もしも、君と出逢え直せるなら。終活で見つけた、魂の片割れ。
久遠遼
第1話 香苗との出逢い(前編)
終活と一九七九年の少女――
二〇二四年七月二十二日 月曜日
突然の高熱と喉の痛み。加えて、身体の節々が激しく痛む。この症状はこれまでに経験したことがないものだとすぐに認識できた。
重い身体を起こし、最寄りのクリニックへ行き、主治医に症状を伝え、検査をしてもらう。診断結果は案の定、コロナ陽性だった。当然のように主治医から五日間の自宅療養を言い渡され、その旨を会社に伝えると、土日を含めて七日間の休みとなった。
三十九度以上の熱に丸二日間浮かされ、ようやく熱が下がり始めた三日目、ふと思いついたことがあった。
「もう六十三歳だ。今回は重篤化せずに済んだが、新手のウイルスが出てくると、年齢的にも身体が衰えてきているし、あっけなく命を失うということもありそうだ……」
これが一つのきっかけとなり、あと何年この人生を送れるのかは定かではない。人生の終焉は二十年後かもしれないし、十年後、いや、明日かもしれない。だから、いつ人生を終えてもいいように、人生の終わりのための活動、いわゆる「終活」を始めようと決意した。
四日目にはすっかり熱も下がり、手持ち無沙汰だったことから、この出勤停止期間を利用して、まず何を「終活」の第一歩とするかを考えることにした。
手始めに、長年放置してあった写真の整理から取りかかることにした。なぜ写真からかというと、それにはある理由があった。
熱に浮かされている間、二日間、僕は意識が朦朧とした状態で、過去に出会った一人の女性のことを思い浮かべていた。正確には、夢を見ていたような状態だったと思う。なぜ彼女のことを思い出したのかは分からない。しかも、四十年以上も会っていない女性の夢など、なぜ見たのかは想像もつかないことだ。
「確か大木や瀬山たちとドライブへ行った時に撮ったスナップ写真が何枚かあったよな?」
アルバムを作っていなかったため、写真はどこかに束ねてしまってあることは記憶にあった。そのため、それほど時間をかけずに見つけることができた。何年間放置していたのだろう? 高校時代のものから、大学時代、そして社会人になって撮ったものが混在しているのを改めて認識した。
「あ、あった、あった!」
お目当てのプリントは、すでに色が褪せて、ところどころ印画紙が剥がれ劣化してはいたが、彼女の顔をはっきりと確認できた。
「懐かしいな……もう四十年以上も経ってしまったのか……」
彼女の名前は香苗。僕が初めて会った時は、まだ高校三年生の少女だった。僕は香苗の顔を久しぶりにじっくりと眺めていた。
「可愛い。あれ? こんなに可愛らしかったか?……」
写真の裏には、一九八〇年三月二十二日と記されている。
四十年以上の時を経て、改めて見ると、香苗の笑顔はとても素敵で、可愛らしく思えた。
「いや……僕は当時、香苗がこんなに可愛いという認識を持っていなかったのかな?」
香苗が写っている写真は四枚あった。そのうちの一枚はバストアップで、左に当時仲間の一人だった「大内」という友人が後ろ向きで、右に僕が、そして中央に風を意識して少し首を傾げた、笑顔の香苗が写っていた。
「そうそう、このえくぼ。笑うと大きなえくぼが出来て、とてもチャーミングだったな」
香苗の魅力を引き立たせている、くっきりと窪んだ右頬のえくぼが、可愛い顔立ちによく馴染んでいて、とても素敵な笑顔で写っている。
よく見てみると、肌が白いこともよく分かる。香苗と並んで写っている僕と比較すると、明らかに肌の色と質が違って見える。そして、顔の小ささが際立っていることを改めて認識した。
「両親や姉もそうだったように、僕も小顔な方だ。その僕と、ほぼ同じ位置に立ち、横に並んでいる香苗の顔のサイズが、僕の顔のサイズよりもさらに小さいことが一目瞭然だ……並んだ背丈の差からすると、僕が百七十二センチだから……目測で約百五十センチ少々といったところか? そうだ、確かに背丈はそんな感じだったな……」
僕は、少しずつ記憶を辿りながら、彼女の写ったこの写真に執着していた。そして、それぞれ顔のパーツを順にじっくりと見ていった。
にこやかな笑顔の中の香苗の目は、少し奥二重だ。だから、パッと見た感じは一重で少しきつそうに見えるが、写真を近づけて見ると、きれいに二重であることが確認できる。
唇もとてもきれいな形をしている。下唇が上唇よりやや厚く、口角が少し上がっていて、それが素敵な笑顔に良い影響を与えていることが分かる。
「少しずつ、思い出してきた…香苗と初めて会ったのは、一九七九年の秋だ。そうだ、その時のことは、今でもよく覚えている」
もしも、君と出逢え直せるなら。終活で見つけた、魂の片割れ。 久遠遼 @Quon_Ryo
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