ごちそうさん。ごめんな。

ごちそうさん。ごめんな。

　うちは喫茶店をしてる。自宅と繋がってるから、流行ってるのは知ってる。

　僕は喫茶店をしていた。性に合わずやめて、経営が好きなツレに店を貸した。コーヒーを淹れるのは好きやったけど、感想までは聞いてなかった。自分でも店主失格やったと思う。だってさ、「酸味」って言葉の使い方、みんなバラバラやねんもん。「雑味」とかも。もちろん正解なんかないねんで。僕も酸味ってワードはフワフワ思い浮かぶし。けど、なんていうか、定型分みたいになってたら、僕もそれなりにきちんとした言葉で返さんな悪いやん。それがしんどなって店やめた。

　趣味でコーヒー淹れといたらええって単純なもんでもない。美味しいっても思ってもらうことは好きやねん。だからそれなりに苦労して店を立ち上げてん。でも、僕の知らん言葉で感想言われたら、何て答えたらええか分からんくて。「あー美味し。」「ありがとう。」これだけでよかってんけどな。

　台所のコーヒー豆が切れてしまった。カフェイン中毒でもないから、困りはせんのやけど、今日は美味しいコーヒーを飲みたかった。貸してるお洒落なカフェに飲みに行った。

　それがな、あんまり美味しくなかってん。ツレには言えんけど。具体的に言うたら、「薄い。」

　味の感想としてはそれだけ。哲学もない。技術的に煎り方、淹れ方、温度管理とか、言おう思ったらなんぼでもあるねんけど、そういうのって疲れるやん。言う方も聞かされる方も。だから、「ごちそうさん。」とだけ言うた。ごめんな。

　夜勤から帰ったらモーニングしてんねん。僕の寝る部屋までええ匂いしてくる。焙煎の香りもしてて、忙しいしてんねんなあって感心してる。活気があるのはいいもんやし。

　ツレは動画作ったり写真撮ったりしてて、SNSもうまいことやる奴やって。でも仕事としてはむずいって相談に来たから、「ほんじゃここやる？」ってことになった。

　しばらく（長かったな）、僕やってた店を手伝ってもらいながら、焙煎とかドリップとか教えてん。ほんで後は好きにやってって。

　やっぱ色んな店知ってる奴は違うな。大阪の店みたいに洗練っていうのかな、シュッとされていった。BGMも偏ったジャズからボサノバとかそういうのんに。今はサブスクでプレイリストがあるねんてな。コーヒー飲んでる時に「これ誰の演奏なん？」って訊いても知らへんだから、そんなもんやねんな。

　断っとくけど、僕はお洒落な音楽好きやねんで。けど知らん音楽は「借りもん感」が抜けへんで、落ち着かへん。リラックスしてもらいたい店にするんやったら自分が心地良くないとって思ってて。お客さんが嫌がるフリージャズとか流してたんは、ほんまに僕の落ち度やったわ。つくづく向いてへんかってん。けど、そんなお店に通ってくれてた、素な常連さんにはまた会いたいなあ。