追放勇者は静かに笑う ―最弱スキルで世界最強になった男の逆転劇―
猫撫子
追放からの…
「……神崎悠真。お前を、この勇者パーティーから追放する。」
王城の謁見の間に、その声が響いた。
告げたのはパーティーリーダーであり、かつての仲間――勇者ガルド・ラインハルト。
金髪碧眼の美丈夫。人々からは「光の勇者」と讃えられる存在だ。
悠真は無言でその言葉を聞いていた。
彼の年齢は三十。異世界に召喚されてから一年、戦いの中で何度も死線を越えてきた。
だが――最後に待っていたのは、仲間からの裏切りだった。
「理由を聞いてもいいか?」
悠真は淡々と問いかけた。
その冷静さが気に食わなかったのか、ガルドは鼻で笑う。
「理由だと? そんなもの決まっている。お前のスキル《解析》が、まったく役に立たないからだ!」
謁見の間に、取り巻きたちの笑い声が響く。
魔法使いのリリア、僧侶のリアナ――どちらも、かつて悠真と肩を並べて戦った仲間たちだ。
リリアは指をさして笑う。
「戦闘中にデータを取って何になるの? 火力も回復もないなんて、勇者パーティーの足手まといよ!」
リアナは優雅に手を合わせて、作り笑いを浮かべた。
「神の加護を持たぬ者を、これ以上そばに置くことはできませんわ。」
――これが、かつて命を預け合った仲間の言葉か。
悠真の胸に、熱い何かがこみ上げた。
それは怒りでも、悲しみでもない。
ただ、空っぽのような虚無。
「……わかった。お前たちがそう決めたなら、俺は出ていく。」
淡々とそう言って踵を返す。
だがその背に、ガルドが冷たい声を投げかけた。
「待て。行く前にもう一つ。お前に“裏切り”の罪がある。」
「……は?」
「王国の機密を敵国に流したな。証拠もある。」
差し出されたのは、一通の手紙。
見慣れた筆跡。だが、偽造だ。悠真はすぐに見抜いた。
とはいえ――もう何を言っても無駄だ。
既に王城の兵士たちが、彼を取り囲んでいた。
「神崎悠真、貴様を王国への反逆罪で――追放刑に処す!」
王の宣告が下り、悠真は連行された。
彼の視界に映るのは、冷笑を浮かべる仲間たちの顔。
リリアは吐き捨てるように言った。
「これでようやく本物の勇者パーティーになれるわね。」
リアナは軽蔑の目を向ける。
「人間の屑に、神の祝福は不要ですわ。」
そしてガルドは、勝者の笑みを浮かべて言った。
「お前がいたから足を引っ張られたんだ。感謝しろよ、これで解放される。」
――なるほど。
悠真は静かに笑った。
「……ああ、そうだな。お前たちは解放された。だが――」
その目が、ほんの一瞬だけ、冷たく光る。
「俺も“縛り”から解放されたんだ。」
そう呟くと、悠真は拘束を振りほどき、兵士を押しのける。
剣を抜いた兵士たちが一斉に構えるが、悠真は抵抗しない。
ただ一言だけ残して、城門をくぐった。
「――後で、ちゃんと“お礼”を言いに行く。」
背中越しに響く嘲笑を無視して、悠真は王都を出た。
向かう先は、地図にも載らぬ辺境の地。
誰も寄りつかぬ荒野。だがそこには、古代の遺跡があるという。
追放された“最弱”の勇者は、今、静かに歩き出す。
その歩みが――後に世界の均衡を揺るがすことになるとも知らずに。
「……ここが、辺境の地か。」
吹き荒れる砂嵐の中、悠真は荒野に立っていた。
追放されてから三日。
王都から遠く離れた“無の大地”と呼ばれるこの場所は、人が住める環境ではない。
空は常に曇り、乾いた風が肌を切るように痛い。
荷物も金も武器も奪われ、残ったのはボロ布と、彼自身のスキル《解析》だけ。
体中が痛み、喉は渇き、視界が滲む。
(……俺は、本当に終わったのか?)
