第十一話 救い

「じゃあ、コロシアムの外にも、人がいっぱいいる?」


エレは、首をかしげてそう言った。その声は、あまりにも素直だった。


「いっぱいなんて数じゃないよ。コロシアムに来る人なんて、エレの体で例えるなら、、、、爪一つ分くらいだよ」


俺は、少しだけ笑ってそう答えた。エレは驚いた顔をした。

目を丸くして、口を少し開けて。それからすぐに、何かを話してほしいと、ワクワクしたようすで、期待の眼差しを向けてきた。


最近、俺はエレとの訓練中にこうして話すようになっていた。

彼女は、本当に何も知らなかった。純粋で、何も知らない。人を疑うことさえも。

まるで「彼」と出会った頃の俺のようだった。


「え、じゃあ、うみ、に行けばずっと水が飲めて、さかな、も沢山たべれる!?」


食べ物の話になると、彼女は軽く跳ねて興奮した。

牢の食事は、ロクなものが出ないのだろう。

後で何か食べさせてあげよう。俺は、誰かに何かを教えるのは初めてだった。

誰かのことを心配するのも、初めてだった。


あの日から、俺は誰も信用せず、すべてを疑って生きてきた。

信じることは、裏切られることだった。疑うことは、生き延びる術だった。

そんな俺にとって、俺よりも遥かに強く、遥かに多くの人を殺してきた彼女が、

悪意を持たずに、疑わずに、ただ普通に接することのできる唯一の人間だった。

俺は、彼女の目を見た。雲一つない空のような目だった。何も映していないようで、すべてを見透かしているような目だった。


俺は、少しだけ、救われた気がした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

闇耀の騎士 フミア @fumia1111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