第5話 究極の決着

《 カードバトルを開始します。デッキを前に出してください 》


 機械的なアナウンスが流れ、2人は自らのデッキを前に出した。


《 デッキスキャン開始 》


 天井から赤いサーチビームが放たれ、2人が手に持つ自前のデッキに当たった。


《 スキャン終了。カードバトル開始。 先行は、伊集院 麗子 選手 》


 大空 天空と伊集院 麗子の前に、初期手札となる、1メートル程のホログラム映像のカードが5枚ずつ出現した。


「いくぞ、わたしのターンだ、ドロ――」


 腕を振り上げ、指をパチンと鳴らすと、ホログラム映像のカードが出現して、手札が6枚となった。

 人差し指で 銃を撃つ構えをとり、目の前に浮かぶ手札に触れる。


「呪文、《ナイトキングの称号》を発動――。3ターンの間、1ターンに1度しかできない召喚を、ナイト系モンスターに限り2体召喚できる」


 さらに人差し指で2枚の手札に触れていくと、手札は光となり放たれる。


「わたしは、ブレイドナイト2体を召喚する」


 フィールドに放たれた光の中から、剣を持つナイト系モンスター2体が姿を現した。


【 ブレイドナイト レベル6 属性 土 種族 ナイト族 】


「わたしのターンは終了よ」


 冷静沈着に天空は、相手のモンスターを観察していた。


「……ナイト系デッキの使用者か……」( パワータイプのモンスターも多いが、テクニックタイプの厄介なモンスターもいる、攻略難易度A+のデッキ…… )


 両手を広げて高らかに宣言する。


「さあ、大空 天空ァ! 君の力を、存分にわたしに見せてくれ!」


「ああ――いくぜ! オレのターン、ドロ――!」


 カードを引くモーションで腕を振ると、眼前に1メートル程のホロ手札が。

 開いた手でそれに触れる。


「オレは、アーツドラゴンを召喚――!」


 光となり天空の前に放たれ、小型の竜が出現した。


【 アーツドラゴン レベル4 属性 風 種族 ドラゴン族 】


「さらに、アーツドラゴンのモンスタースキルで、手札からドラゴン族モンスター1体を召喚する。 オレは『フュージョンドラゴン』を召喚!」


 天空のフィールドに、2体目のドラゴンが揃う。


【 フュージョンドラゴン レベル3 属性 水 種族 ドラゴン族 】


「そして、2体のドラゴン族モンスターを合体させ、ドラゴンアームマスターを合体召喚……!」


 2体のドラゴンが一つとなり、巨大な両腕を持つ戦竜が戦いの舞台に顕現した。


【 ドラゴンアームマスター レベル11 属性 火 種族 ドラゴン族 】


「ドラゴンアームマスターで、ブレイドナイトを攻撃! アームアタック!」


 攻撃宣言と同時に、麗子は人差し指で手札に触れる。


「わたしは呪文、《戦士の連携陣》を発動。わたしのフィールドにナイト系モンスターが2体いる場合、相手攻撃モンスター1体を破壊する」

  

 ブレイドナイトの巧みな連携攻撃が、ドラゴンアームマスターを強襲――。

 だが―――


「呪文 《ドラゴン族合体解除》!」


 呪文により、ドラゴンアームマスターは元の2体に分離――。

 連携攻撃はから振りに終わってしまう。


「……ほう。わたしの呪文を、合体解除で回避したか……」


「分離して召喚されたフュージョンドラゴンは、呪文効果で召喚されたとき、フィールドのモンスターと合体させることができる」


 アーツドラゴンとフュージョンドラゴンがまた一つと成り――。


「もう一度、ドラゴンアームマスターを合体召喚!」

 

「あははっ、やるわね。ナイスプレイングよ」


 剛腕の戦竜は再度 攻撃を仕掛ける。


「ドラゴンアームマスターは攻撃時、相手モンスター2体に同時攻撃できる……!」


 突進しながら両腕を大きく広げた。


「 ダブル ラリアット! 」 


 2体のナイトモンスターの首元に炸裂する。


「ブレイドナイト2体を破壊――! オレのターンは終了だ」


 うっとりとした表情で麗子は、対戦相手の天空を見つめていた。


「いいわぁ、君ぃ……。とってもわたし好みよぉ……。燃えてきたぁ……」


 激情を込めて、指をパチンと鳴らす。


「わたしのターン、ドロー。わたしは、デスナイト2体を召喚する」


 鎧を装着したゾンビモンスター2体がフィールドに。


【 デスナイト レベル5 属性 闇 種族 アンデッド族 】


「わたしのターンは終了よ」


 伊集院 麗子の行動に、天空は疑問を抱く。


(……また、攻撃も合体もさせずにターンを終了させた……? ということは――)


