第91話 「魔法少女クッキングスタジアムと爆発」

 休日。タエさんの家。

 いつメン(ミカ、山本、光、ルナ)に加え、香奈、栞里、そしてタエさんがキッチンに集まっていた。

「栞里さん、お料理凄いのよ」

 タエさんが、手際よく野菜を刻む栞里を見て感心する。

「いえ、そんな……。組織にいた頃、自炊するしかなかったので」

 栞里が照れくさそうに包丁を置く。

「へえ、栞里さん料理するんだぁ。意外」

 ミカが感心して言うと、横から香奈が口を挟んだ。

「あなた、料理出来なさそうよね」

「あぁ?」

 ミカの眉がピクリと動く。

「出来るしぃ! アンタこそ、ジャンクフードしか食べてなさそう」

「はあ? 何言ってんの? 私の舌と料理の腕はプロ級よ!」

「はああ? アタシだって本気出せば、ミシュランで星もらえるし!」

「はあああ? あなたなんか、ミシュランのタイヤマンみたいな顔して!」

「はああああ? アンタなんか、そのタイヤに踏まれたような顔してんじゃん!」

 バチバチと火花が散る。

 売り言葉に買い言葉。後に引けない二人は同時に叫んだ。

「「勝負よ!!」」


***


 数時間後。日没。

 タエさんの家の広い庭は、異様な熱気に包まれていた。


 カッ!


