蛆と皇女

OH.KAIKON

第1話 厳冬の浮浪者

厳冬の祝日のこと。


次の日も国教が定める祝日で、大概の社会人や学生が休みに浮かれ夜に繰り出し、酒を浴びて歌を歌い、正に自由と生を謳歌している夜のことである。


狂乱の絶頂時代を享受する一般市街と、どのような職にもありつけない被差別民が住まう“特別区スラム街”を分かつ所に、施しを期待し、打ち捨てられた寝具やらを寄せ集めた所にぼぉっと座り、道行く笑顔の群衆を虚ろで、光が反射しない瞳にて次々見送る若い浮浪者がいた。


彼の名はパルジャ。

性は無い。

流浪の果てにこのスラム街に辿り着いたある少数民族の出で、それ故に、この帝国で職を持つ事は困難を極めた。


彼が食い繋いでいける理由はただ一つ、一般市街から流れてくる食品廃棄物や、民間団体による炊き出しがあるからであった。


「っしぇーいッ」


「オラッ死ねやッ」


被差別民は法の保護や社会からの擁護を受けれない。


それ故に一般市街の不良はスラム街に繰り出し、憂さ晴らしに老人や病人、子供を暴力に晒し、若い女は連れ去って我欲を満たす為に組み伏せ犯す等、目に余る横暴を繰り返した。


だがしかし官憲の目にこれは映らない。動くとすれば、被差別民が自己防衛のための暴力を行使した時である。

例え明らかに正当防衛であろうと、警吏は被差別民を非難し、警棒で殴り倒す。


その社会の不満の牙は、今日、めでたい日、若き彼を獲物と定めた。


婦人用特殊警棒という、暴漢に対抗する為の三段警棒が、法も犯していない彼に振り下ろされる。


しなった警棒のシャフトが彼の頭に衝突し、血を吹き出させながら跳ね返る。


「うあァッ」

激痛に悶えた彼は頭を抑え、地べたに倒れ込み唸っているのを、不良達が指を指して、膝を叩いて泣き笑う。


「また来るからな!」

「はははははっ!」

顔にむけ痰を吐き、一人ずつ哀れな若者の腹にサッカーボールキックを入れ、そしてまた、幸せな時間に満ち満ちる市街へ帰っていく。


血反吐を吐き捨て、顔についた汚物を、纏っていたボロ布で拭い去り、そしてまた、さっきの自らの場所に這いずって戻り、施しを期待しつつそこで眠りについた。

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