第1話
私が彼と出会ったのは、大手男性アイドル事務所──株式会社ルミナスに新卒で入社した頃だった。
彼のマネージメントは、入社してからのおよそ一ヶ月半の教育期間がちょうど終了したときに私の初めての仕事として任された。
株式会社ルミナスである代表取締役社長、若林晶也から直々に彼の紹介を受けた。
「君にはまだデビュー前なんだけど、凄く未来あるソロアイドルのマネージャーを務めてもらうことにした。」
「ソロアイドルですか?」
当時のルミナスに所属していたタレントは、6、7人で結成されたアイドルグループが大半を占めていた。一人で活動するソロアイドルという存在自体、今の令和の時代には珍しかったので、そんなレアな…しかもデビュー前で未来有望なタレントのマネージャーができるなんて、と胸が躍った覚えがある。
「彼なんだがね」
そう言って、バインダーに挟まれた書類に目を通した。一番上に、恐らく私が担当するであろうタレントの写真が載っていた。
「浅倉…湊?」
「今年で彼は入社して12年が経つ。」
「12年…。」
当時の彼の年齢は、新卒だった私の二つ年上である24歳だった。それだけで、彼がどれほど幼い時から、多くの時間をこの業界に費やしてきたのかがわかった。
「デビューももうそろそろだと思うんがね…。」
「デビューのタイミングは社長が決められることではないんですか?」
「最終的な決定は私だよ。しかし、彼がデビューするかどうかはファンが決定を進める鍵になる。」
「ファンが?」
「どれだけの支持率があるか、ということだ。」
私は静かに手元の写真に目を落とした。セットがあまりされていない茶髪に、少し子供味が残る目元。綺麗な顔立ちだな、と男性には疎い私でも感じた。
社長から彼が午後に休憩に入ると聞き、その時間に合わせて、私は彼のダンススタジオに足を向けた。
ダンススタジオのガラス張りになっている扉を叩くと、扉の向こうの彼と目が合った。慌てたように扉の鍵を解錠すると、真っ直ぐに私を見つめて聞いてきた。
「もしかして新しいマネージャーさんですか?」
「はい、桜井莉緒と言います。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ。浅倉湊です。お願いします。」
一礼した頭を上げると、微笑んだ彼と目が合った。
それが私、桜井莉緒と未来の卵である浅倉湊の出会いだった。
消えていく光の先で、貴方を見つけた。 わなり @wakayumi
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