第34話
ライブハウスがやけに騒がしい。もう入りきらないほどに人が集まっている。
俺たちのライブ以外に、何か特別なイベントでもあっただろうか?
そう思った俺はスタッフさんに聞いてみた。
「今日って何かありましたっけ?お客さんがやけに多いような」
「え!知らないの?みんな君たちを見に来てるんだよ」
「高槻フェスであれだけのライブやってて、気づいてなかったのかい?」
スタッフさんは自慢げに俺たちに話し出す。
「フェスをみてファンになったって人が多くて、今日はみんな君たちを見にきてるんだよ。」
……まじか。
なんか緊張してきた。
そうこうしているうちにライブが始まった。
まずは俺たち、そのあとにミミさんたちの出番になる。
未来がいつものようにMCで観客に向けて話し出す。
「OK、ここでクールな新メンバーを紹介するぜ!ヴァイオリン!沙耶だっ!」
「うぉー!」「かわいいー!」
まずは神宮寺さんの紹介をすると、一部の観客が湧く。
観客席はややざわざわしているが、特に問題はない。演奏を聴けば必ず盛り上がる。
「じゃあ、今日も最高に楽しんでいきましょー!」
未来がそう叫ぶと、俺たちは演奏に入る。
まずはあいさつ代わりにいいやついきますか!
そう思い、前に出て激しいスラップでベースを鳴らす。お客さんたちがノリだしている。
いい感じ!そう思いながら、さらに演奏を激しくする。
神宮寺さんは?……いい感じだ。もともと緊張するような子じゃない。
いつも通りの演奏ができている、大丈夫だ。
天音もいつも通り、いやテンションが上がっている。
いつも以上に激しい演奏。バンドをやっている時の天音は本当にかっこいい。見た目は妖精だが、まさしくギターヒーローだ。
灯火はいつも通り、安定している。
こいつがリズムを乱したところは、ほとんど経験したことがない。
俺は結構テンションが上がってしまい、走ったりすることもたまにあるのだが。
俺が一番信頼できるドラマー。昔からいつもいつも、……本当に頼りになるやつだ。
ライブも中間ほどだ、未来が観客に向けて新曲の紹介をする。。
「次は、まだネットにも上がっていない新曲やります!」
「存分に驚いていってください!」
観客たちはおお、という感じでステージをみている。
……静かに、神宮司さんのヴァイオリンが高らかに、ロングトーンの音を響かせる。
さあいこうか、俺のベースと灯火のドラムが入りリズムを作る。
そして天音も前には出ずに、ギターでリズムを刻んでいる。
さあ、いけ!神宮司さんのヴァイオリンが表情を変える。
静かな音色から一転、激しく音を刻みだす。
その音がやんだ瞬間、俺と未来が力強く歌い始めた。
「~~~!」「~~~!」
そろそろ間奏が来る、天音も神宮司さんも笑ってる。
天音のギターが速弾きとタッピングで、神宮司さんに音をぶつける。
そして神宮司さんはその音に応えるようにヴァイオリンを鳴らす。
その音色は、遊んでいるかのように飛び跳ねる。
そして、ヴァイオリンのソロ、一気にヴァイオリンから激しい音が響きだす。
その音は激しいながらも繊細、とてもきれいな音色を奏でている。
いいじゃないか、さすがだよ。一緒に演奏している俺をも魅了する。
もっと、もっとこい!他の楽器も絶妙にかみ合ってる!
どうだ、最高に楽しいだろう。バンドのみんなで作り出す音は。観客の盛り上がりも最高潮だ。
このライブの一体感、神宮司さんが求めていた空間だろう!
「きゃー!」「最高ー!」「うぉー!」
曲が終わると同時に、観客たちがより一層叫びだす。
……神宮司さんはぽかんとしていた。
どうした、これが君の求めていたものだ。君が、俺たちが作った空間だ。
さぁ、まだまだこれからだよな、最高に盛り上げてやる。神宮司さんの音を聴かせてやれ!
「まだいけるよなー!?まだまだいくぞー!」
俺は、そう言って観客たちを盛り上げるのだった。
ツーマンライブが無事終わり、ミミさんに挨拶にいく。
「今日はお疲れさまでした」
「ねぇ、あのヴァイオリニスト、どっから見つけてきたの?」
「……さいっこうにかっこいいじゃない!」
ミミさんもライブ終わりでかなりテンションが高い。
俺は、高槻フェスを見てくれて一緒にやりたいと言ってくれたことを説明する。
「えー、うちらもフェス出てたのになー」
非常にうらやましそうにしている、が!もう神宮司さんは渡さない。
「絶対に渡しませんよ……?」
――
「お疲れさまでしたー!」
俺たちは片付けを終えて、ライブハウスを後にする。
まだ、ライブの熱が冷めていない。
それくらい今日のライブは最高だった。高槻フェスも凄かったが、やはりライブハウスでやるライブも最高に楽しい。
みんなで打ち上げのファミレスに行くことにした。
「今日は俺のおごりだ!存分に飲んで食ってくれ!」
バイトの給料が入ったばかりの俺は調子にのって、そんなことを口走ってしまった。
じゃあ、とみんなが結構なお値段の食べ物を注文していく。
……な、なんとか足りるはず。やや不安になってしまったが、打ち上げは盛り上がってなんぼだろう。
上品に食べている神宮司さんに話しかける。
「今日どうだった?バンドの魅力、知ってもらえたかな?」
「……わざわざ聞く必要ありますか?」
神宮司さんは笑顔でそう答える。
その笑顔が全てを物語っていた。今日のライブは最高だった。
神宮司さんもちゃんと感じてくれていたのだ。と思うと俺は最高に嬉しかった。
「こんな気持ちを知ってしまったら、もう天宮さん抜きでは満足できそうにありませんね」
「……あの日の責任、とってくれるんですよね?」
ふふっと、悪そうな顔をした神宮司さんが俺にそう言ったのであった。
灯火はやれやれといった様子であったが。
未来と天音から、
「どういうことですか!?あの日ってなんですか!?」
「あ、あの日……!?も、もしかして……!」
もの凄い勢いで責められるのであった。
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バンドで紡ぐイロトリドリノ音 緋色(ひいろ) @aketo6969
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