第8話 三人の誓いと旅立ちの夢
僕が八歳の誕生日を目前に控えた冬の夜。村全体が雪に包まれ、静けさの中にあった。
食堂の暖炉の火がパチパチと音を立てる傍らで、僕とユーノお姉さん、そしてガルド兄さんは、ヤギの乳が入った温かいマグカップを囲んでいた。十七歳になった二人は、もうすぐ成人だ。
「ソウル!お前が教えたあの『鉄を溶かす熱』の仕組み、あれを使えば、この村に、世界で一番の鍛冶場が作れるんだ!」
ガルド兄さんは、いつにも増して目を輝かせて語る。彼の夢は、僕の知識と、彼の熱意によって、もうすぐ実現すると信じている。彼の自信は、ユーノお姉さんへの揺るぎない愛情から生まれている。
「そして、その鉄で、俺は蒸気で走る『陸の船』を作って、オーロムン王国の首都に売り込む!俺たちの技術で、あのゼーランド帝国を凌いでやるんだ!」
ユーノお姉さんは、その話を楽しそうに聞きながら、僕の肩を抱き寄せた。彼女の頬は火照り、その瞳は暖炉の火よりも強く輝いていた。
「ガルドの発明はすごいわね。でも、私が行きたいのは、陸の船じゃなくて、やっぱり空飛ぶ鉄の箱がある国よ」
ユーノお姉さんは、僕が以前話した飛行機の話を、まだ覚えていた。
「そこで美味しいものを食べて、新しい技術を学んで、それを全部この村に持ち帰りたいの。村を、もっと豊かにしたい」
彼女の夢には、村への愛と、外界への強い探究心が同居していた。彼女がその夢を語るとき、そこには一切の不安がない。まるで、自分にはそれが実現できると確信しているかのような、揺るぎない万能感が漂っていた。
僕にはその理由が分からなかったが、彼女のその自信が、僕の心を最も安心させた。
ガルド兄さんは、ユーノお姉さんの夢に少し拗ねた。
「なんだよ、ユーノ。俺の陸の船じゃ不満か?」
「不満じゃないわ。でも、私には私自身の目で見てみたいものがあるの。そして、その旅には、もちろんソウルも一緒よ」
ユーノお姉さんはそう言って、僕の頭を優しく撫でた。
「ソウルは、僕たちの最高の切り札だからね。ソウルがいれば、どんな困難も乗り越えられるわ」
僕の心臓は高鳴った。僕の知識と力が、彼女たちの旅を支える。僕の存在が、彼らの夢の実現に不可欠なのだ。僕が、彼らの幸福と未来を、この手で築き上げられる。僕にとって、これ以上の喜びはなかった。外界の危険など、僕の力で排除すればいい。僕の魂の力が、そのためにあるのだ。
「もちろん、僕も一緒に行くよ、ユーノお姉さん、ガルド兄さん」
僕はマグカップを前に差し出した。
「僕の知識は、二人の夢のためにある。ガルド兄さんの反射炉も、陸の船も、ユーノお姉さんの空飛ぶ鉄の箱だって、きっと作れるよ」
ガルド兄さんもマグカップを乗せた。
「よーし!最高の相棒だ!俺は発明家として、お前は賢者として、ユーノを連れて村を出るぞ!打倒ゼーランド帝国だ!」
「いいわ。三人の未来に、乾杯!」
三つのマグカップが、カチンと音を立ててぶつかった。僕の心は、魂の飢えではなく、未来への希望という、これまで感じたことのない強い充足感で満たされていた。
その夜以降、僕たちの間には、具体的な旅の計画が語られるようになった。
ガルド兄さんは、反射炉の計画図を広げ、どの村を回れば必要な資材が集まるか熱心に調べた。ユーノお姉さんは、食堂での貯金がいくらになったか、そして旅先で働くための語学の勉強を始めた。
僕もまた、彼らの夢のために、準備を進めた。
それは、魂の備蓄だ。
旅に出れば、いつものように毎日、死んだ命の魂を集められるとは限らない。外界は争いや混乱に満ちており、僕の力の使用を強いられる場面も増えるだろう。僕の願いを叶えるためのエネルギー源を、できる限り満たしておく必要があった。
僕は、ベジー爺さんとの狩りや、森で絶命した獣や枯れた植物の魂を、これまで以上に貪欲に集めた。僕の体内の魂の塊は、満タンに近づいていた。
(僕の知識と力があれば、二人はきっと幸せになれる)
僕の心は、彼らを外界のあらゆる危険から守り抜くという決意に満ちていた。
そして、時は流れる。ガルド兄さんとユーノお姉さんの十八歳の誕生日が過ぎ、彼らは村を出るための具体的な計画を練り上げる。
春が近づき、花が咲き始める頃。ついに僕の八歳の誕生日がやってきた。それは、僕たちにとって、全てが変わる始まりの日だった。
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魂食いの僕と、温もりの村 ヨムヨム @hiroyuki090
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