理想の人はお人形さんのような綺麗な顔の子だった。近くにそんな顔のイケメンがいるけど彼は友達

来留美

第1話 キョウヤは私の理想の人なんかじゃない

「どこかにいないかな? 私の理想の人」


 私は教室の窓から空を見上げて言う。

 学校にも、公園にも、駅前にも、ショッピングセンターにも、どこにもいない。


 私の名前はウメ。

 おばあちゃんみたいな名前と昔からいじられる。

 気にはしていない。

 ただウザイだけ。


「理想の人に出逢えてないなら、いないんだよ。少し条件を変えれば出逢えるかもよ?」


 私の隣の席の男友達が言う。

 彼の名前はキョウヤ。

 高校一年生で同じクラスになり、仲良くなって高校二年生の今に至る。


「ところで、理想の人ってどんな人なんだよ?」

「あれ? 言ってなかったかな?」

「うん。聞いたことないかも」

「それなら教えてあげる、、、」


「ほらっ、授業が始まるぞ」


 先生が教室に入ってきたことにより、続きは言えなかった。

 キョウヤは残念そうに先生の方を向いた。


 そんなに私の理想の人が気になるの?




「それで、理想の人って、どんな人?」


 授業が終わり先生が教室を出る前に、キョウヤが私の理想の人を訊いてきた。

 そんなに焦らなくても私は逃げないし、秘密にするつもりもないわよ。


 時間はたくさんあるんだからさ、落ち着こうよ。


「それは、、、」


「キョウヤ先輩」


 私が話そうとすると教室のドアの所で後輩女子達がキョウヤを呼んだ。

 キョウヤはちょっと待っててと言って彼女達の所へ行った。


 私は、待つ、、、わけがない。

 椅子から立ち、トイレへ向かう。

 キョウヤがチラチラと私を気にしているのか見てきたが、私は何も気にせずに教室を出た。


 トイレの個室に入っていると、女子軍団が入ってきた。

 それから、彼氏の話や友達の悪口大会が始まった。


「ねぇ、キョウヤ君って格好いいよね?」


 キョウヤの話になったということはこの後の話は予想がつく。

 どうせ私のことだ。


「隣に、いつもいるウメおばあちゃんはどうにかならないの? 全然可愛くないし、ショートボブが座敷わらしみたいだよね。名前もぴったりだよ」


 始まった。

 私の悪口大会。

 私はここにいるわよ。

 全部聞いてるわよ。


「おーいウメ。ここにいるのか? もしかしてだいなのか?」


 いきなりキョウヤの大声がトイレに聞こえた。

 女子トイレに向かって言う男子っているの?

