片耳イヤホン
遠山ラムネ
片耳イヤホン
休日の昼下がり。
適度に空いたショッピングセンターで不意に聞こえてきた随分と懐かしい曲に、つい歩調が緩んだ。
えー、これいつの?結構前だよね
だって私がまだ、高校生だった頃
音楽は永遠、なんてよくいうよな、とか思って、ちょっと大袈裟かなと少し笑う。
でもほんとすごいよね、こんなワンフレーズですぐに分かるし、あっさりと巻き戻される。繰り返し聞いてたあの頃の、空気感とか、不安定な熱量とか。
とても好きな人がいたな。
それがどれほど幸運なことだったか、今なら分かる。彼氏じゃなくてもいい、片想いのままでも。ただただ全力で誰かを好きだった記憶がいつか得難い価値をもつなんてこと、当時は知らなかったけど。
一緒に聞いたりなんかした。帰り道、イヤホンの片方を、借りたりなんかして。
思い出すとにやけてしまう。あまりにもステレオタイプな青春ぽさで、今更ながら気恥ずかしかった。
「ねぇ、ねえー、どうしたのー?」
下の方で、繋いだ小さな手がくいくいと指先を引く。
「んー?あのねー?この歌、すごく懐かしくてねー?」
「えー?これー?初めて聞くよー?」
「お母さんが高校の頃にねー、はやったの。お父さんも好きだったよー」
「えー?おとうさんもー?」
小さな頭が、思案げに揺れる。
あの頃には想像もし得なかった未来。
この子もいつかとても好きな人を、ちゃんと見つけられるといいなと願う。
Fin
片耳イヤホン 遠山ラムネ @ramune_toyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます