親友ができました

遠山ラムネ

親友ができました

私の初恋っていつだったっけ、なんて、厄介なことを考える羽目になったのは、つまり、親友がわかりやすく恋愛中だからだ。


親友……うん、たぶん親友。

仲良くなったの、クラス一緒になった今年からだけど。


彼女は野球部の次期4番候補と1年の終わり頃から付き合っている。

告白されて付き合い始めたらしいけど、今やもう見るからに夢中だ。


その様を間近で見ながら、いいなぁ、なんて思う。彼氏がいていいなぁ、というより、恋愛してていいなぁ、て感じ。


見渡せば、誰も彼もが誰かを好きみたいに見えた。

恋愛中でなくても、例えば推しがどうとかこうとか。


なんか、すごいな、みんな。


好きな人なんていない。

初恋について考えてはみたけど、思い出そうにも思い出せるはずもなかった。

いま好きな人なんていないし、今までもいたことないし、これから先も、どうにも予想もできない。


否定的なわけではないんだ。

私だって、誰かを好きになってみたいとかは思うんだ。思うんだけど。


誰のことも好きじゃない私は、つまり冷たいってことなんだろうか。




なーんてことを日々考えていたら、うっかり聞いてしまった。どストレートに。


「好きってなに」

「は?」

「好きってなに?気のせいじゃないの?」

「なに、急に」

「私、好きな人とかいない。今までもいないし、これからもいない、かもしれない」

「あーー」


彼女は椅子を揺らし、天井をふり仰ぐ。

倒れそうで倒れない。ゆらゆら。


「千香はさーー、それはさー……」


彼女はいいかけて止めて、椅子をガタンと元に戻した。着地。


「千香はかわいい、頭もいい、運動はほどほど、だけど、性格もいい、というかきちんとしてる」

「なに、それ」

「しっかりしてる。はっきりしてる。責任感もある。リーダー気質もある。委員長とかもやってる」

「やってる、けど」


彼女の目は真っ直ぐブレない。たずねた私の方がたじろぐほど。


「そんな千香に相応しい男子はそうそういない。並び立てるような相手は。だから見つかってない。適当な奴を、千香は好きになったりしない。当たり前。だって役不足だもの」

「えええ〜、何それ意味わかんない、私そんな、別に」


別に選り好のんでるつもりもないんだけど……


「千香はさー、ちょっと高嶺の花感あるんだよ。だから私はさ、仲良くなれたの、結構嬉しかったんだよね」


そう言ってくしゃっと崩れた照れ笑いを、実はすごい新鮮な気持ちで見ていた。

そういえばこんなに仲のいい友達、『親友』ができたのも、生まれて初めてなんだって気付いたら、つられて照れてちょっと泣きそうになった。



Fin


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親友ができました 遠山ラムネ @ramune_toyama

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