 思考をめぐらせ、カードを引くモーションをとった。


「オレのターン、ドロー!」


 戦況を分析する天空を、挑発するように笑いつける。


「さあ、どうする? あからさまなトラップがある状況で、君ならどう行動する?」


 気迫のこもった瞳をギラつかせ。


「決まってる! 正面から打ち砕く! ドラゴンアームマスタ――ッ! ダブルラリアットォォ――ッ!」


 剛腕を広げて突進した。

 

「呪文、《デスミサイル》――。この呪文は、フィールドにデスナイトが2体いるときに発動できる。 相手攻撃モンスター1体を破壊する!」


 デスナイト2体から、骨で造られたミサイルが発射され、ドラゴンアームマスターに迫る。


「オレは呪文――」


「――無駄よ!  デスミサイルには、回避系呪文は通用しない!」


 告げられた効果を否定する。


「――回避するつもりはない! 言ったろ――正面から打ち砕くと……!」


 闘志を込め、指先で手札に触れる。


「呪文 《ドラゴンの進化》を発動! オレのフィールドのドラゴンアームマスターを進化させる!」


 剛腕の戦竜の身体が紅く輝き――。


「 荒ぶる剛腕の竜王『ドラゴンアームキング』に進化――! 」


 進化途中の戦竜の肉体に、デスミサイルが――『 ボムッ ボムッ 』――と、連続で爆裂――。


 吹き荒れる爆風の中から――。


「む、無傷ッ!」


 超巨大な剛腕を持つ竜王が降臨した。


【 ドラゴンアームキング レベル13 属性 火 種族ドラゴン族 】


「ドラゴンアームキングは1ターンに一度だけ、『破壊呪文を無効化』できる……!」

 

 勢いよく指を差し――。


「いけェ、ドラゴンアームキング! ダブルラリアットバ――ストォォ――ッ!」


 剛腕の竜王の姿が一瞬にして消え、2体のナイトモンスターの前に瞬間移動のごとく現れ、高速のラリアットを喰らわせる。


「デスナイト2体を破壊……! ターン終了だ」


 自らのモンスターが2体も破壊されたというのに、麗子は優雅に微笑んでいた。


「ふふふっ。ありがとう、大空 天空。わたしのモンスターたちをすべて墓地に送ってくれて……。 わたしのターン、ドロー」


 そして、とっておきの『カード切り札』を使用する。


「呪文 《戦士たちの墓場》を発動……!」

 

 フィールドに4つの墓標が出現した。


「この呪文は、墓地にいるナイト系モンスターを合体素材にして、合体召喚を行える……」

 

 4つの墓標から魂が浮かび上がり――。


「現れなさい、【ジョーカーモンスター】 ――ナイトオブ・オーバーデス――!」


 魂は一つとなり、凶々しいオーラを放つ黒騎士がこの常世に生まれ堕ちた。


【 ナイトオブ・オーバーデス レベル16 属性 闇 種族 ナイト族 】


 緊張した面持ちで天空はつぶやいた。


「『ジョーカーモンスター』……。そっちも賭けにでたようだな……」


「そう、『ジョーカーモンスター』よ。カードバトル中1枚しか出せない特別なモンスター。 超強力な能力を持つ代わりに、破壊された場合、そのカードバトルは『無条件で負け』となってしまう『希望と絶望の象徴』。 あなた相手に小技は無用――。敗北すれすれの大技で一気に決める!」


