第3話 入学式の日 後編
シェリアが笑ったのを見たスクトムはすぐさま逃げようとする。しかし、すぐさまノクスが逃げ道を塞いだ。そこでスクトムは気づく。
「ノクス!お前、裏切ったな‼︎」
「ふっ、悪いな。俺はシェリアに怒られたくないんだ。お前は諦めて怒られろ」
そうして抵抗も虚しくスクロムはシェリアの前に座らせられる。
「さて、トム。何故私が怒っているかわかるかしら?というか、わかるわよね?」
「……り…ん」
「はっきり言ってちょうだい」
「わかりません!」
この少年、素直なのは良いことだがヤケクソになってはいないだろうか。
その返事にシェリアは眉間の皺を揉み、深いため息をつく。
「シェリア。助言だが、こいつは何一つとして理解していないぞ」
その一言にさらにシェリアはため息をつく。この少女、スクトムと数日過ごせば一生幸せになれないんではなかろうか。
「助言、ありがとう。ノクス」
「どういたしまして」
「さてと、それじゃあ一から説明しましょうか。スクトム貴方、自分の立ち位置を理解しているかしら」
「?継承権は放棄しているが第3王子だ」
「それじゃあ、貴方自身の噂はどう?」
「なんだ急に?自分で言うのもなんだがいい噂しかないな」
「具体的には?」
「具体的に、とは?」
「なるほど。そこからね。ノクス、答えられる?」
「成績優秀であり文武両道、また容姿端麗。曰くテストをやらせれば満点をとり、剣を持たせれば熟練の騎士と張り合う。さらには陛下を唸らせたことがある。と言ったところか…」
「誰だ?その超人」
「貴方のことよ、トム」
「確かに紙のテストで、暗記のテストであれば満点は取れるが、熟練の騎士となんて張り合えないし、父上を唸らせたことなんてないぞ」
「噂の真偽は関係ないのよ。まぁとりあえず、自分の立ち位置は理解できたわね?」
「あぁ、納得はしていないが一応」
「でね、そんな貴方が学園で新入生代表をしなかった、それを見た人たちはどう思うかわかる?」
「?しなかったんだなとしか思わないだろ?」
「素直だな」「素直ね」
「そろそろシェリアも疲れてきただろうから説明役を変わろう」
「よろしく頼むわ」
「先ほどの質問の答えはこうだ。新入生代表になれなかったんだな、だ」
「何故、なれなかったと思うんだ?俺は噂によれば成績優秀なんだからそんなことは思わないだろ?」
「それじゃあ、質問だ。先王、お前の
その質問にスクトムはなお、疑問の顔を浮かべる。
「愚王ではなかったはずだが」
「確かにそうだが、それほど優秀でもなかったはずだ。今代の陛下は優秀だが、その前世代の2人が今より見劣りしてしまっている」
「それの何が問題なんだ?」
「まぁ、話を聞け。そんな状況にだ、陛下より優れた頭脳を持つと思われるお前が投下された。でそれを聞いてみんなはどう思う?」
スクトムは気づいたように言う。
「本当に真実かどうか疑う」
「大正解。で、もちろん断る奴もいただろうが基本的に新入生代表は毎年、首席のやつがやることになっていたわけだが、今年はシェリアが担当した。言ってしまえば周りの人間はお前が優秀でないと思ったわけだ。もちろん、お前と関わりがある奴なら別だが、1番数の多い下級貴族はお前と関わる機会にないに等しい。となると?」
「多くの者は優秀ではなかったと判断する」
「またしても大正解。まぁ、今回はシェリアだったのが救いだな。何だかんだ言ってシェリアも優秀と言う噂があるからな。シェリアより下だが、優秀じゃないとはまだ判断できないはずだ」
「なるほど、完璧に理解した」
「で、最初に戻るわけだが何故シェリアは怒っていたでしょう?」
スクトムへの説明会になっていた場でノクスは消えていた火をつけた。そのことにスクトムは絶望の顔を浮かべる。
「まぁ、分からなかったことは事実なんだろうがその説明シェリアの怒りを鎮めようとするとはちゃっかりしているな、スクトム」
それはもういい笑顔でノクスは言い放った。ノクスの狙いは最初からこれだったのだ。シェリアの怒るための体力を残させるために説明役を変わったのだ。なんとも卑劣な人間である。
「そうよ、それが本題だったわ。さて理由は分かるわよね?」
スクトムは渋々答える。
「……俺が王家の名に泥を塗ったから」
「よく分かっているじゃない。そうよ、そのことに対して貴方のことを怒りに来たの」
その後、スクトムはそれはもう長いこと怒られ、寮に帰ったのは門限ギリギリだったそうな。
ちなみにノクスはスクトムが怒られているのを面白がりながら、スクトムの横で自分が好きなチョコレートケーキを食べ、その上でスクトムが好きなモンブランを美味しそうに平らげた。
それを羨ましそうに眺めたことによりシェリアの説教はより長くなってしまったのだが、ノクスがわざとかどうかは秘密である。
気ままな貴族 @mkmk1
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