まなつ

 皆が不思議そうに見つめている。

 社内の壁に現れた、穴。

 不審そうに遠巻きにするもの、好奇心でのぞいてみるもの、庶務課へ連絡して修理を依頼するもの。

 だが誰も理由を知らない。

 綺麗にくり抜かれた、十円玉ほどの小さな穴。

 長年壁に貼りっぱなしだった掲示物に隠れていたせいで、今日まで気付かれなかった。掲示物は古すぎて、誰も、その始まりを覚えていない。

 いつからあったのか。掲示物を貼る前の壁はどうだったのか。

 壁の穴をのぞいたものだけが理由を知った。しかし彼らは、見えたものを語らずにいた。


「社長の盗み聞き、ばれちゃいましたね」

 真実を告げる秘書の声に、社長は気まずそうに視線を逸らした。

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まなつ @ma72

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