【1話完結】言霊捜査2課の遊撃つ
風上カラス
よろしく鬼が居ます/熱愛発核
──タイポは呪いであり、そして祈りでもある。
なんだよ、タイポって?
ここはコトノハシティ。
きっかけは、友達に送った一通のメール。『お疲れ様刑事』。『お疲れさまでした』と打ったつもりだった。普通の人なら
翌日、俺は「お疲れ様刑事」という不名誉なあだ名と共に、
とはいえ、この街では中央コンピューターの命令は絶対。
「で、なんだっけ。今日の案件は?」
俺は
「どっかのサラリーマンが“承知しました”って打とうとして、“招致しました”になったらしいのよ」
「……で?」
「アメリカの大統領が本当に来ちゃった」
「また景気のいい話だな……」
「それで今日は警備に人が取られて、しわ寄せがうちらに来てるってわけ。今日の仕事は山積みよ」
『よろしく鬼が居たします』
「また鬼か――」
思わず舌打ちした。数ある
『妖怪です。これからもよろしく鬼が居たします』
同じ建物なので、現場にはエレベータ―で直行。オフィスのドアは閉まっているが、中からは「よろしく! よろしく! よろしく!」の大合唱。
「いつもの通り、先制攻撃をお願い」
「いくわよ――1、2、3!」
――ガチャ。
ドアの向こうでは、「よろしく!」と叫びながら鬼が金棒をぶん回し、その脇では「妖怪です! 妖怪です!」のコーラスとともに、河童やら天狗やらが名刺交換を延々続けている。
――
『おひさ素振りです』
メッセージを送信した瞬間、鬼の動きがピタリと止まる。次の瞬間には、足を止めて素振りを始める。
「おひさ! おひさ! おひさ!」
――よし、鬼は
「ノープロポリス! こっちはOKだ!」
俺が合図をすると、ノープロポリスが部屋の中に駆けつける。彼女はスマホのロックを外し、ためらいなく打ち込む。
『妖怪Death!』
送信ボタンと同時に、室内の妖怪という妖怪が――吐血して全滅。どうやら鬼も妖怪判定だったらしく、みんな静かになる。
「任務完了っと」
ノープロポリスはスマホをしまい、ポンと手を叩く。
「随分とあっけなかったな」
「ま、そんなものよ。手こずる相手だったら、あたしの方から仕事やめてるわ」
「それもそうか。これで給料もらえるなら、感謝しないとな」
深く考えるのは――ずいぶん前からやめている。
「お疲れ様刑事、ノープロポリス、ただいま戻りましたー……っと」
そう呟きながら、俺たちは誰もいない事務所に戻った――はずだった。だが、そこは出かける前とは一転、大騒ぎになっていた。
「おまえら、どこで油を売っていた?」
唾を飛ばしながら詰め寄ってくるのは、言霊捜査第2課の上司――ショート課長だ。
「どこって、仕事ですよ。仕事」
俺はさっきのファイルを課長の鼻先に突きつける。
「そうか……」
課長はファイルをパラパラめくり、確認の署名をする。
「ところで――なんです、この騒ぎは?」
「これが原因みたいよ」
ノープロポリスがスマホを差し出す。ニュースアプリの速報だ。
『国民的スター熱愛発核!!』
……いや、なんかおかしい。目を凝らしてよく見る。
「発核ぅ!?!?」
「そうだ――。普段ならこの程度のタイポ、誰も気にしない。だが今は――アメリカ大統領が来ている。そのせいで、言霊が強く反応したようだ」
ショート課長は呼吸を整え、
「……まさか……」
「ソウデース! 今ニモ核ミサイルガ発射サレソウナノデース!」
「え……この人、誰……?」
ノープロポリスが
「オー、ソーリー! ミーの名前は、ベースポールコップ、デース!」
「……え、どういうこと?」
「あ、もしかして――英語のタイポ……?」
おそらく、
「よろしく、ベースポールコップ。俺はお疲れ様刑事」
「あたしはノープロポリス! で、核ミサイルがどうしたの?」
「二人トモ、ヨロシクデース!」
「俺の力で大統領を“大投了”にしてやれば、話は終わるんじゃないかな」
「ノー! 我ガアメリカが投降スルナンテ許サレマセーン!」
俺の
「じゃあどうすんだよ!」
「ワカリマセーン!」
「なんだよそれ、無責任だな!」
『アメリカより核ミサイルが発核されました。コトノハシティの住民の皆さんはただちに避難してください』
「……え、ちょっと待って、核ミサイル、発射されちゃったの!? ってか避難って、どこ逃げても無理じゃない!」
「落ち着け、まだ時間はある!」
俺は強がって彼女をなだめた。だが――内心は震えていた。相手は核。ミスれば全滅。どうする……どうすれば……。
「そうか、これなら!」
俺はスマホを取り出し、必死に文字を打つ。
『蟹味噌汁を無事撃墜』
送信――!
……が、何も起きない。
「ココハ、ミーの出番デース!」
ベースポールコップがラップトップを取り出した。
『Anybody stops that new clear missile!』
英語!? 学のない俺には何を書いてるかは分からないが、結果はすぐ出た。警報の内容が変化する。
『アメリカより新型ミサイルが発射されました』
「すごい! 核がなかったことになったよ!」
「でも、まだミサイルは飛んできてるぞ!」
俺とノープロポリスは一喜一憂。ベースポールコップは余裕の笑みで再びキーを叩く。
『Miss Isle is flying in the sk——』
「ちょっと待ったー!!」
ノープロポリスが慌てて、ベースポールコップの手を止めさせる。
「どこの誰だか知らないけど、アイルさんを死なすわけにはいかないわ! ここは警察よ? 人が死なない方法でお願い!」
「お前……それ読めるのか?」
「オー。ニホンジン、神経質ネ。アメリカデハ架空ノ人死ンデモ誰モ気ニシマセーン」
そう言いながらも、ベースポールコップは新たなメールを打ち込む。
『New clear massage is approaching』
メッセージ送信。……だが
「ノー! チョット強引スギタミタイデース!」
「ちょっとどうするのよ!!」
ノープロポリスが半ばヒステリックになる。
「うるせぇな! たまには自分の手も動かせよ!」
「分かったわよ!」
逆ギレ気味にノープロポリスがスマホに打ち込む。
『くるくる飛んでくミサイクル』
「……なんだそれ」
『アメリカより新型自転車が発射されました。コトノハシティの住民の皆さんは注意してください』
「自転車に変わった!?」
「ふー、よかったー……」
ノープロポリスは
――そのとき。
ピロリン。
「ん? なんだ?」
スマホを開くと、
『今日は本当にありがとう誤字また』
……そして、コトノハシティは今日も
【1話完結】言霊捜査2課の遊撃つ 風上カラス @moyashi_japan
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