ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりました〜(改稿版)
花京院 依道
第0話 ☆プロローグ
——ああ、まただ。
また、ボクは死ぬんだ。
胸を貫いた矢の痛みが、世界をゆっくりと溶かしていく。
息を吸うたび、肺の奥で血が泡立つ音がし、
騎獣のたてがみを握る指先から、力がゆっくりとこぼれ落ちた。
腕の中には、まだ幼い姫さまが眠っている。
小さな寝息が、弱っていくボクの胸をやさしくくすぐった。
この子を抱き上げるのは、生まれて初めてのはずなのに——
どうして、こんなにも懐かしい気持ちになるんだろう。
まるで、誰かに優しく包み込まれているみたいな。
……誰に?
胸の奥が静かにざわめいた。
「……姫さま……もうすぐ、お城に帰れますよ……」
声が震えた。
痛みのせいじゃない。——怖かった。
また、自分だけが切り離されることが。
ボクは知っている。
死んでも、終わりではないことを。
何度でも生まれ変わり、
何度でも別の身体で、別の人生を歩いていくということを——。
だけど——誰も、ボクを覚えていてはくれない。
転生のたびに成長し、転生のたびに何かを失ってきた。
それがどれほど恐ろしいことか。
何百年も前から、痛いほど知っている。
……生まれ変わると分かっていても、
死ぬ瞬間だけは、どうしても慣れなかった。
痛みだけは、毎回初めてみたいに鮮烈で。
(もし慣れてしまったら……ボクはきっと、戻れなくなる)
砦の明かりが見えた。
暗闇の向こうで、揺らぐ炎が小さく瞬いている。
あれが、今世のゴール。
……せめて、この子だけは。
ボクは歯を食いしばって声を張り上げた。
「はあっ、はあっ、……か……開門!……早く!」
ゆっくりと開き始めた門の隙間へ、騎獣ごと滑り込む。
駆け込んだ瞬間、ボクの体はついに限界を迎えた。
騎獣から落ちるように地へ降り立つと、膝が砕けるように崩れ、
視界がぐにゃりと波打った。
そこへ駆け寄ってきたのは、副団長のヴァリターだった。
涙で顔をくしゃくしゃにしたまま、
今にも壊れそうなほど震える手つきで、ボクを抱きとめる。
「……姫さまを……頼む……」
おくるみごと赤ん坊を託した。
瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
失いたくない、というより——また自分だけが、独りにされるのが怖かった。
温もりが消えた腕の空虚さが、妙に胸に刺さった。
腕は、もう動かない。
ヴァリターの嗚咽混じりの声が、遠くの水底から響くように聞こえる。
(みんな……泣かないで。
ボクは……ボクだけは、大丈夫だから……)
視界が暗く沈んでいく。
輪郭が、静かに溶けていく。
みんなの声も、音も、世界も——ゆっくり遠ざかる。
何度目かの終わりが、静かにボクを包み込んだ。
——その時だった。
闇の奥で、かすかに何かが擦れるような気配がした。
次いで、どこからか声がした。
懐かしくて、胸の奥がじんと熱くなるような不思議な声。
『……行かないで。
ようやく会えたのに——』
……誰?
初めて聞く声のはずなのに、どうしようもなく胸が痛くなる。
沈みゆく意識の底で、ボクはふと空を見上げた。
夜空の星が、ひとつだけ脈打つように瞬いている。
それは、まるでボクの名前を呼んでいるみたいで——
どうしようもなく“帰りたい”と感じてしまった。
(なに……これ……。なんで……涙……?)
頬を伝う温かさに瞬きをしたその時、
空気に細い亀裂が走ったような音がした。
星の瞬きが水面のように揺らぐ。
——ぱきん、と世界が割れた。
ひび割れの向こうから、誰かの手が差し伸べられた気がした。
光が反転するように揺れ、
そして、ボクはまた目を覚ました。
胸の奥には、まだあの声の余韻だけが残っていた。
——誰だったのかは思い出せないのに、
どうしてか、失いたくないと思った。
ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりました〜(改稿版) 花京院 依道 @F4811472
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