台風が来る(1話完結)

満腹ペンギン

台風が来る

「深夜、台風が来るから気をつけろ」

昼休みに先輩が言っていた。


雨も降っていたし

空は鉛色で

風は獣の唸り声のようだった。


帰り道、コンビニには傘を買う客が並んでいた。

僕もなんとなくカップ麺を買って帰ることにする。


夜、カーテンを閉めて窓の鍵を確かめた。

強風が吹くたび、ガラスがガタガタと震える。

テレビでは「深夜には暴風域に入る」と言っている。


ベランダの物干し竿も倒して、

懐中電灯を枕元に置いた。


夜中の二時

ガタガタッ、と大きな音がして目が覚めた。

風が窓を叩いている。

ドアの隙間から風が吹き抜ける音も聞こえる。

暴風域に入ったようだ。


「結構すごいな……」と独りつぶやいて、

布団の中でじっとしていた。


ズザザザ

と外で何かが引っ張られる音がする。

風に何かが引きずられているのだろうか。

少し興味が湧いたが眠気には勝てなかった。


朝になるとすっかり静かになっていた。

ベランダに出て伸びをする。

妙に静かだ。

毎朝、布団をバンバン叩く隣人の姿が今日は見当たらないことに気がついた。

「ベランダが濡れているから布団を干さないのか」そう一人納得しかけたが、不思議なことにベランダも道路も木の枝も濡れていなかった。


出勤して先輩に「台風すごかったですね」と言う。すると、彼は何を言っているんだと首を傾げた。


「え? 台風、夜のうちに進路をそれたらしいよ。結局、上陸はしてないはず」



……じゃあ


あの夜、窓を叩いてたのは誰?

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