かささぎ

逢坂らと

かささぎ

プネドラーは空梅雨からつゆの頃、

目を覚ましました。


雨は全く降ることのなく

人々は不作や水不足に悩まされていました。


海もそろそろ乾きそうでした。


嗚呼ああくじらが、鯨が…

鯨が泣いている。


海を太陽に奪われて

泣いて、いる。


プネドラーは悲しくて仕方ありませんでした。



プネドラーは鯨に1つ、何かしてやりたいと思い、彼に質問をしました。




鯨よ鯨、鯨さん。

君は一体何が欲しいんだろか。



鯨は驚いた様な目をして、

それからゆっくりと答えました。



「海じゃ、できれば…海が欲しい…だが、

 そんなことより、人間からの愛じゃ。

 愛が欲しい。

 …最近、人間たちはわしのことを

 食料エサとしか思っとらんのだよ。」




食料エサ




「そうじゃ。人間たちは…儂らのことを

 海の恵み、海の幸、いただきます…

 なんて言いながら食べておる。

 だが、実際はどうだ。

 人間が一番偉いと思っておる。

 人間が偉いのは別にいいのだ。

 勝手に思っておけばいい。

 ただ、気にかけて欲しいのじゃ。

 儂らのことを、食べ物としてではなく、

 生き物として儂らを見て欲しいのだ。」




プネドラーは悲しくて仕方ありませんでした。


なんにせよ、

人間ではないプネドラーには何もできないのです。


海も作れないし水も湧かせられない。

人間として鯨をいたわることもできないのだ。



プネドラーができるのは

そうやって鯨のそばに寄り添って

鯨のほおを優しく撫でることしかできませんでした。


しかし、プネドラーは思いついたのです。

雨を降らせれば良い、と。


プネドラーは仲間たちに、

西の国から

風を吹かす様に頼みました。


大勢の元気な風の子達が、

西の国から思いっきり息を吐きました。


からーん

かりーん

ころーん


ざわっざわざわっ


ドッドド

ドドウド

ドドウドドウ


まるで空を飛ぶ馬車の様に速く、

そして寒い風がプネドラーと鯨の元へ

やってきました。


ドッドド ドドウド ドドウドドウ





それから二、三週間が経ちました。


ようやく、雨が降りました。


1ヶ月遅れの梅雨でした。


プネドラーは力尽きました。


プネドラーはまだそんなに強くありませんでした。


むしろ弱い方でした。


鯨は喜びました。

当然、人々も喜びました。


プネドラーはもう悲しくはありませんでした。


けれど、プネドラーはもう、虫の息でした。


鯨が悲しそうな顔をしました。



「ありがとう。本当にありがとうございます

 プネドラー殿。あなたは地球の英雄です。」



プネドラーはとうとう目が見えなくなりました。



すると、1匹の野ウサギがやってきました。


「ありがとう。プネドラー様。

 おかげでみんな、今日も生きています。」


プネドラーはとても嬉しい気分でした。



「プネドラー様。お疲れ様でした。」



「本当にありがとうございました。」



プネドラーはふっと笑みを浮かべ

そのまま息絶えました。




  「「ありがとう、ございました」」



森から、海から、そして街から

プネドラーは感謝されました。


仲間たちもその最期を見守りました。



空梅雨に生まれたプネドラーにとって

生まれて初めての梅雨でした。

生まれて初めての雨でした。


空梅雨に生まれたプネドラーは

大雨の中で、水に恵まれた地球の中で

安らかに眠りました。



ちょうど七月の終わりでした。

天の川は消え、

夜空ではかささぎが飛び交っていました。


【終】






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かささぎ 逢坂らと @anizyatosakko

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