こんな【はだかの王さま】はイヤだ。

レッドハーブ

こんな【はだかの王さま】はイヤだ。

むかしむかしのおはなしです。

ある国に洋服が大好きな王さまがいました。

お城で頻繁ひんぱんに服を着替えては、みんなに自慢じまんをしているのでした。


あるときのこと……。

王国に1人の仕立て屋がやってきました。


「私は、世界で一番の服を作ります」

「ほぅ、大きくでたな…」

「はい!おまかせ下さい!」

「ではワシの服を作ってもらおう」

「かしこまり!」


仕立て屋はすぐに服づくりにとりかかりました。



そして何日かたったある日のこと。

王さまはどんな服か気になり、一度見せてもらうことにしました。


「途中経過がみたい」

「いいですよ!これです!」


しかし、そこにはマネキンのみ…


「なにぃ!?ドコにもないではないか!」

「残念ですが…この服はバカには見えないのです」

「バカには見えない?困ったな…」

「なにかお困りですか?」

「今度パレードをするんだよ、民衆には賢民と愚民がいるからワシの服が見えないんじゃ困るなぁ」


王さまは考えました。


(う〜む、あれではみんなが楽しめないな……。よし!体を絞ろう!!愚民どもにはわたしの肉体美で埋め合わせだ!)


王さまはパレードまで体を徹底的にきたえました。

周囲の人たちが心配するほどに体を鍛えました。


「王さま、そろそろ休まれた方が……」

「い〜や、まだじゃ!!」


それから何日か経ちました。

王さまの肉体は引きまったボディになりました。

身体中のムダ毛処理も完璧です。


「う〜む、我ながら……いい仕上がりじゃ!」


鏡の前で何度もポーズをとるくらいに、自己陶酔じことうすいしていました。


そして、パンツ一枚になりに仕立て屋に服をきせてもらいました。


「王さま!とても…お似合いです!」

「ふむ、着ている感じがしないな!?」

「この服は、とても軽いので着ているかどうかも分からないほどなんです」

「そうか、最近の服はよくできてるなぁ」


王さまはさほど気にもせず、立ち上がりました。


「よし!では、街を歩き民衆みんしゅうにこの服を見せることにしよう。仕立て屋よ、キミのことも紹介するからパレードに参加したまえ」

「ええ!?いえ、わたしは…」

「遠慮するな、行くぞ!!」


王さまはそう言って、行列の用意をさせ、自分は、みんなによく見えるようにと、馬に乗りました。行列が街を行くと、人々は口々に言いました。


ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……


「おいおい!王さまはパンツ一枚じゃないか!」

「ホントだ!パンツ一枚だ!」

はだかの王さまだ!だけど…」


「「「だけど……すばらしい肉体だ!」」」


「スゴい胸板だ……!!」

「腹筋もシックスパックになってるわ!」

「並大抵の努力ではない……!!」

「まさか…この日のために体をしぼったのか!?」

「尊敬にあたいする!筋肉も!性格も…!!」


と、みな口々に話します。行列がすすんで行くと、突然、小さい子供が叫びました。


「王さまが何も着てないよ!」

「…ん?キミにはそう見えるのかい?」

「そうとしか見えないよ!風邪引いちゃう!」


少年は自分のマフラーを渡そうとしました。


「ありがとう。気持ちだけ受け取っとくよ」

「でも、なにか身に付けなくちゃ!」

「身に付けたものは自信だよ」

「……え!?」

「キミも…そのうちわかるさ。体を鍛えれば!」

「え?え?どういうこと?」

「焦ることはない。ゆっくり賢くなればよい」


少年の頭に【?】マークをたくさん残したまま、王さまはその場を去っていったのでした。


パレードも無事に終わり、王さまはみんなの前で話しました。


「ところでわたしの洋服はどうだっただろうか?賢人にしか見えないらしいが…見えたものは感想を聞かせて欲しい」


シーン……


だれも名乗り出ませんでした。


そこで、王さまは仕立て屋ににだまされたのだとわかりました。


「仕立て屋よ、これはどういうことかな?」

「……え?」

「ワシと国民を…たばかったのかな?」

「いや、その、ですねぇ……」

詐欺罪さぎざい不敬罪ふけいざい侮辱罪ぶじょくざい……たくさんの罪があるな?」

「あわわわわ……!」

「だが、命まではとらぬ。人間は服ではなく筋肉が大事ということを、キミのおかげで気付かされたからな」

「あ、ありがとうございますぅ!」

「だから、一撃で清算してやろう…!」


王さまはパンツの中からフライパンを取り出しました。


「え?ウソ!これ許されるパターンじゃ!?」

「極限まで鍛えられた筋肉による一撃を…喰らうがよい!!」


BAKOOOOOOON!!


王さまのフルスイングが見事に決まり、仕立て屋は遠くへ飛んでいきました。


こうして王さまは以前ほど洋服にはこだわらなくなりました。


しかし……


「どう見ても……グランプリだよなぁ……」


毎日鏡のまえでポーズをとり、極限まで鍛えられた自分の筋肉に見惚みほれる日々をおくりましたとさ。

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