第7話
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竜帝が倒れてから三ヶ月。
ロンドンの街は、かつてないほどの静けさに包まれていた。
それは“死”の静けさではなく、“再生”のための沈黙だった。
崩れ落ちた街並みのあちこちで、日本支援部隊の重機が動いている。
日本の技術者たちは黙々と瓦礫を撤去し、イギリスの建築士たちは古き石造の設計図を広げ、
そこへ冒険者ギルドの魔術師たちが「再生魔法」を施していた。
「ここはまだ魔素が濃い、子供たちは近づけるな!」
「魔物の死骸処理完了! 魔石を解析班に回せ!」
「了解!」
戦場で肩を並べた日英の兵士たちが、今度は街の復興で共に汗を流す。
瓦礫の中には、今も人々の生活の欠片が眠っている。
写真、手紙、古い日記帳――
それを拾い上げるたび、誰もが無言で空を見上げた。
そこには、もう黒い雲はない。
透き通る青空が広がり、風が頬を撫でる。
イギリス首相は再建式典の壇上で語った。
「我々は、滅びなかった。
我々は、希望を失わなかった。
この再建の日を迎えられたのは――日本という、もう一つの島国の勇気と友情があったからだ。」
その言葉に拍手が鳴り響き、
伽藍堂総理は深々と一礼した。
そして両国が共同で新しい条約を結ぶことが発表された。
> “日英再誕条約(Treaty of Rebirth)”
それは、かつての日英同盟を超えた――
「人類の未来を共に築く」という誓いだった。
街には再び笑い声が戻り、
子どもたちが廃墟の石畳を走り回る。
その光景を見ていた一人の老兵が呟いた。
「……これが、本当の勝利だな。」
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🕊️ 英雄たちの帰還
ロンドン郊外、かつて赤竜が墜ちた丘。
そこに、無数の墓標が立てられていた。
日本とイギリスの兵士、冒険者、そして名もなき人々のために。
山本海将は静かに帽子を脱ぎ、敬礼した。
隣に立つのはイギリス空軍のエース、アーサー・クロムウェル。
「君たちがいなければ、我々は終わっていた。
……ありがとう、日本の海の男たち。」
「いや、互いに支え合っただけだ。」
短い握手。それだけで、全てが通じ合った。
その背後で、冒険者ギルドの若者たちが旅支度を整えていた。
彼らはこの戦いを生き延びた“新世代の英雄”たち。
彼らの胸には、共に戦った仲間のギルド章が輝いている。
「日本に帰るの?」とエレノアが尋ねた。
「いや……しばらくはここに残る。まだ、ダンジョンの封印を完全に修復しないと」
神谷遼は微笑んだ。
風が彼の黒髪を揺らす。
「いつかまた、空で会いましょう」
「ああ。その時は敵じゃなく、友として」
空を見上げると、そこには白い飛行機雲が二本、並んで伸びていた。
日の丸とユニオンジャック。
それはまるで、空そのものが二国の絆を描いているようだった。
港では、帰国する自衛隊の艦が静かに出航していた。
甲板の上では兵士たちが笑顔で手を振り、
浜辺ではイギリスの市民たちが小さな国旗を振って見送る。
誰かが呟いた。
「彼らはもう――ただの軍ではない。
“希望”そのものなんだ。」
やがて夜が訪れ、ロンドンの空に満天の星が輝く。
それは、戦火で奪われた光を取り戻した証だった。
神谷遼は空を見上げ、静かに呟いた。
>「この空を守る――それが俺たちの、次の戦いだ。」
波の音が優しく響く。
世界は再び、歩き始める。
そして誰もが信じていた――
夜明けの空の向こうに、新しい未来が待っていることを。
蒼穹の同盟〜The Alliance of the Blue Sky〜 しはやに @K25zi
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