第2話 キョウヤとは友達なんかじゃいられない

「部活、行かないの?」


 放課後になり、私は窓の外を見ながらキョウヤに言った。


「ん? 今日は、行かない」

「でも、みんながキョウヤを待ってるよ?」

「俺、部活は入ってないし、ただ呼ばれて行くだけだからさ」

「キョウヤは、どこの部活に行っても救世主扱いだもんね」


 キョウヤは運動神経抜群だ。

 何をさせても完璧なの。

 そんなキョウヤを、どの部活の人達も欲しがるのよ。


「キョウヤ」


 私は、窓の外に向けていた視線をキョウヤに向けてキョウヤを呼んだ。


「何?」


 キョウヤはフワッと柔らかい笑顔で私を見て言った。

 整った顔の笑顔は私をドキドキさせる。

 イケメン相手にドキドキしない人なんていないよね。


「どうして私なの?」

「何が?」

「友達になってくれたのはどうしてなの?」


 キョウヤは考えることなく、すぐに答える。


「ウメが俺を救ってくれたからだよ」

「私が?」

「あの日、ウメが俺の殻を破ってくれた。周りの人の理想になろうとしていた俺は無理をしてた。それをウメはバカじゃんって言って俺に気付かせてくれたんだ」


 あの日を思い出して、私はクスクスと笑ってしまう。


「バカって言われた相手を友達にするの?」

「俺はする。ウメだから友達になったんだ」


 キョウヤは優しい。

 それはずっと変わらない。

 入学当初は今と違って、周りの目を気にしながら、目立たないようにしていた。


 今は、表情も豊かになったし、私が悪口を言われると一緒に怒ってくれる。

 誰の目も気にしない。

 のびのびと毎日を過ごしている。


 そんなキョウヤになったから、告白されているのを見たこともあるし、女子の目がハートになっているのも見たことがある。


 でも、恋人を作らないキョウヤ。

 なぜなんだろう?


「ねえ、今から一緒に公園に行ってみる?」

「公園?」

「私と理想の女の子が出会った公園だよ」

「行く!」


 キョウヤは嬉しそうに子どものように返事をした。



「この坂を登って、ほらっ、ここだよ」


 私とキョウヤは公園へ到着した。

 懐かしい風景。

 キョウヤを見ると驚いた顔をしている。


「キョウヤ?」

「俺もここ、来たことがあるよ」

「そうなの? でもキョウヤって、遠くから引っ越して来たんだよね?」

「うん。でも何度かこの街には来たことはあるよ」

「そうなんだ。あっ、あのブランコでどっちが高いか競争したなぁ」


 私はブランコに乗る。

 懐かしくて嬉しくなる。

 ゆっくり動かしてあの日を思い出す。


 あの女の子が凄く楽しいって笑う、そんな女の子の可愛い笑顔に目が離せなかった。


「凄く楽しい」

「えっ」


 キョウヤが、ブランコに乗りながら私に向かって笑った。

 あの日の女の子の笑顔がキョウヤと重なる。


 キョウヤなんかじゃない。

 あの女の子は男の子なんかじゃない、、、はず。


「ウメ?」

「キョウヤ、今日は帰ろう」

「えっ、もう? 楽しいのに」

「いいから、帰ろう」


 私は急いで公園を出る。

 キョウヤは不思議そうに私を見ていた。

 でも何も訊かない。


 そのままそれぞれの家へ帰る。

 私は寝る前に、今日のことを考えた。

 あの女の子とキョウヤが同じ人にしか見えなかった。


 お人形さんみたいな顔で笑うと、右の頬にエクボが出来る。

 キョウヤも笑うと右の頬にエクボが出来る。

 何度考えても私の理想の人はキョウヤと結びつく。


 どうしよう。

 私、キョウヤが、、、好き、、、。


 でもキョウヤは友達で、私がキョウヤを友達として見ていると思っているから一緒にいるだけで、もし好きだなんて言ったら、離れていく。


 それは嫌。

 キョウヤと一緒に居て、楽しくて、壊したくない、、、今の関係を。



「ウメ、昨日はどうしたんだよ?」

「えっ、あっ、うん、何でもないよ」


 次の日、学校へ行くとキョウヤが話しかけてきた。

 いつも通りにしたいのに、意識してしまって話せない。


「ウメ?」

「あっ、リンちゃんに呼ばれてたんだった」


 私はそう言ってリンちゃんの席へ向かう。

 キョウヤの悲しそうな顔を見ると心が痛む。

 今だけ、少しだけでいいから忘れる時間を頂戴。


「リンちゃん、どうしよう」

「ウメ? 何? どうしたの?」


 リンちゃんは、私が困っているのに気付いて驚いている。


「私、理想の人を見つけたの」

「えっ、本当に? いたの?」

「うん。キョウヤだよ」

「ウソ~。だって違うって言ってたじゃない?」

「違うと思ってたの。でも、昨日、完全に理想の人を思い出して、隣にいたキョウヤがその面影と重なったのよ」

「キョウヤ君は何て言ったの?」

「訊いてない。訊けないよ。どうしよう」

「でも、キョウヤ君が理想の人でも理想の人じゃなくても、ウメは好きなんでしょう?」

「、、、好きだよ。何で分かるの?」

「だって、二人でいる時のウメもキョウヤ君も楽しそうなんだもん。友達なんかじゃない雰囲気。幼馴染を彼氏にしてる私だから分かるんだよ」


 リンちゃんの言葉に納得してしまう。


「だから、まずは好きって言いなさい」


 リンちゃんがズバッと正論を言う。


「でも、友達じゃなくなっちゃうよ」

「ウメは友達のままがいいの?」

「嫌よ。でも、嫌われたら嫌だし、、、」

「みんなそうだよ。嫌われたくないよ。でも、そんなこと言ってたら、ずっとこのままだよ? そしてキョウヤ君には好きな人ができて、、、」

「そんなこと言わないでよ」

「じゃあ、好きだって言ってきなさい!」


 リンちゃんは私の背中をポンッと叩いて気合いを入れてくれた。 

 そして私はキョウヤの元へ戻る。

 正しく言えば、キョウヤの隣の席の自分の席へ戻る。

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