 暗い空間に一筋のスポットライトが降り注ぐ。

 その先には、なぜかどこから調達したのか、タキシードでビシッと決めた山本隆の姿があった。

「レディース・アンド・ジェントルマァァァン!!」

 山本のよく通る声が響き渡る。

「魔法少女クッキングスタジアムへようこそ!」

 庭には特設ステージが出来上がっていた。

 コンロやシンク、調理台が三箇所に設置され、本格的なバトルの様相を呈している。

「今宵、料理の戦いに身を投じる戦士たちは、彼女たちだ!」

 山本の合図で、庭にスモークが焚かれる(映画研究部・梅野の担当)。

 そして、石岡が操作する照明が、選手たちを照らし出す。

「真紅に燃ゆるその瞳、炎の料理人! フレイム・ローズこと、井上香奈!」

 エプロン姿の香奈が、フライパンを掲げてポーズを決める。

「フン、私の料理でみんな火傷しないでね!」

「続いて、冷静かつ沈着、氷の料理人! ダイヤモンド・ダストこと、小野麗香!」

 なぜか巻き込まれた麗香が、不機嫌そうに包丁を持っている。

「……なんで、ウチが……」

「そして! 世の中は金が全て、光の料理人! ゴールド・マージョリーこと、天野ミカ!」

 ミカが聖杖を持って立つ。

「ちょ、なんかアタシの紹介だけ酷くない!?」

「さあ、審査員の紹介だぁ!」

 山本が大袈裟に手を広げる。

 審査員席には、三人の人物が座っていた。

「麗しき美食家。上流階級の舌は本物だ! ピュア・エンジェルこと、聖ルナ!」

「お手柔らかにお願いしますわ」

 ルナが優雅にナプキンを広げる。

「最先端科学が生んだ失敗作! 天下のバカ舌! ドリーム・ナイトこと、井嶋光!」

「えっ、!? 僕、味わかるよ!?」

 光が抗議するがスルーされる。

「無銭に負けない強い意志! この子の舌を唸らせるのは誰だ! 小学5年生! 石井一真!」

「えっと、よろしくお願いします……」

 以前、ミカたちが助けた少年、一真が緊張した面持ちで座っている。

「さあ、今宵のテーマは……『寒い時に食べたいもの』だ! 料理、開始!」

 カンカンカーン!  ゴングが鳴り響いた。


***


「実況は、私、佐藤栞里が務めさせていただきます」

 栞里がマイク(泡立て器)を持って、香奈のブースに近づく。

「香奈さん、今日はどんなメニューを?」

「冬といえばこれよ。熱々のラザニア!」

 香奈は大量の挽肉とトマトソースを炒め始めた。

「おお、素敵ですね! チーズの香りが食欲をそそります」

 続いて、麗香のブースへ。

「小野さんは、いかがですか?」

「……冬の定番、鍋だ」

 麗香は黙々と白菜を切っている。

「シンプルイズベスト! 寒い日に、ホッと温まりますね!」

 そして最後に、ミカのブース。

「ミカさんは?」

「カレーよ」

「カレーですか?」

「そう。アイツら分かってないね! 審査員を見てみなさいよ、光に一真くん、ルナ。お子様ばっかりじゃん。ならカレーっしょ!」

「おお、ターゲット層に媚びた姑息な手段!」

「うっさいわね! 戦略と言いなさいよ!」


***


 調理中盤。

 雲行きが怪しくなってきた。

「あーもう! なんかジャガイモ切るのめんどい! 硬い!」

 ミカが包丁を投げ出した。  彼女は聖杖を握りしめ、まな板の上のジャガイモを睨みつけた。

「ええい! こうしてやる! 『ゴールデン・ハンマー(調理用)』!」


 ドガン!!


 物理攻撃。ジャガイモが粉砕され、マッシュポテト(飛び散った破片)になった。  「よし、切れた!」

 「切れてない!」

 と栞里がツッコむ。

 一方、香奈のブース。

「うーん、オーブンの予熱が遅い……。これじゃ間に合わないわ」

 香奈は杖を取り出した。

「直火でいくわよ! 燃えろ! 『ヒート・ブラスト(弱火)』!」


 ボウッ!


 ラザニアに向かって直接、魔法の炎を放射する。

 「香奈さん! 表面が炭化してます! 香ばしい匂い通り越して焦げ臭いです!」

 そして、麗香のブース。

「……チッ。火力強すぎて吹きこぼれちまった」

 鍋がグツグツと煮えたぎり、スープが溢れている。

「熱いのか。なら冷ませばいい」

 麗香が杖をかざす。

「よし! 『アブソリュート・ゼロ(急速冷却)』!」


 カキン!


 鍋の中身が一瞬で凍りついた。

 「小野さん! アイスになっちゃいました!」

 カオスと化すキッチンスタジアム。

 それぞれの魔法の残滓が、狭い庭で飽和していく。

 ミカの物理衝撃波。

 香奈の熱波。

 麗香の冷気。

 三つの力が中央でぶつかり合った、その時。


 キィィィィン……


 嫌な音がした。  魔力同士が反応し、臨界点を超えたのだ。

「あ」

「やば」

「逃げろ」


 ドッガアアアアアアアン!!!!


 タエさんの家の庭で、キノコ雲が上がった。

 ラザニアと鍋とカレーが混ざり合った、得体の知れない爆風が吹き荒れる。

「ギャアアアア!」

「僕のタキシードが!」

「わたくしの髪がカレー臭いですわ!」

 料理対決は、引き分け(全員失格)で幕を閉じた。


***


 後日。魔法界。

 とあるオフィスの一室に、ミカ、香奈、麗香の三人が正座させられていた。

「……君たちねぇ」

 上級魔女(ダインの上司)が、こめかみを押さえている。

「不用意な変身。魔法の私的利用。近隣住民への騒音被害。……報告書、山積みなんだけど?」

「す、すみません……」

「料理をしたかっただけで……」

「ウチは巻き込まれただけです……」

「言い訳しない!」

 カミナリが落ちた。

 そして、判決が言い渡された。

「罰として、君たちの『魔法マネー残高』を全額没収します」

「ええええええ!?」

 三人の悲鳴が重なる。

 香奈はともかく、ミカにとっては死活問題だ。

「さらに、ゴールド・マージョリー。君は元々残高が無いから、没収ではなくて……」

 上司がニッコリと笑った。

「一週間の強制労働の刑に処す。……『無銭』退治の後片付け、無償でやってね」

 ミカは膝から崩れ落ちた。

「トホホ……」

 後日。

 瓦礫の山で一人、泣きながら掃除をするミカの姿があった。

 美味しい料理も、名誉も、プライドも。

 全ては爆発と共に消え去ったのだった。


『残高:-45,000円』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女はコスパが命! 〜今日も赤字(マイナス)と戦います〜 perchin @perchin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画