予算は1000円おでんチョイス
白川津 中々
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さぁコンビニおでんの時期である。
クソ寒い中で食うとクソ美味い料理筆頭おでん。気温が低ければ低いほど力を発揮する温かさは冬のメインウェポン。しかし予算は1000円。品目を吟味する必要があるだろう。鉄板はしらたき、大根、玉子の三神器だが、それはあまりに保守的。コンビニというインスタントに欲望を消化できる施設。もっとわがままなオーダーが許される環境下でなぜ守りに入る必要があるのか。欲望のまま、腕白なセレクトをすべきだろう。となると正答は牛すじ、ウィンナー、ロールキャベツ、これである。肉のフェスティバルの開演。溢れる野生をこの身に受けて欲望を発散する算段。食うぞという気持ちを抑えつつ、グッとレジに並ぶ。肉の旨みを享受したい心持ちで空腹を我慢。そんなに肉が食べたいなら焼肉でも食べたらいいんじゃないかって? 月給考えろ馬鹿! 手頃に食えねぇよ焼肉なんか! だからここで肉を食うんだよ! ちくしょう食うぞ肉を! 安く煮込まれた屑肉でクソ寒い日を満喫だ! レジ番は次! 早く終わらせろ前方のヤンキー! お前はセッタか赤マルでも頼んでいろ!
「ウィンナーと牛すじ全部。あと、ロールキャベツある? あ、あるんだ。じゃ、それも。え? ロールキャベツも全部だよ、全部。よろしく」
……え?
耳を疑う。
え? 俺が狙っていた肉類を、え? 全部?
「はい。4200円です」
「カードで」
「はい……はい。あざーす。レシートは?」
「いらない」
「しゃーす。はい、あーしゃしたー」
「……」
ヤンキー退店。なんという事だ。買い占められてしまった。俺は何を頼めばいい。手にしているコーラとグミと、後は、何を……あ、早くレジ行かないと……
「はい、2点っすねー」
「……」
「レジ袋つけやすか?」
「……いらないです」
「はい。360円です」
「はい……」
「はい。ちょうどですね。あーやしたー……」
「……」
結局、おでんを買えずにコンビニを後にする。夜風が寒い。畜生、まだ大根やしらたきはあったのに、動揺しすぎて頼めず、子供のおやつ程度の買い物しかできなかった! どうして! なぜ! こんなにも惨めな思いをしなければならないのだ! 俺はただ単に、出汁で煮込まれた肉を食べたかっただけなのに……
寒空のなか、コーラとグミを持ってコンクリートを歩く。温めてくれる存在は、なにもない。
予算は1000円おでんチョイス 白川津 中々 @taka1212384
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