かつての仲間の笑顔が脳裏に浮かぶ。
それは裏切りの瞬間に崩れた、偽りの絆の残像。
「……いや、まだだ。」
悠真は拳を握った。
《解析》――最弱と呼ばれたスキル。
対象を調べ、情報を得るだけの能力。
だが、今までは“表層”しか見ていなかった。
――試してみるか。
目の前の岩に手をかざす。
淡い青の魔法陣が浮かび、視界に文字が流れた。
【岩石:劣化構造】
構成成分:シリカ・マナ鉱微粒子(0.2%)
状態:崩壊寸前
操作可能:再構築可能
「……再構築?」
今まで見えなかった項目が、浮かんでいる。
試しに意識を集中すると、岩が淡く光を放ち――形を変えた。
「嘘、だろ……」
拳ほどの岩が、悠真の目の前で刃を持つ短剣に変わった。
柄には魔法回路のような紋様が刻まれている。
【生成物:
効果:魔力操作効率+5%
「……ははっ。やっぱり、そうか。」
《解析》とは、“理解”の力ではなく――“創造”の力だったのだ。
対象の構造を解析し、再構築する。
つまり、世界のあらゆるものを分解し、組み直すことができる。
最弱どころか、神に等しい能力。
「……お前ら、本当に見る目がなかったな。」
悠真は乾いた笑いを漏らした。
だがその直後、身体がぐらりと傾く。
魔力を使いすぎたのだ。
視界が暗転し、意識が遠のく――。
◇◇◇
――気がつくと、見知らぬ天井があった。
「目、覚めた?」
柔らかい声に目を向けると、栗色の髪の少女が覗き込んでいた。
彼女の名はフィオナ。
辺境の小さな村で薬草を摘んでいたところ、倒れていた悠真を見つけて助けてくれたらしい。
「三日も眠ってたのよ。最初はもうダメかと思った。」
「……助けてくれてありがとう。」
「お礼は元気になってからでいいよ。」
フィオナは笑って薬草の匂いのするスープを差し出した。
その優しさが、胸に染みた。
王都では誰も信じられなかった。
だがこの少女だけは、打算のない笑顔を見せてくれる。
「……そういえば、名前は?」
「神崎悠真。……ただの落ちこぼれだ。」
「ふーん。じゃあ、落ちこぼれさん。今日からうちで働いてもらうね。」
「……え?」
「恩返し。タダで寝てた分、ちゃんと働くこと。あと――笑って。」
不意に言われ、悠真は苦笑する。
それは、久しぶりに浮かべた“本物の笑み”だった。
◇◇◇
それからの日々。
悠真はフィオナの家で働きながら、《解析》の訓練を続けた。
土を解析し、肥料を改良。
壊れた農具を修復。
やがて、村人たちは「不思議な修理屋」として彼を慕うようになった。
そしてある夜。
村を魔物の群れが襲った。
十数体のゴブリン。
村人たちは逃げ惑うが、悠真は前に出た。
「下がっていろ。」
彼は地面に手をつけ、低く呟いた。
「《解析・再構築:土壁・多層展開》」
大地が震え、土の壁が何重にも立ち上がる。
ゴブリンの攻撃を完全に防ぎ、悠真は続けざまに指を鳴らす。
「《解析・再構築:炎素強化・投射式》」
地面から放たれた火の槍が、群れを一掃した。
轟音とともに夜空が赤く染まる。
村人たちは唖然とし、フィオナだけが叫んだ。
「すごい……! あなた、本当に勇者なの?」
悠真は少しだけ目を伏せ、静かに答えた。
「……昔はな。けど今は、ただの“修理屋”さ。」
だがその言葉とは裏腹に、彼の胸の奥では、炎が再び燃え上がっていた。
「ガルド……リアナ……。お前たちが壊した俺の人生、全部“再構築”してやる。」
風が吹いた。
砂嵐が過ぎ去り、夜空に星が輝く。
悠真は空を見上げ、口元に静かな笑みを浮かべた。
