少女をかくまうエクソシスト健太郎

フィステリアタナカ

少女をかくまうエクソシスト健太郎

「田所さん、ここです」

「へぇー、随分と気合いの入った場所だな」


 オレはアラフォーの霊能力者エクソシストだ。普段はお高い壺を売っているが、たまにヤバい本格的な依頼もある。今いる場所は三十年前に神隠しのあった廃墟の近くで、今月肝試しに入った小学生が帰ってこないといういわくつきの場所だ。警察が調べたらしいが何も無かったそうだ。


「じゃ、ちょっくら行ってきますわ」

「気をつけて田所さん」

「ああ、こういうのは慣れているんだ。任せとけ」


 廃墟に入ると負のエネルギーが滞留している、完全にヤバい場所だ。ここまで強いエネルギーとはいったい――、


「怨念がおんねん。なーんちって」


 オレがくだらないことを言うと、エネルギーはピタッと止まり、オレの存在に呆れているようだ。どうやら会話ができそうだ。オレは負のエネルギーに向かって話しかけた。


「おう。お前、いくら何でも関係ないヤツを巻き込むのはどうなんだ? しかも子供だろ? 恨みが晴れないのはわかるが、子供に罪はあるのか? いや、無いだろ?」


 怨念は一気にオレに向かって、敵意を向け始めた。こりゃー、すげぇや。よっぽど辛い思いをしたんだな。


「まあまあ、そんなに敵意を向けるなって。お前さんの辛い気持ちがわかればいいんだが、生憎そこまでの能力が無いんでね。ここは穏便に行きましょうや」


 怨念は警戒心を解かない。まあ、予想通りだけど。


「子供たちを返してくれないか? お前さんがやっていることは輪廻から外れたことだぞ――でだ。何がそんなに恨めしいんだ? 教えてくれないか? どんな思いでここにいるのか知りたいんだよ」


 オレがそう言うとエネルギーがオレに襲い掛かってくる。若干の息苦しさと頭の中で映像が溢れ出してきた。


『――なんで? 愛しているのに――こんな……私、殺されるの』


 水面に一滴の水が垂れ波紋が出るように、悲しい感情の波がオレの胸に伝わってくる。痴情のもつれ。どの時代でも起こり得ることだが当事者にとってはこれほどの苦しみはないのかもしれない。――苦しい、息がしたい。


「はぁ、はぁ、はぁ――そうか……辛かったんだな。気持ちが晴れるまで代わりにオレを恨んでもいいぞ。まあ、本人じゃないから無念は残ると思うけどな」


 オレがそう言うとエネルギーが後退し、徐々に薄れていく。ああ、自分がしてきたことの愚かさに気づいたのか。大丈夫。まだ奈落の底へは向かわない。


「とりあえず奈落へ落ちるのは回避できたな。成仏して極楽へ行けるといいな。成仏を手伝おうか?」


 まあ、返事が無くても真言を唱えるけどね。オレは手を結び、目を閉じて、眉間にこそばゆいエネルギーを感じながら真言を唱え始めた。自分から出るエネルギーに浄化され負のエネルギーが消えていく。子供たちの映像が見え目を開くと、目の前の空間が避け、五人の子供たちが中から現れた。ん? 四人って聞いていたんだけど何故だ?


