時給最大五万円のバイト

チュン

第1話

アルバイト募集!指定の場所でゲームをするだけで、時給1万円から最大5万円。24時間営業で、お好きな時間に、お好きなだけ、働けます。

 江川誠は、はたと迷った。理由は分からないが、突然、彼のSNSのアカウントに表示された、アルバイト募集。

 これまでなら、そんな募集、目にも入らなかったと思う。「時給5万円」なんて、普通のバイトじゃあり得ない。良からぬバイトの臭いプンプンだ。

 だけど、今の誠には、金がない。家の反対を押し切って、都会の音楽大学に推薦で入学した誠だったが、推薦で一部、学費の免除はあったが、生活費は自己負担。さすがに都会で一人暮らしをする息子を放っておくこともできず、実家から、いくらかの仕送りはあったが、それでは生活もままならない。

 誠は、ピアニストになるのが夢だった。実際に、大学に入って、すぐの頃は、なる自信もあった。だが、世の中はそんなに甘くはない。いつの間にか自信は、自分への失望に変わり、借金もして、自分の存在意義さえ、分からなくなった。

 闇バイトなら闇バイトでもいい。例え、闇バイトでも、そこでうまく行けば、人生の勝ち組になれるかもしれない。それに、ゲームは苦手ではない。ひょっとしたら、eスポーツ関連の仕事か何かで、それだけの価値がある仕事なのかもしれない。

 誠は、思い切って、募集に書かれていた連絡先にコンタクトを取った。


 仕事は単純と言えば、単純な仕事だった。

 働ける時間を告げると、仕事場となる車両が自宅近くの駅などに来てくれる。それに乗り込むと、車両の中にゲーム機が設置されていて、そこでゲームをするだけだった。

 ゲームはシューティングゲームだろうか。空から地上の敵に向けて、銃を放ち、当たれば、敵が消滅する。敵が建物などに隠れると、弾は当たらないので、視点を上手く操作して、敵が見える位置に移動させる。

 注意点は、時々、敵は銃で反撃して来るので、それを避けることと、さらに、たまに、どこからかミサイルが飛んでくるので、それも避けなければいけない。敵の弾が当たると、ゲームオーバーとなる。

 最初は、敵に弾が当たらず、反撃を避けることもできず、わずか数分でグームオーバーになってばかりだったが、そのうちに慣れて来て、継続して、数十の敵を倒すことができるようになった。

 さすがに、一時間、この作業をすると、かなり体力を消耗したが、この仕事、実入りは抜群で、仕事をした翌日には、お金が振り込まれる。入金額も、最初は1万円ピッタリから、最大2時間ほど頑張って、8万6千円の入金があり、ひょっとして自分って天才!?と大笑いした。最大時給5万円も、嘘ではなかったのだ。


 たが、このバイトで、1カ月にもならない時点で、振込金額が50万円を超えると、誠も疑問に思って来た。

どうして、この作業で、そんなに大金がもらえるのか?

まさか、これって、本当に人でも殺しているのでは?

 バイトの車両には、常に会社の人が二人乗っていた。一人は運転手、もう一人は指導員とされる人で、最初に仕事の説明をしてくれたのが、その指導員だった。

 誠は迷った挙句、その疑問を指導員にぶつけてみた。

「あの、少し、聞いていいですか?」

 と言って、質問を続けると、指導員は呆れたような顔をして、平然と答えてくれた。

「今さら、何言ってんの?こんなの本当の戦争の、ドローン映像に決まってるじゃない」

 誠は慌てて、問い返した。

「ということは、僕、本当に人を殺してたんですか?何故、そんなことを?」

 その勢いに、指導員はチラリと誠を見たが、表情は変わらず、

「彼らは、ああ見えて、信心深くてね。人殺しをすると地獄に落ちると言って、こういう仕事、やりたがらないだよ」

 と答えた。

「そ、そんな。でも、何故、こんなやり方なんです?戦争なら、軍隊がやればいい。わざわざ、こんな方法でやらなくても」

 もう、誠の頭は混乱して、訳が分からなくなっていた。それを見て、指導員は、

「馬鹿だねえ。そんなの反撃を避けるために決まってるじゃない。場所を固定したら、狙われるだろ。じゃ、次も頼むよ。君、なかなか筋いいよ」

 と言うと、すぐに車に乗り込み、車は誠を残し走り去っていった。


 あなたが誠なら、この後、どうするのだろうか?

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時給最大五万円のバイト チュン @thuntyan

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