 勢いよく手をかざし――。


「ナイトオブ・オーバーデス――! 攻撃ッ!」


 黒騎士の持つ常闇の剣が、黒炎を纏わせた。


「――魔剣技 ――『魔 を 断 つ 剛 剣ゴーストアンダーブレイカー』!」


 強力無比の斬撃が、剛腕の竜王を真っ二つに切り裂いた。


「ドラゴンアームキングを破壊……! ターン終了よ」


 副会長は期待する眼差しで――。


「さあ、みせてみなさい。あなたの崖っぷちのあがきを……。それを全部 わたしが受け止めてあげる!」


「ああ、見せつけてやるぜ――! ドラゴンの最期の断末魔をッ! オレのターン、ドロ――!」


 腕を振るモーションでカードを引き、天空も とっておきのカード切り札を使用する。


「オレは、呪文 《ドラゴンの究極進化》を発動――!」


 呪文発動とともに、円形闘技場の周りを超巨大な竜巻が包み込んだ。


「呪文効果により、墓地にいるドラゴンアームキングを墓地から召喚し、【ジョーカーモンスター】に進化させる……!」


 超巨大な竜巻は収縮していき2人を飲み込み、さらに収縮して、闘技場中央に超高密度な細長い竜巻が唸りを上げた。

 そして何事もなかったかのように消失し、その場には『凶暴な破壊竜』が誕生していた。


「ジョーカーモンスター、『ラストエンド・バーストドラゴン』に究極進化――!」


【 ラストエンド・バーストドラゴン レベル18 属性 光 種属 ドラゴン族 】


 圧倒的な存在感に、麗子はくすりと笑う。


「そう……。やっぱりあなたもジョーカーモンスターでくるのね?」


「ああァ! あんたの全力の想いを、全力で打ち砕く!」


 告白にも似た熱い宣言に、麗子の心を高ぶらせた。


「いいわ――! 打ち砕けるものなら、打ち砕いてみなさい! 大空 天空!」


 湧き立つ高揚感をたぎらせる麗子に、天空は最終指令を下す。


「ラストエンド・バーストドラゴン――攻撃ッ! ファイナルハイメガブラストォォォォ―――ッ!」


 破壊の力を凝縮させた竜の息吹ドラゴンブレスが、黒騎士に放たれた。


「ナイトオブ・オーバーデスの『アルティメットスキル』発動! 究極魔剣技 すべてを断つ炎獄呪殺剣オールオーバーデスブレイク!」


 ナイトオブ・オーバーデスのレベルが、ラストエンド・バーストドラゴンを上回った。

 だが、その行動は、カウンタースキルによって逆効果に終わる。


「ラストエンド・バーストドラゴンは、相手のスキルが発動した時、レベルを10アップさせる!」


 さらにレベルが上回り。


 ファイナルハイメガブラストが―――


 究極魔剣技 すべてを断つ炎獄呪殺剣オールオーバーデスブレイクと、激しくぶつかり合った。


 破壊の息吹きブレスが押し返し、黒騎士に直撃――。


 超爆風が闘技場に吹き荒れる。


「ジョーカーモンスター『ナイトオブ・オーバーデス』を破壊――! ――いや! 破壊されてない……!」


 大空 天空の瞳に映った――。巻き起こる爆煙の中から、黒騎士がボロボロの姿で現われる瞬間を――。


「ナイトオーバーデスのもう一つのアルティメットスキル『無神殻蔵の陣アートフィルター』。相手のあらゆる攻撃を一度だけ無効にする」


 満足そうに天空は微笑んだ。


「……最後の攻撃を防がれたか……。どうやらオレの負けのようだな……」


「いいえ、わたしの負けよ」


「?」


「このアルティメットスキルを使ったターン終了時に、ナイトオブ・オーバーデスはその力を使い果たし、破壊され墓地に送られる。そしてジョーカーモンスターが破壊されたとき、『無条件でわたしは負け』となる……」


 同じように微笑む麗子に、天空は告げる。


「なら、引きわけだな」


「え?」


「ラストエンド・バーストドラゴンは攻撃をしたターンの終了時、すべての力を燃やし尽くして破壊される……」


 2体のジョーカーモンスターの身体が静かに崩壊していった。

 決着がつき闘技場にアナウンスが流れる。


《 ジョーカールールが両者に適用され、このカードバトルは【引き分け】となります―― 》


「あははははっ! 楽しいカードバトルだったな!」


 闘技場の床に座り込んで大声で笑った。

 そんな天空に、副会長が。


「笑ってていいの?」


「ん?」


「試験の『合否』は気にならないの?」


「あっ! そうだった……! 引き分けの場合はどうなるんだ?」


 つめ寄る天空を焦らすように――。


「知りたい?」


 うんうんと頷いた。


「不合格だ」


「ガーン」


「なーんてね、嘘ぉ♪」


「へっ?」


 子供っぽく笑い。


「ふふふっ。というか、この場にいる『全員が合格』だ」


「はああああああッ!」


 度肝を抜かす天空に、いじわるな笑顔で。


「さすがにこれは、君でも予想外だったようだね。まあ、当然か。この最終試験は元々は無く、君のために行ったものだからね」


「ど、どういう事だ……?」


 困惑する天空の胸ぐらをつかんで、顔をぐいっと近づける。


「君という男の実力を計るため……そのための試験だったのさ」


「な、なんでそんな事を……?」


「君が将来、『伊集院家の当主』にふさわしい男か確かめるためだよ」


「お、オレが……伊集院家の当主に……? まったく意味がわからんが……?」


 さらなる困惑に襲われる天空に、照れた顔つきで瞳の奥をのぞき込んだ。


「わたしは君に……ずっと惚れていたということだよ……」


「ほ、惚れ――っ!  て、ずっと……? 今日初めて会ったばかりだろ?」


「いいや、君がチャンピオンと戦っていたときからずっとだよ……」


 茫然とする天空に、真っ赤な顔で宣言する。


「わたしの男になれ、大空 天空!」


「え、こと――」


「断ったら失格だ……」


「なッ!」


「なーんてね、ふふふっ」


 無邪気に笑い、キスができるくらいの距離に顔を近づける。


「わたしは、恋でもカードバトルでも負けるつもりはない。いつかおまえを必ず落としてみせる……」


 指先でつくったピストルで、心臓ハートをバンとつついた。

 顔を真っ赤にし――。


「……じゃあ……付き合います……」


「はああああァッ! なんでぇ? 早いぞぉ?」


 困惑する麗子の前でボソリと。


「いや……落とされてしまったので……」


 お互い顔を真っ赤にしてうつむいた。


 ――オレは今日、試験に合格した――


 ――そして、どうやら彼女もできてしまったようだ――

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