大怪獣特区の魔導師たち。

白亜

0話 白亜の怪獣

──天地が揺らいでいる。


眼前で山ほどの巨体をした怪物が、空を泳ぎ咆哮を上げていた。

その肉体は石灰石を砕き積み重ねたような白と灰を纏っている。腹側には、魚の鱗のように無数の眼がぎっしりと並び、それらが一斉に瞬くたび形容しがたい恐怖に襲われる。


「クソッ!何なんだあのバケモンは!」


秘伝の透過魔術で姿を消していなきゃ、今頃俺も他の奴らみたいにぐちゃぐちゃになっていたところだ。クソッタレめ。


さっき怪物が召喚したらしい白い四芒星が空間を歪め、ねじ切るのを見た。何だアレは。

既存の魔術の解釈じゃ到底再現出来ない現象だ。

それに巻き込まれた奴らは――思い出すだけで吐き気がこみ上げた。


とにかく、こんな怪物見た事がない。古に滅びたという魔王ですらまだ理の内にいる存在であったはずだ。


俺たちは、ただいつも通りここの特殊な魔力環境について調べていた。それだけだったのに。


一体何人死んだのだろうか。考えたくもない。


...そろそろ魔力が切れる。


俺も殺されるのか、畜生、畜生ッ。


もう少しすれば、救難信号に気付いた本隊がやってくるだろうがまず間に合わない。


「クソッ・・・クソッ・・・このまま終わってたまるかよ・・・」


男は筆を手に取り震える手で文字を紡ぎはじめた。

書き終えると不思議と震えは止まっていた。


自身の体が少しずつ、まだらに色付きはじめたの気付く。


男は筆を手元に置き、書き上げた一冊のノートにとっておきの魔法をかける。


――全ては少しでもヤツを討つ手助けになることを願って。


少しして白色の巨獣が二度目の咆哮を上げた。

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