第3話 キョウヤは私の理想の男の子

 社会の授業が始まる。

 坂本さかもと先生の授業。

 私はその授業中に、お気に入りの猫の形の付箋に『好き』と書いて、字が見えないように畳んで、キョウヤの手元に投げた。


 キョウヤはその付箋に気付いて私を見た。

 私はキョウヤの反応を見るのが恐くて、黒板に視線を向ける。


 坂本さかもと先生が黒板に字を書いていて、その手をずっと見ていた。

 頭の中は、キョウヤがどんな反応をするのか気になって仕方がなかった。


 しばらくすると、私のお気に入りの猫の形の付箋が戻ってきた。

 私は恐る恐る見ると、『そう』とだけ書いてあった。


 どういう意味?

 分からなくてキョウヤを見る。

 なんだか悲しそうな顔をして、私を見ている。


 好きって言われたのが嫌だったの?

 今の友達関係が終わることが悲しいの?

 友達になったことを後悔してるの?


 私、嫌われた?

 どうしよう。

 言わなきゃよかった。


 どうしよう。

 泣いちゃう。

 こんな所で泣けない。


「先生、ウメがお腹痛いみたいだから、保健室に連れて行きます」

「そうか? 分かった。無理するなよ」


 私はキョウヤに手を引かれて教室を出る。

 女子達が悪口を言っていたけれど、それどころではない。


 泣かないように我慢をするので精一杯。

 大きくて温かいキョウヤの手が私の心を締め付ける。


 泣かない。

 絶対泣かない。

 迷惑かけないから。


 キョウヤは保健室へ行くことなく、人気ひとけのない空き教室へ私を連れて入る。

 二人きりの教室は静かで、キョウヤが何を考えてここへ来たのか分からない。


「いいよ、泣いても」


 その言葉で私の目から涙が溢れる。

 下を向いて泣いている私の涙は、ポロポロと次から次へと床へと落ちていく。

 キョウヤの手と私の手は繋がれたまま。


「俺だったら、泣かせないのに」

「えっ」

「俺だったら、ウメをずっと守るのに」


 何を言ってるの?

 意味が分からないよ。


「もう、無理だ」


 キョウヤはそう言うと、私を引き寄せ抱き締めた。

 何が起こっているのか分からない。


「悲しむウメを見たくない。笑っているウメしか見たくない。何ができる? ウメが笑うために、俺には何ができるんだよ?」


 どうしてそんなに苦しそうに言うの?

 嫌なんでしょう?

 私に好かれるのが嫌なんでしょう?


 友達のままがいいから、断る言葉を書かなかったんだよね?

 私の告白をなかったことにしたいんだよね?


「やめて、優しくしないで」


 私はキョウヤの胸を押して、腕の中から抜け出す。


「ウメ?」

「私はキョウヤに優しくされたくない。これ以上、私を傷つけないでよ」

「ウメ? それは俺の台詞だよ。今まで、どれだけウメを守ってきたと思ってんだよ。どれだけウメとの時間を大切にしてきたと思ってんだよ」

「え? 意味が分かんないよ」


 何でキョウヤが怒ってんの?


「俺は、ウメを手離したくない。ずっと俺の隣で笑っていてほしい。あんな年上の男に騙されるなよ」

「ん? 年上の男?」


 涙なんて止まるほど、私は驚きと疑問でいっぱいだった。


坂本さかもとが好きなんだろう?」

「え? 何で坂本さかもと先生なの?」

「だって、さっき、手紙で好きって書いてたじゃん」

「それ、違うよ。私はキョウヤが好きっていう意味で書いたのよ」

「えっ、俺? でも、坂本さかもとをずっと見てたじゃん」

「だって、それは、キョウヤがどんな反応をするのか見るのが恐くて」

「なんだよ。、、、それなら、いいよね?」


 キョウヤはそう言うと、私の手首を掴み私を引き寄せ抱き締めた。


「キョウヤ?」

「本当に焦ったんだ。ウメが誰かに取られるって」

「焦ったから、私を抱き締めたの?」

「うん。傍で守るだけじゃダメなら、抱き締めて離さなければいいんだって思ったんだよ」


 凄い独占欲だね。

 でも、それを嬉しく思えるのはキョウヤだから。


「それはキョウヤだから許されるのよ?」

「えっ」

「キョウヤだから、私の理想の人だから、私の大好きな人だから、許されるのよ」

「じゃあ、これからは遠慮なく、そうさせてもらうよ」


 キョウヤは、いたずらっ子のような顔で私に言った。


「あの日の女の子みたいなキョウヤはどこにいったの?」

「あれは、俺の黒歴史だよ。母親に髪をカットされて、あんな髪型になって、黒歴史だから忘れていたのに、ウメが思い出させたんだよ。ちゃんと責任とってよ」

「責任って何?」

「俺を男として見てよ」


 照れながらキョウヤは言う。

 可愛いなぁ。

 まだまだ男としては半人前ね。


「照れてるキョウヤも可愛い」


 私はキョウヤをからかう。


「だから男として見ろよ」

「そろそろ教室に戻ろうか? 保健室にも行ってないし、先生にバレたら怒られちゃうよ」

「あっ、話題変えたな?」


 私はキョウヤに背を向けて空き教室のドアに近付き、ドアを開ける前に振り向く。


「キョウヤは格好いいよ。私を守ってくれる王子様だもん」


 これで伝わるかな?

 キョウヤは私の大好きな理想の人。

 理想の男の子。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理想の人はお人形さんのような綺麗な顔の子だった。近くにそんな顔のイケメンがいるけど彼は友達 来留美 @kurumi0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