第6話 希望の白と、青い空
どんなに後悔していても、どんなに寂しいと思っていても、無情にも時は万人に平等に流れる。
今年の冬は一層寒さが厳しく、吹き荒れる吹雪は心の中まで凍らせようとしているようだった。そして勝負の冬休みが到来し、勉強はますます忙しくなる。年明けには本番の受験が待っている。
あの日以来、小山さんと会う機会はなかった。学校ですれ違っても、もう目が合うこともない。お互いの考えていることがわかると思ったあの秘密の時間も、ただの、すれ違ったままの錯覚として時は過ぎていった。
それでもカンペンケースに入っている、お守りとしてもらった小山さんの白とピンクのシャーペンを見るたびに、ボクはせめて応援してくれていた志望校への合格だけは、届けたいと思い、がむしゃらに勉強に明け暮れた。それは、僕が彼女との関係で、唯一、守れると信じた約束だったのかもしれない。
受験の当日、答案用紙を前にしてひとつ息を吐いたボクは、自分の愛用していた黒い製図用シャーペンではなく、小山さんからもらった白とピンクのシャープペンシルに持ち替えて、試験に挑んだ。そのペンは、僕のちっぽけな自尊心と、彼女の純粋な願いを背負っていた。
合格発表の日、緊張しながら受験番号を探した僕は、自分の番号をそこに見つけ、安堵の気持ちが広がった。しかし一番に報告したい人はすでに隣にはいない。こぼれる涙を我慢するために僕は、何も答えない空向かってせいいっぱいの感謝を伝えた。
ほどなくして誰のためにするのか不明な感傷的なだけの卒業式が催され、志望校に合格した誇らしげな気持ちと、大事なものを自ら壊してしまった傷ついたこころを抱えながら、3年間いろいろなことを学んだ学校を後にし、校門から外に出る。
空はやっぱり青空で、思えば突拍子もない出会いだったが、確実にボクはキミのおかげで受験を乗り切れた。
あの夏よりも少し大人になったであろう傷だらけのこころをそっと胸にしまい、またあふれてくる涙をごまかすために、曖昧な未来しか見せてくれないどこまでも青い空を見上げた。
「先輩!おめでとうございます!」
聞き慣れた・・いや・・待ちわびたその言葉が聞こえた・・幻聴か?
滲む視界の先の校門の陰から、紺色の制服がはみ出していた。ちょっと大きめのぶかぶかの制服を着て、はにかんだ笑顔を浮かべながら小山さんが顔を出す。
「受験の邪魔になるかと思ってずっと会うの我慢してたんですよ先輩!第二ボタン、まさか誰かにあげちゃってないですよね 私にください!」
僕は声にならない嗚咽を漏らしながら、僕よりもふたまわりは小さな彼女の肩に額を押し付けていた。
こらえきれない涙をこぼしながら、謝るボクに、小山さんはいままでの時間を取り戻すかのように、そっと、ずっと、話しかけてくれる。
シャープペンシルは、僕の青春のお守りだったのかもしれない。だけど、彼女は、僕の「希望」だった。
曇り空と、制服の向こうの君 白よもねこ @shiroyomoneko
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