――ここからが、反撃の始まりだ。
村を救った夜から、ひと月が経った。
悠真は変わっていた。
かつての絶望の色は消え、代わりに冷静な決意の炎がその瞳に宿っている。
《解析》――それは、世界を理解する力。
しかし今の悠真にとって、それは単なる情報ではなく、“可能性”を形にする術だった。
ある朝、彼はフィオナに告げた。
「少し、旅に出る。」
「どこへ?」
「
フィオナは寂しげに笑った。
「……戻ってくる?」
悠真は短く頷く。
「約束する。」
その言葉に嘘はなかった。
復讐も、力も、すべてはこの小さな村を守るために必要なものだ。
◇◇◇
森を抜け、岩山を登り、悠真は一人でそこへたどり着く。
巨大な石門。
その中央に刻まれた紋章が淡く光り、低い声が響いた。
『来訪者、名を名乗れ。』
「神崎悠真。」
『資格を示せ。』
悠真は掌をかざした。
《解析》が自動的に起動する。
【対象:古代封印陣】
状態:魔力遮断中/認証可能
対応コマンド:《再構築・適応解放》
「――開け。」
光が弾け、封印が崩壊する。
千年閉ざされていた門が、低い唸りとともに開かれた。
中に広がるのは、機械と魔法が融合した異様な光景。
宙に浮かぶ魔導球、金属の階段、壁一面のルーン文字。
悠真は息をのんだ。
「……これが、古代文明の力か。」
《解析》が次々と情報を流し込む。
それは人間の理解を超える、神の技術。
だが悠真のスキルは止まらない。
世界の理を、“理解”してしまう。
――そのとき、声がした。
『汝、世界の構造を覗く者か。』
振り向くと、半透明の人影が浮かんでいた。
人でも、幽霊でもない。
その存在は、データと魔力が混ざり合った“意志”そのものだった。
「……お前は?」
『我は管理者。《アーカイブ・コード》――この世界の記録者。』
「記録者?」
『かつての勇者どもは、力のみを求め滅んだ。だが、汝は違う。汝の《解析》は、“真理”を視る眼。』
「真理、だと?」
『この世界は、壊れつつある。王国の腐敗も、魔族の侵攻も、全ては均衡の崩壊によるもの。』
悠真は息を呑む。
「じゃあ、俺がこの力を使えば――」
『救うことも、滅ぼすこともできる。選ぶのは、汝自身だ。』
その言葉とともに、管理者の体が崩壊していく。
光の粒が悠真の胸に吸い込まれ、スキル欄に新たな文字が刻まれた。
【新スキル獲得:《解析・神域展開(オーバーコード)》】
「……来たな。」
瞬間、周囲の構造が視界に流れ込む。
石、空気、魔力、さらには自分の肉体の細胞まで。
すべてが“情報”として見える。
悠真はその中から、ある一点に手を伸ばした。
――“限界”という文字を、書き換える。
全身に走る電流のような衝撃。
魔力が体を突き抜け、光が迸る。
【再構築成功】
【身体スペック:人間上限突破】
【魔力容量:無制限】
「……これが、神域の力。」
彼はゆっくりと立ち上がり、拳を握る。
全身が軽い。
目を閉じただけで、空気の流れが見える。
思考ひとつで物質を組み替えられる。
――もはや“最弱”ではない。
◇◇◇
遺跡を後にした悠真は、フィオナの村へ戻る途中で、黒衣の男たちに襲われた。
胸に王国の紋章。
追放されたはずの勇者を抹殺しに来たのだろう。
「神崎悠真。貴様を“完全抹消”せよとの命令だ。」
「……王国の犬か。」
十人を超える刺客が一斉に魔法を放つ。
だが悠真は微動だにしなかった。
「《解析・再構築:魔法構造・無効化》」
放たれた炎も氷も、すべて空中で霧散する。
驚愕する刺客たちを前に、悠真は静かに呟く。
