアトラスに頷く。


「ええ、これはみんなで取った勝利よ」


争っていた二人は、渋々ながらも納得した。


「へいへい、そうだな。みんなで取った勝利だよ……一人を除いて」


ヒグノがからかうようにサクトを見る。他の全員も、それにつられるように彼へ視線を向けた。


「ははは……ごめん。役に立てなくて……」


サクトは、少し悲しげな声で言葉を絞り出す。
ミリアが彼のそばに歩み寄り、心配そうに声をかけた。


「大丈夫よ、サクト。あなたはちゃんと役に立ってるわ」


そしてミリアは、少し険しい表情のままヒグノを睨む。


「どうしてそんなことを言うの? サクトに失礼じゃない!」


ヒグノは驚いたように眉を上げ、軽く謝った。

「ご、ごめんごめん。そんな怒らなくても……」


「大丈夫だよ、ミリア。僕はいいから……早く冒険者ギルドに戻ろ」


サクトがミリアの腕にそっと触れ、制止した。
その場の空気は、どこか冷え込んでいた。


ダンジョンを出て、冒険者ギルドに戻り、討伐報酬の硬貨を受け取る。だが戻った途端、周囲の冒険者たちから心無い言葉がサクトに浴びせられた。


「お、雑魚のG級じゃん」
「冒険者やめて、マジシャンにでもなりゃいいのに」


ミリアが周囲の連中を鋭く睨みつける。


「大丈夫だよ、ミリア。事実だからさ。僕のスキル、人形パペットは……最弱スキルだから」


ミリアは不満そうに俯いた。


サクトのスキル・人形は、人型の物体ならなんでも操れるのだが、そもそもそれは貴族の極楽用品で、マネキンや大きな人形となると貴族でも手が届かない。


冒険者がいくら儲かってもマネキンを買うことはできなかった。


この話は有名で、周囲の者から罵られるのは日常だった。


***


ある日、ヒグノたちはサクトを急遽呼び出した。サクトが集まったとき、ヒグノは開口一番に告げた。


「サクト、悪いけどチームから出ていってもらえるか?」


「え?」


サクトは意味が分からなかった。それに、リーダーでもないヒグノが命令口調で言うことも理解できなかった。


「なんで? リーダーはミリア——」

「チーム全員の総意だ。ミリアちゃんがリーダーとか今は関係ない」


絶望が心の底からジリジリと広がる。サクトは早口で理由を尋ねた。


「お前、役に立ったことがあるか? ダンジョンではお前は何もしていないじゃないか」


冷たい言葉がサクトにふりかかる。


「そういうことだから、すまねぇな」


アトラスが謝るが、そこに誠意は感じられなかった。ヒグノが短剣を鞘から抜き、サクトの喉元に刃を立てる。


「お前はチームメイトじゃなくなった。もう二度と俺らと関わるな」


そう冷たく言い捨て、ヒグノたちは去っていった。


サクトは涙を流しながらその場に立ち尽くす。ミリアは拳を強く握りながら去っていき、サクトは彼女の背中を見つめて悔し涙をこぼした。


***


路地を歩き、家へ帰る途中、サクトは後悔に沈んでいた。


(僕のスキルが弱いから、僕が弱いから……追放されたんだ。もし、それでも僕が無理にでも戦っていたら、追放されずに済んだかも)


どうすべきか悩み続け、やがて諦めの思考に落ちた。


「考えるだけ無駄か。弱くて何もできない僕のせいだから」


トボトボと歩くサクトの後ろに、突然一人のフードローブの老人が立っていた。顔はフードで隠れていて見えない。


「君、ちょっと待ちたまえ」


老人が声をかける。サクトは振り返り、不思議そうに「はい?」と返事をした。老人は尋ねる。


「君が、サクト=ローヴァで間違いないかね?」


「はい、僕がサクト=ローヴァですけど……あなたは一体?」


老人がフードを脱ぐ。中から、優しい顔つきをした八十歳ほどの皺の多い老人の顔が現れた。


「申し遅れた。私は『魔法神』と言う者だ。天界から舞い降りた神様だよ」


魔法神を名乗った老人は、サクトに指を向ける。


「君のその弱さ、無くしてあげようではないか。これは私の慈悲だ」


サクトは震えた。その言葉で、サクトは救われたように感じだからだ。老人の手から虹色の光が輝き出す。


「準備はいいかね? 早速始めるよ」


そう言って、老人はサクトの頭の上にポンと手を置いた。すると虹色の光がパッと消える。老人は手を引いた。


「さ、終わったよ。君に与えたのは新しいスキルだ」


「え? もう!? てか、新しいスキル! どんなのですか!」


サクトは驚きつつ喜ぶ。魔法神はゆっくり説明した。


「君のスキルは元のを合わせて5つとなった。まずは、魂収集ソウルコレクション魂付与ソウルリバース。これは相手の魂を奪えて、魂付与で奪った魂を物に与えることができる。あとはスキル、身体バフ忠誠スレイブだな」


「そんなにスキルが……ていうか体が軽い!」


サクトはぴょんぴょんと飛び跳ねる。魔法神は、魔術の呪文が刻まれた短刀をサクトに渡し、言い放つ。


「もうこれで君は最弱じゃない。あとは自分の好きに生きるといい。君のその力なら『人形魔ドールマンサー』という、人形を使う冒険者にもなれる」


老人は満足したように、その場を去ろうとした。


「それでは、また会う日まで」


「ありがとうございます!」


サクトは笑顔で老人を見送る。心の中で、これから何をしようか考えた。

(なんて、いい人なんだ! これからは好きなことだけして生きていこう! 自分がやりたいこと……そうだ)

その時、彼の表情には不気味な笑みが溢れ出した。サクトは短刀を握りしめ、老人へ歩み寄る。老人は背中を向けたまま歩いている。
次の瞬間――


グザッ。


サクトが老人を刺した。


「なぁ!? 何をして……」


さらに深く刺し、抜き、何度も何度も背中を刺す。


やがて老人は動かなくなった。


「俺は、世界征服をしてみたかったんだ!」


サクトが狂気的な笑い声を上げる。路地に響くその声は、まるで悪魔の声だった。そして、老人の死体に触れ、魂収集を発動させた。

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