ホロストリーム 第И話 『昭和百年記念式典』

宵月ヨイ/Yuk=i=a

第1話

昭和百年、11月10日。今年もこの日がやってきた...まぁ前回こういう式典があったのって5年前なんだけどさ。そんなことを考えつつも、今向かっている場所は宮城だったりする。日程からしてお察しの通り、大元帥陛下が即位して今年で百年の節目を迎えるというとてつもない大行事。現人神と言われているとはいえ、この世に生を受けてからすでに120年以上を生きているのに全然表に出てきているのはいっそ本当に神か何かなのではないかと思えてきてしまう。


「...行くのか?」

少し不満そうな顔をしているヨイだけど...小さく口づけして、「行ってきます」と一言だけ言っておく。なおも不満そうなヨイだったけど、呆れたようにため息を吐くと「お前はちゃんと帰って来いよ?」と小さく笑った。うん、やっぱり私のお嫁さんはかわいいね。あれ?私がお嫁さんか。

それにしても、こんな早朝から起きて私のお見送りをしてくれるのは感激をおぼえるものがある。まぁ単純に、イラスト書いてたのかそれとも配信してたのか...というところはあるけどね。そんな野暮な考えは海にでも捨ててしまえばいいんだよ。実際に海に捨てたら不法投棄で、蘆屋元帥に化けて出られかねないからやめておく。そもそも化けて出たら大元帥陛下とふっつーに話し出しそうというかね...。


小さくため息をつきつつもまだまだ暗いところを歩く...というわけにはいかないものの、すでに車を用意していたらしいイオが「少しばかり遅くないですか?」と口にする。それにジト目を向けて「お嫁さん侍らせてる人に言われたくないですよー」と言ってやれば、瞬時に頬を赤くしたイオが何かを言う前にステラが笑った。

初めて会った時こそイオはきりっとしてたのになぁ...なんてのは思うところはあるけど、考えてみればステラじゃなくて「棗田聖」の時のステラにさえイオは結構デレデレしてたのだし、まだ夜中ということもあってかイチャイチャするのは分らない話でもない。僕とヨイみたいに、姉妹みたいな関係性の方が珍しいのかもしれない。


そういえば...と今回の式典に来るはずのもう一組を探してみると、楽しそうな恵美が靜を振り回していた。当然物理的ではないけどね。それに、困った表情をしているけど靜も楽しそうだしね。一応は幼馴染らしい僕としては、楽しそうにしている姿を見れて何よりです。おじさんなエトラは、ミーチェ...じゃなかった、カエデにメスにされてたからカエデと一緒に寝てるのかな?釈然としないものはあるけど、楽しそうで何よりです。


「...優希、夜、静。今回は気を付けて。特に、不用意に裕仁陛下をゆすぶろうなどしているのがいたら、走ってでも止めた方がいい。今日は嫌な予感がするからね」

そんなことを考えていたら、とうのエトラ...いや、おじさんかな?がでてきた。僕たちの名前を全員呼ぶということは、それだけに重要なことなんだろう。横鎮の裏ボス、家に消されかけた国女候補、陛下のかつての話し相手。そうそうたる面々だけど、それだけに何かあればすぐに動けるからね。力はないけど。

そんなこんなで、僕たちは家を出た。これが、実質的に最後に『宵月伊緒』と話ができる機会だということは、知る由もなかった。



午前6時半。夏には明るかったこの時間帯も、今や霜が降りてくるような季節になってしまって...。ただ、そんな中でも僕たちは宮城外苑に向かわなければならないのだよ。久しぶりの式典だもんね。なんなら百年目の式典ということで、すごい大々的に行われる予定なようで。いつぞやにあった二六五〇年式典の時以上に行われるのだとか。諸外国からも広範に人を入れるそうで、国女とかいう相変わらず頭おかしい存在も入ってきている。...とはいえ。例の一族の暴走組は粛清されているということで、アメリカからはちょっと少な目らしいけど...。


イオが運転する、ぱっと見では普通の車に見える防弾仕様の車に揺られること一時間弱。ほぼ7時半ですでに相当人が集まり始めている、少しだけ見慣れた場所に少しだけ口元を緩めつつも、未だに人の姿がほとんど見えない列に向かっていく。イオとステラは、当然ながら別の列の方へ。まぁ、がっつり神州にいたりライバーさんとして活動している二人でも、本業?ははるか西の国でのお偉いさんだからなぁ...。それに対して僕が言えることはない。


遠い目をしつつも、装着されていく数々の勲章。そんなに交戦が多いわけではないのだけど、たまに内戦に顔出したりなどの圧倒的な迷惑行為(向こう比)によって得た勲章は割と高位なものが多い。そして、大戦を経験した指導者層がほとんど全滅したこともあってか最前列...なことは変わらないのだけど、なんだかんだで僕が上の階級にされるというね...。今ここにいる職業軍人だと、一番古い交戦でも1990年代とかいう僕がいる時代からだからね。それも、例のソ連が革命からの革命返しが入った時の...。結局レーニン勲章持ちはそれなりに出たとはいえ、ソ連邦英雄賞は僕含め数人だけしか受勲されていないのだし、外国の上位勲章持ちはあまりいないようで...。


それにしても、僕って横鎮の臨時管轄官ではあるのだけど、そんな上位階級的なものではないのだけどね...。非公式官公組織の軍人とはいえ、そして勤務歴が結構長いとはいえ、がっつり国護自衛隊に関わっているわけでもなく。それどころか外部関係者的な立場にあるということもあって、正直に言ってしまえば部外者だって言ってしまってもいい。まぁ、それでもやらなければならないのだけどね。

そのまま、勲章をつけ終わった重い正装を引きずるようにして着席することになった。今でもまだ8時半ということで始まるにはしばらくかかるのだけど、僕にとっては十二分。これからは少しづつ物語が進んでいくのだからね...。


その後もつつがなく行事は進んでいき、最後に玉音と相成った。そして、そのまま歩いていき...突然、剣を突き立てて止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホロストリーム 第И話 『昭和百年記念式典』 宵月ヨイ/Yuk=i=a @Althanarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る