「……俺を消そうとしたのは、あの時の“お前ら”だけじゃないか。」
手をかざす。
周囲の地面がうねり、巨大な土の腕が生える。
男たちを一瞬で捕まえ、締め上げた。
悲鳴が響く。
だが悠真は冷酷な笑みを浮かべるだけ。
「伝えろ。神崎悠真は――“帰ってくる”と。」
その言葉を残し、悠真は風の中に姿を消した。
◇◇◇
夜、村に戻るとフィオナが駆け寄ってきた。
「悠真! 無事だったのね!」
「少し厄介なのに絡まれただけだ。」
「また無茶したでしょ……!」
怒る彼女を見て、悠真は珍しく笑った。
「心配させて悪い。でも、もう大丈夫だ。」
彼の目に迷いはない。
かつて“追放された勇者”は、今や世界の理を操る存在となった。
――そして次に向かうのは、王都。
「お前らの“栄光”を、根こそぎ解析してやる。」
風が吹き、夜空に月が輝く。
悠真の影が長く伸びた。
その背には、確かな力と復讐の意志が宿っている。
静かに、だが確実に。
“ザマァ”の幕が上がろうとしていた――。
王都グランティア。
かつて人々が「光の王国」と讃えたその地は、今や腐臭を放っていた。
路地には貧民が溢れ、貴族たちは贅を尽くし、王の権威はただの虚飾と化している。
だがその中心――王城だけは、まるで別世界のように煌びやかだった。
「ふふっ、今日も王都は平和ですわね。」
リアナは金糸で縫われた白衣を翻し、神殿のテラスから街を見下ろしていた。
その指先には、宝石と魔力石がこれでもかと嵌め込まれている。
聖女リアナ・ヴェルシア。
かつては清楚で信仰深いと評判だったが、今では“神の声”を盾に政治を牛耳る権力者。
民を救うどころか、献金を搾り取っては贅沢に溺れていた。
「……そうだわ、今夜は勇者様と晩餐だったわね。」
そう呟くと、頬を紅潮させる。
勇者――ガルド・ラインハルト。
王国の象徴にして、今や「光帝」と呼ばれる存在。
◇◇◇
「リアナ、また贅沢してるのか?」
ガルドは金の鎧をまとい、王座の隣に座っていた。
かつての仲間リリアを側近に置き、王のように振る舞っている。
「我々が国を導くのだ。多少の報酬は当然だろう?」
リリアが媚びるように笑う。
「ええ、勇者様。貴方こそ神の代弁者ですわ。」
だがその瞬間、重厚な扉が轟音とともに吹き飛んだ。
「な、何だ!?」
土煙の向こうから、一人の男が歩み出る。
黒のローブに銀の瞳。
静かな気配だが、その足取りだけで空気が震える。
「……久しいな、勇者様。」
「……まさか、神崎……悠真!?」
空気が凍りついた。
ガルドが目を見開き、リアナが顔を引きつらせる。
彼らの記憶にある悠真は、無能で、みじめに追放された男。
だが今、目の前に立つ彼は――まるで神のような威圧感を放っていた。
「貴様、生きていたのか……!?」
「おかげさまでな。」
悠真は一歩進み、指を鳴らす。
瞬間、周囲の兵士たちの剣がバラバラに分解された。
「な、何をした!?」
「ちょっと“構造”をいじっただけだ。俺の前では、物質の形なんて意味がない。」
その声音には、怒りではなく静かな冷笑があった。
「――なぁ、ガルド。あの日、言ったよな。『お前は足手まといだ』って。」
ガルドは冷や汗を流しながら後ずさる。
「ま、待て。誤解だ! あれは王の命令で――」
「そうか。じゃあその王も一緒に“誤解”してもらおう。」
悠真が手を掲げると、床一面に青い紋章が走った。
瞬時に魔力が爆発し、王の間全体が光に包まれる。
次の瞬間――壁も天井も消え、そこは何もない“虚空の空間”に変わった。
「ここは……どこだ!?」
