死が隣り合わせな日常

中田の刀な鷹

第一章 シズカ班

第1話 変態

「君が僕の初後輩か。なんや可愛い顔しとるやんけ……女の子ってのがポイント高いわ」


 ヘラヘラと笑いながら、男はそうやってうちに声をかけてきた。


 男の見た目は異様の一言で、右目には眼帯が、袖から漏れる肌にはおびただしい程の傷跡が見える。


「なんすかあんた。セクハラっスよ」

「謝るからその手に持ってる防犯ブザーしまってくれん?てかなんで持ってんねんそないなもん。見た感じ高校生やろ」

「お母さんが持たせてくるんスよ。そのお陰で今助かったっスけど」


 なんなんスかこのセクハラお兄さん。


「ここに来たからには『代行者』には会ったんやろ?」

「あー、あの人っスか?」


 変態お兄さんに言われてうちは昨日のことを思い出す。あれはうちが漫画を読んでた時──




「いやー、やっぱり最高っスね恋愛漫画は。うちもこんな恋愛してみたいもんっスよ」

『では叶えてあげましょう。なぁに少しばかり危険なだけでございます』

「……え?は!?だっ、誰っスか!?」

『■■に向かいなさい。それでは』

「えっちょっ」




「みたいな流れだったっスね」

「相変わらずゴミみたいな勧誘してんなぁ」


 何かを懐かしむように変態は遠くを見つめたかと思うと一転して真面目な顔でうちに問いかけてきた。


「悪いことは言わんから帰り。今なら間に合うから」

「……はぁ?呼ばれたから来ただけなんスけど」

「こっから先は知っちゃいけん領域や。知ったら最後、死ぬまで出られん」

「死、って……なんすか、それ」


 変なやつの説明によるとあの『代行者』と呼ばれる存在はなにかに適合する人間を探しており、うちはその適合者の一人。


 適合者になったが最後適合者以外の人の記憶から完全に抹消されてしまうらしい。


「ここまでが今言える全てや。ほら、帰った帰った。良い子は家で勉強でもしとき」


 恐らくここで帰れば、うちはいつもの日常に戻れるのだろう。けれどここで帰ってしまえば、うちは後悔してしまう気がするのだ。


 ……あんな場所には帰りたくないし。


 だから一歩、足を踏み出す。


「これやから若いもんは……僕は忠告したからな。3ヶ月も生き残れたら、美味い飯ご馳走したるわ」


 聞き捨てならなすぎる言葉が聞こえ反射的に後ろを振り向くと、そこには鉄の扉が鎮座していた。


「ようこそ【地球防衛基地アース】の日本支部へ。歓迎すんで、アホ」


 初めてそこで変態と目が合い、左目の奥がどす黒く濁っていることが分かった。


 どうやらうちは相当選択を間違えてしまったらしい。なるようになる、なんて思ったらいけないだろうか。



「改めて説明したるわ。ここはアースっちゅう基地や。害獣って言う外宇宙からの侵略者から地球を守るために集められた適合者たちの家みたいなもんや」

「……適合者がその害獣ってのと戦わされるみたいな感じに聞こえるんスけど」

「そう言っとんねん。やから止めたんや僕は」

「もっと全力で引き止めてくださいよ!うち戦う力とかないっス絶対!」


 うちの人生詰み確定っスか!?嫌だ!生きたい……死にたくないっス!


「500年前の先人が残した認識阻害で詳しい説明が出来へんねん」

「はた迷惑っスねそいつ」

「あほか。そいつがおらんかったら今頃地球は滅んどる。侵略者に攻め入られとんねんぞこの星。大パニック間違いなしや」


 その言葉を聞いた瞬間、今までモヤがかかったかのように認識出来なかった記憶がわっと頭の中を駆け巡る。


 虫のような外骨格を纏った人型の生命体が町を破壊し、そこから逃げていた記憶が。

そいつに友達の体をバラバラにされた記憶が。

忘れていた記憶が。どんどんと蘇っていく。


「やからハンカチ持ってけって言われたんか」


 変態が何かをボソッと呟き、うちの目尻にハンカチをそっと当てる。気付かないうちに泣いてしまっていたらしい。


「変態のくせに気遣いは出来るんスね」

「今からハンカチ紙やすりに変えてきたろか?そもそも僕は変態やなくて……そういや名乗ってないな僕」


 うちの涙を吹き終わり、落ち着いたところで変態が改めて自己紹介を始める。


「僕はカルタや。よろしく。後輩はなんて名前なんや?苗字は言わんでええで」

「……スズメっス」

「よろしくなスズメ。僕のことは気軽にカルタ様って呼んでくれてええで。適合者は基本チームで行動すんねん。スズメが配属予定の僕のチームの部屋まで案内したるわ」

「よろしくっス変態」

「シバキ回したろかなこいつ」


 軽く手を振りあげた変態に「きゃー怖ーい」なんて軽口を叩きながら着いていく。あまり認めたくはないがこいつのおかげである程度心が軽くなってきた。


 辿り着いた場所の目の前に大きな扉が立っている。シズカ班と書かれているプラカードからしてうちの配属予定先のチームはシズカさんと言う人がリーダーなのだろう。


「たーだいま戻りやしたー。誰か起きとるやつおるー?」


 変態がそう言うも返事は帰ってこない。


「すまんなスズメ。仕事終わりやからみんな疲れとんねん。起きるまで少しだけ待ったってくれ」

「それはいいんスけど……それならお兄さんも仕事終わりなんじゃないスか?」

「せやで。あっほみたいに眠い」

「寝てもいいんスよ」

「あほ。襲われてまうかもしれんやんけ」

「どう考えてもうちのセリフっスねそれ」


 ぐだぐだとうるさかったので近くにあった布団を無理やり被せると数秒も経たずに寝息が聞こえてきた。かなり疲れていたのだろう。


 1人になると、いやでも先のことを考えてしまう。


 うちはこれからどうなってしまうのだろうか。死にたくは無いな、なんて。当たり前のことを1人静かに考える。


「あー……体痛ぇ……」


 10数分ほど経った頃だろうか、変態が寝たソファの近くの塊から下着姿の女性が顔を出す。


「んあ?誰?」


 その女性の体にもおびただしい程の傷跡が刻まれていた。


「ぴえっ」


 怖くて少しチビりそうになった。


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2025年12月9日 20:00
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死が隣り合わせな日常 中田の刀な鷹 @Tanaka_kanata_takana

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