「ありがとな。成仏しろよ」


 エネルギーに向かって感謝をし、子供たちのところへ駆け寄る。みんな気を失っているが大丈夫そうだ。オレは一人ひとり外へ運んで依頼者のもとへ届けた。


「田所さん! どうやったんですか?」

「それは職人わざだから企業秘密」

「とにかく良かった。これで親御さんの――」


 こうして四人の子供たちは無事に親元へ帰ることができた。ただ一つ問題が発生。一人の少女だけ親がいないのだ。


「ぐすん、ぐすん」

「おう、オレ、田所健太郎っていうんだ。君の名前教えてくれるかな」

「ぐすん、早苗」

「早苗ちゃんね」

「ぐすん(コクリ)」


 もしかして三十年前の神隠しの被害者なのか? オレは彼女に誕生日を訊く。


「早苗ちゃんって誕生日いつ? 西暦何年?」


 彼女の口から出た言葉にオレは驚いた。オレとタメ同学年じゃん。呆然とした気持ちのまま彼女を見つめた。


「ふぅ」


 やれやれどうしたものか。親を探すのが一番だよな。とりあえず彼女に訊いてみるか。


「早苗ちゃん、どこに住んでいるの? 送ってあげるよ」


 彼女に住所を訊き、オレは彼女と共に歩いて向かう。彼女はいつも見ている景色とは違う景色に戸惑いを隠せず、オレに向けて不安な表情を見せた。


「おじさん、ここ知らないです」

「おじさんじゃなくて、お兄さんな――そっか、ここからわからんか」


 スマホで地図を見て、彼女の言葉の情報をもとに山勘で道を歩いた。しばらく歩くと四階建ての団地が見え、彼女は「あそこ!」と大きな声を上げた。うーん、こっからどうすっかね。


「早苗ちゃん」

「何ですかお兄さん」

「何となく気づいていると思うけど、家に親がいないかもしれんぞ」

「はい……」


 そうなんだよ。彼女が消えてから三十年経っているんだよ。団地ならば引っ越しして親族がいない可能性が充分あり得る。


「まっ、悩んでも埒があかないし、行ってみるか」


 ◆


『うちに娘はいません』


 早苗ちゃんの言った部屋を訪れると、全然知らない人物が顔を見せた。まあ、そうだよな。向こうからしたら、オレらの方が不審者だ。


「どうすっかねぇ~」

「お兄さん、あたし……」


 帰る場所の無い少女は小さくなり落ち込んだ。夕日で空が赤くなる中、オレは早苗ちゃんに言う。


「とりあえずうち来るか? 明日、探してやっから、今日は休もう」


 少女はコクリと頷いて、オレの提案に乗った。オレは彼女に訊く。


「メシどうする? 何か食べたいもんあるか?」


 彼女に食べたいものを訊いたが、特に無いようだ。そりゃそうだ。オレは知っているラーメン店へ向かい、彼女と一緒に夕食を食べることにした。


「何注文する? 餃子でもチャーハンでも何でもいいぞ」


 結局、彼女はチャーハンを一口だけ食べて、それ以外食べることができなかった。彼女の体調を気にしつつ、オレは彼女を連れて部屋に戻った。


 ◆


『合法ロリじゃん。やったじゃん』

「てめぇ、ぶっ殺す」

『はっはっはっ、冗談だよ。しかしまあ、お前の言っていることは、にわかに信じがたいがね』

「だよな」


 オレは知り合いに電話をかけ、今後少女をどのようにしたらいいのか相談した。まあ、保護者を見つけること。わかっているんだけどね。警察はまともに取り扱ってくれないだろうし、市役所も個人情報うんたらで、彼女の保護者の行方を知ることができないだろう。ホントにどうすっかなぁ。


「お兄さん」

「ん?」

「あたし邪魔ですよね?」

「邪魔じゃねぇぞ」

「そうですか?」

「ああ。ちゃんと親見つけてやっから不安かもしれんが心配すんな」


 こう言ってはみたものの、解決の糸口が見えてこない。うーん。


「学校行ってみるか?」

「えっ」

「中学生になるんだろ? 学校に通えば友達とか何か知り合いの情報が見つかるかもしれない」


 こうしてオレはしばらく少女をかくまうことにした。あっ、未成年者でやったら捕まるからね。未成年じゃないだろう、うん、そう考えよう。


 ◆


「制服買ってくれるんですか?」

「そうだぞ。友達作るのに必要ならスマホでも服でも買ってやるぞ――あっ、テレビはダメね」

「テレビはダメなんですか?」

「テレビからな。恐ろしい女が眠っているときに近づいて来るんだよ。だからダメ」

「ふふふ」


 何だかんだで時は過ぎ、早苗ちゃんを中学へ通わせるタイミングが来た。戸籍不明でも中学って通えんのか? まあ、押し通せば何とかなるだろう。しかしまあ、オレの月一の楽しみ、ヘブンメロン店のアカリちゃん一時間コースが~~! 出費がかさむから仕方がないか。


「これからもよろしくお願いしますね。健太郎さん」

「おう」


 アラフォーのエクソシストが同じ年生まれの少女と暮らす日々というものは、これからどうなるんだろう。早苗ちゃんの無邪気な笑顔を見ながら、明るい未来がやってくることを、明るい未来になるよう頑張ってみるか。

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