どんぐりが知る平和なクリスマス
沢 一人
最後は人の心が決める
第一章:選ばれた夜の旅
クリスマスの前夜。窓の外では雪が降り、世界は重い沈黙に包まれていました。
芸術家夫妻の、あたたかい部屋のテーブルの上。二粒のどんぐりが、やさしいリボンに包まれていました。彼らは、「平和のねがい」を運ぶ、ちいさな使者です。
一粒目のどんぐりが、ささやきました。「ねえ、相棒。僕たち、これから誰のところに届くんだろう?」
二粒目のどんぐりが、静かに答えました。「世界じゅうで、一番重い決断をしなければならない人のところだよ。僕たちのねがいが、その人の心を、少しでも軽くできるように」
二人の「やさしい芸術家」は、どんぐり達に願いを託しました。どんぐりの夢は、雪と星空の下を、遠く、遠く、旅を続けました。
第二章:あたたかい決断と、植えられた願い
どんぐりは、大国の指導者、宰相の執務室の机の隅に置かれました。彼は、未来を壊すかもしれない決断を迫られていましたが、クリスマスの朝、どんぐりから届けられた良心によって、平和な道を選びました。
宰相は、自らの冷たい鉄の壁のような心を打ち破り、「力の使い方」を変えるという、勇気ある決断をしたのです。
決断を終えた宰相は、すぐに庭師を呼びました。
「この種を、私の目の届く、最も陽当たりの良い、豊かな土に植えてくれ。この木は、私の心の新しい約束だ」
そして、クリスマスの午後。雪が溶け始めた土の上に、二粒のどんぐりは、丁寧に、優しく植えられました。
宰相は、世界中の指導者たちにも、メッセージを送りました。それは、「力は、壊すために使うのではなく、平和な時間を守るために使いましょう」という、あたたかいメッセージでした。
第三章:平和の成長
その日から、平和な日々が続きました。
世界中の国々が、宰相のメッセージに応え、対話のテーブルに着きました。人々は、もう誰も、いつ世界が壊れるかという恐怖に怯えることはなくなりました。
春が来て、夏が過ぎ、秋が深まる頃、宰相の庭のどんぐりは、芽を出しました。
それは、まるで宰相の「良心」が、ゆっくりと、確実に、大地に根を張ったかのようでした。
宰相は、毎朝、その若木を見つめることを日課としました。そして、木が少しずつ背を伸ばすたびに、彼は、「力とは、未来を守り育てるためのものだ」という、新たな哲学を深く心に刻みました。
最終章:世界を覆うオークの影
何十年もの歳月が流れました。
宰相はすでに引退していましたが、彼の平和を重んじる決断によって築かれた世界は、安定し、豊かになっていました。
そして、あの二粒のどんぐりは、今や、宰相官邸の庭にそびえ立つ、巨大なオークの木となっていました。その力強い枝は、争いのない平和な空を抱きしめていました。
宰相の庭の木だけではありません。世界中、あの芸術家夫妻からどんぐりが贈られたすべての国々で、同じ願いを託されたオークの木が、立派に育っていました。
対立していた国の官邸の庭にも、紛争が絶えなかった地域の広場にも、人々の優しさという名の土壌を得て、平和の木がそびえ立っていたのです。
どの国の木も、同じように力強く、どの国の木も、争いから人々を守る静かなシンボルとなっていました。
人々は、クリスマスの時期になると、このオークの木の下に集まり、語り合います。彼らは知っています。
強大な力(均衡)が世界を守るとしても、最後は、たった一人の指導者の、あたたかい「良心」が下す決断が、この平和な未来を、この大きな木々を、つくりだしたのだ、ということを。
そして、オークの葉が風に揺れるたび、それは、「いつまでも、心を大切に」という、芸術家夫妻からの、永遠のクリスマスの願いをささやいているようでした。
どんぐりが知る平和なクリスマス 沢 一人 @s-hitori
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