 変態じゃん。

 変質者じゃん。


「えっ、キョウヤ君? ウソ。見に行こうよ」


 女子軍団は出ていった。

 私は個室のトイレから出て、手を洗って出ていく。


「ウメ。トイレに行くなら言ってから行けよ」


 キョウヤがトイレの横の壁に背を預け待っていた。


「トイレくらい行くのに言う必要はないでしょう?」

「俺だって行きたかったのに」

「はぁ? 男子トイレと女子トイレだよ? 一緒に行く必要あるの?」

「どうせ隣なんだから一緒でいいじゃん」

「あり得ない。そんなこと言えるのは、キョウヤがその顔だから許されてるんだよ」


 キョウヤがイケメンだから何でも許される。

 そして、キョウヤがイケメンだから私は悪口を言われる。

 もう慣れたけどね。


「それで? ウメの理想の人は?」


 キョウヤは、また私の理想の人を訊いてきた。


「あっ、次って社会の授業だよね? 私、先生に教材を取りに来いって言われてたんだった」

「えっ、先生って坂本さかもと?」

「そうだよ。じゃあ行ってくるね」


 私は資料室へ向かう。

 資料室のドアを開けると坂本さかもと先生がいた。

 坂本さかもと先生は、若い男性の先生で女子に人気なの。


 イケメンの大人の男性って、高校生の女子には格好良く見えるよね。

 私は例外だけどね。


「これを持って行ってくれるか?」

「は~い。ちょっと重い」

「すぐそこだから頼むよ」


 先生と二人で教室へ向かう。

 しかし、重い。

 おでこに汗が少し滲む。


「俺が持つよ」


 そして、私の荷物を軽々と持ち上げた。

 顔を見なくても分かる。

 キョウヤだって。


「キョウヤ? どうして来たの?」

「女子が男の先生と二人っていうのは危ないからだよ」


 先生がキョウヤの言葉を聞いて、俺って信用ないのかよと言って笑った。

 キョウヤは笑わず真顔だった。




 それから昼休みになった。

 中庭でキョウヤと二人でお弁当を食べる。


「いい加減、ウメの理想の人を教えてくれよ」

「私だって教えたいのに、私が言おうとすると邪魔が入るのよ」

「それなら、先生も来ないし、後輩も来ない、ウメも忘れていることはないし、大丈夫。ほらっ今、言って」

「私の理想の人は、、、」


「ウメ~」


 邪魔が入った。

 なんなのよ。

 私、言っちゃいけないの?


「どうしたのリンちゃん」


 私の大親友のリンちゃんが遠くから手を振りながら近付いてくる。


 リンちゃんは、黙って大人しくしていれば可愛いのに、好き嫌いが激しいから、嫌いな人には口が悪くなるところがあるから勿体無い。

 私はそんなリンちゃんが好きだけどね。


「ウメ~、私、もうダメかも」

「何? もしかして、またコウ君?」

「そう。アイツ、私のタコさんウインナーを食べたの。私が大事に最後まで残していたのに」


 リンちゃんは泣く真似をしながら私に助けを求める。

 コウ君とは、リンちゃんの幼馴染みで恋人でもある。


「それなら私のあげるよ」


 私はリンちゃんの目の前にタコさんウインナーを差し出す。

 リンちゃんはパクッと食べて嬉しそう。


「ウメの作ったタコさんウインナーは美味しいね」

「作ったって言うか、焼いたやつだよ」

「焼いても、心が込もっているから作ったでいいの」


 リンちゃんは可愛く笑った。

 リンちゃん大好きだよ。


「ねぇ、ウメ」

「何? リンちゃん」

「ウメとキョウヤ君はいつになったら恋人になるの?」

「えっ、リンちゃん? 何を言ってるの?」


 リンちゃんが爆弾発言をした。

 キョウヤは、ご飯が喉に詰まったようで咳込んでいる。


「だって、ウメの理想の人にぴったりだよ?」

「えっ、ウメの理想の人って俺なの?」


 キョウヤはリンちゃんの言葉を聞き逃さず、リンちゃんに確認をした。

 しかし、リンちゃんの発言には私も驚いた。


 だって全然違うから。

 私の理想の人はキョウヤじゃない。


 私の理想の人は、私が小さい頃に出会った同じ歳くらいの、お人形さんみたいなボブくらいの髪型の女の子。

 女の子なのに男の子みたいな言葉遣いで、服装も男の子みたいだった。


 でも本当に、お人形さんみたいに可愛い女の子に私は目も心も奪われた。

 私はずっと、あの女の子を探している。


 あの女の子に会いたい。

 会って、自分の気持ちを確かめたい。


「私の理想の人は、キョウヤじゃないし、男の子じゃないの」


 私の言葉に、キョウヤは固まった。


「えっ、俺と全然違うじゃん」


 キョウヤはがっかりした顔で言う。

 

「でも、キョウヤ君もお人形さんみたいな顔だよ? ほらっ、私の髪をキョウヤ君の頭に乗せると、女の子だよ?」


 リンちゃんはキョウヤの頭に自分の長いサラサラした髪を乗せる。

 不自然すぎて笑ってしまう。


「リンちゃん、それは無理あるよ」


 私は笑い過ぎてお腹が痛くなった。

 あり得ないよ。

 あの女の子がキョウヤなんて。


 あり得ない、、、。

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