「《解析領域:オーバーコード展開》」
悠真の足元に、無数の魔法陣が浮かぶ。
すべて彼自身が“再構築”した空間――神域。
「ここでは、俺が法であり、理だ。」
「ひっ……!」
リアナが悲鳴を上げ、リリアが魔法を放つ。
だが火球も氷刃も、触れる前に霧のように消えた。
悠真はゆっくりと歩み寄り、冷たく告げる。
「――これが、お前たちが“見下した力”の正体だ。」
ガルドは剣を抜く。
「俺は勇者だ! 負けるわけが――!」
だが剣が振り下ろされる前に、彼の腕が消えた。
“再構築”によって分子単位で分解されたのだ。
苦悶の叫びが響く。
「お前は、力を誇った。だが力とは、守るためにあるんだ。」
悠真の声には怒りよりも冷たい慈悲があった。
「俺はもう、お前たちを憎んではいない。ただ――後悔させるだけだ。」
リアナが膝をつく。
「お願い……命だけは……!」
悠真は目を伏せ、静かに指を鳴らした。
光が弾け、次の瞬間、三人は王城の門前に放り出されていた。
鎧も宝石も消え、ただの乞食のような姿。
城内には、悠真の声が響く。
「――これが、お前たちの“ザマァ”だ。」
兵士たちは恐怖に震え、誰も彼を止められなかった。
悠真は静かに王座に背を向け、歩き出す。
◇◇◇
翌日。
王都に流れた噂は、瞬く間に国中を駆け巡った。
“元勇者ガルド一行、神の裁きを受けて失墜”
“光の勇者は偽り、真の勇者は辺境より帰還した”
民衆は歓喜し、腐敗した貴族たちは震え上がった。
悠真は城を出て、街の高台に立つ。
遠くの空に朝日が昇る。
その隣に立つのは、村から駆けつけたフィオナ。
「……終わったの?」
「ああ。けじめはつけた。」
「復讐、果たしたんだね。」
悠真は少しだけ笑った。
「いや、復讐じゃない。これは“再構築”だ。」
「再構築?」
「壊れたものを、正しい形に戻しただけさ。」
彼の視線の先で、街の人々が笑い合っている。
腐敗が消え、少しずつ王都が息を吹き返していく。
「フィオナ。」
「なに?」
「次は……この世界そのものを修理しようと思う。」
「ふふっ、やっぱり修理屋さんだね。」
風が吹いた。
新しい朝の光が、二人を包む。
「――解析、開始だ。」
悠真の言葉とともに、世界に新たな“再構築”の光が広がった。
王都の混乱が収まるまで、わずか一週間だった。
腐敗した貴族たちは権力を失い、民は自ら秩序を取り戻していった。
その中心には、黒衣の男――神崎悠真の存在があった。
しかし、悠真の心は静かではなかった。
《解析》を極めた彼の目には、世界そのものの“異常”が見えていた。
空を覆う魔力のひずみ、大地の奥で渦巻く闇の波動。
それはまるで、世界が自壊を始めているようだった。
◇◇◇
ある夜、王城跡の地下で悠真は奇妙な反応を検知した。
そこには、巨大な魔法陣――“召喚の遺構”が眠っていた。
《解析》を起動。
【対象:古代召喚陣】
機能:異界より勇者を召喚
状態:暴走中/世界魔力吸収進行中
「……まさか。これが、すべての原因か。」
彼は理解した。
勇者召喚の儀式――それは、本来“世界の修復”のために設計された装置だった。
だが、長年の乱用と王族の欲によって、装置は歪み、世界を喰らう穴と化していたのだ。
「俺を呼んだのも、これか。」
かつて自分をこの世界へ引きずり込んだ装置。
その暴走が、今まさに世界を滅ぼそうとしている。
「……終わらせるしかないな。」
悠真は掌を掲げ、解析領域を最大展開する。
青白い光が空間を満たし、無数の文字が流れた。
【解析対象:世界魔力構造体】
