第二話
第二話:献身の始まりは、自己破壊と同義だったのか
二人は、それぞれの小中学校に進学した。
小学校、中学校という、ひまわり教室とは全く異なる、秩序と理不尽が支配する世界へと移行した。あの「伝説」で完成した僕の精神構造は、この新しい環境下で、僕の行動すべてを自己破壊と同義としてしまった。
中学あたりからは、僕の顔にも笑顔らしきものが現れるようになった。しかし、それは幼少期のあの純粋な笑顔ではなく、単なるかっこうだけの笑顔や、人によっては「キモい」と感じるような歪んだ笑顔**が顕現されたにすぎなかった。内面の純粋な感情を封じた代償として、僕の表情は表面的な模倣か、不自然なものになっていった。
僕たちは湖明市内のそれぞれの学校に進んだが、市内にある公共施設では、たびたび偶然遭遇した。プール施設、そして市立図書館。僕と彼女の間には、幼少期の『恥じらい』の影が落ちていた。
彼女はいつも僕から目を逸らし、その場から隠れるように立ち去った。僕は、彼女の純粋さを汚さないため、ただ**「他人のように振る舞い」**、言葉を交わすことなく通り過ぎた。
この無言の交流こそが、僕たちの関係の**「影」の時代**となった。僕の心は、彼女の不在と沈黙によって、静かに満たされない空虚さを抱え込んでいった。
そして、その中間地点である小学五年生の時、僕は人生で初めて、頭の手術を経験した。
それは突然のことで、頭部には今も目立つくらいの傷跡が残っている。その傷を見た時、僕は誰に言われたわけでもなく、「これは運命であり、仕方がないことだ」と受け入れた。さらに言えば、ただ**「まあ、いっか」という、わけのわからない諦念(ていねん)**で、受け入れていた。
小学五年生にして、自分の体に残る傷を運命として受け入れ、自己軽視の諦念で処理できたのは、他でもない幼少期のあの純粋すぎる献身があったからかもしれない。自分の存在をどうでもいいと見なす、あの精神構造が、身体的な危機に際しても静かに機能したのだ。
だが、この自己軽視と無力感に満ちた精神は、矛盾を抱えていた。僕自身のことは「どうでもいい」と諦めていながら、妹や弟が、学校という秩序の中で理不尽な教師に傷つけられた時、僕の体の奥底にあった『純粋さ』は、献身という名の怒りとなって爆発した。
**ただし、僕自身が教師と直接揉めることはほとんどなく、ほとんどの場合は親が出てくることで対応していた。**だが、その裏で、僕の心の中には常に、家族を守るという、僕のもう一つの献身が、唯一、感情を露わにして機能していた。
この献身のエネルギーは、自分を大切にしないという点で、すべて自己破壊と同義だった。
この矛盾こそが、高校卒業以後、僕が虚ろな目をしながら立つことになる、政治活動という戦場の原点となる。
無言のヒロインと26歳のカタルシス 久遠 零 @kuonn000
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