【再構築可能性:0.0001%】
「確率なんて、関係ない。」
悠真は笑った。
指を鳴らし、叫ぶ。
「《解析・神域展開――全域再構築》!!」
空気が震え、光が弾け、世界が音を立てて裂けた。
大地が持ち上がり、空が逆さまに揺れる。
すべての情報が光となって彼の中へ流れ込んでくる。
――だがその中に、別の“意志”があった。
『やめろ、神崎悠真。』
黒い影が現れる。
それは人の形をしていたが、眼は闇のように深い。
「……誰だ?」
『我はこの世界の“原初の理”。破壊も再生も、我の許可なくしては成らぬ。』
悠真は眉をひそめた。
「つまり、世界そのものってわけか。」
『貴様の再構築は均衡を乱す。全ての存在を“無”に帰すだけだ。』
「そうか。だが――もう黙って見てるだけの神ごっこは終わりだ。」
悠真は両腕を広げ、光を集める。
「お前が均衡を保てなかったから、こんな世界になったんだろうが!」
『愚か者。お前もまた“勇者”の系譜。欲望に飲まれる運命よ。』
「違う!」
光と闇がぶつかる。
世界そのものが悲鳴を上げ、空が割れる。
それは神と人の戦い――いや、“修理屋”と世界の意志の対立だった。
悠真の体は崩壊寸前。
神域の力を無理に使った反動で、肉体が分解を始めている。
「……フィオナ、すまん。約束、守れないかもな。」
しかし、彼の胸に響く声があった。
「守れるよ、悠真!」
――フィオナの声。
振り向くと、光の中に彼女の姿があった。
彼女は村で拾った古代の魔導石を胸に抱えている。
「あなたがくれた力、繋がってる! 私も“再構築”を手伝う!」
悠真の瞳が見開かれる。
彼女の体から流れ出る純白の光が、彼の光と融合する。
【解析補助機構:連結成功】
【再構築成功率:上昇→100%】
「……そうか、これが“二人で作る未来”か。」
悠真は笑い、最後の言葉を放った。
「――《再構築完了:この世界を、やり直す》!!」
爆発的な閃光が走る。
闇が消え、裂けた空が繋がる。
大地に緑が戻り、枯れた川に水が流れる。
崩れた都市に、光が満ちた。
◇◇◇
――どれくらい時間が経ったのか。
目を覚ますと、青い空が広がっていた。
悠真は草原の上に横たわっていた。
隣には、眠るフィオナ。
「……生きてる、のか。」
彼はゆっくりと体を起こす。
世界は変わっていた。
空気が澄み、どこか温かい。
まるで世界そのものが“再構築”され、新しく生まれ変わったかのようだった。
フィオナが目を開け、笑う。
「おはよう、修理屋さん。」
悠真は笑い返した。
「おはよう、相棒。」
彼の腕には、光の紋章が刻まれていた。
それは《解析》が進化した証――
【スキル:
「……神、か。」
だが彼は首を振った。
「いいや、俺は修理屋だ。世界を壊すより、直す方が性に合ってる。」
フィオナが笑う。
「じゃあ、これから何を直すの?」
悠真は空を見上げる。
広がる青空の向こう、まだ修復の光が瞬いていた。
「全部だよ。世界も、人の心も。壊れたものは、直せばいい。」
風が吹き、二人の髪が揺れた。
その笑顔の先には、希望に満ちた未来があった。
――“最弱の勇者”と呼ばれた男は、
今、世界を創り直す“修理屋”として歩き出す。
静かに、しかし確かな笑みを浮かべて。
「さぁ、解析を始めようか。」
終わり
追放勇者は静かに笑う ―最弱スキルで世界最強になった男の逆転劇― 猫撫子 @susumu3379
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