花瓶の花は今日も
■花瓶の花は今日も
私の夢みたいな習慣。
ひとり暮らしの朝、リビングは静かだ。
起きてきた私は、机の上の白い花瓶に目が留まった。
出勤前に水を替えないと。
花瓶には二輪のダリアが咲いていた。
二輪のダリアは彼からのプレゼント。
花弁は中心から端にかけて、クリーム色からピンクへとグラデーションしていた。
自然と口角が上がる。
私が彼へプレゼントするなら……。
彼の好きな色は何色だっけ?
パスケースは赤だった。
クリスマスも誕生日も来ないから。
そうだ、ハンバーグに赤いケチャップ。
週末、彼に作ろう。
スーツに着替えて朝の準備を終える。
出かける前にあの習慣を。
花瓶の水を洗面所の排水口に流す。
差し込む朝の光が洗面台を白くする。
ひとりの部屋で私は彼がチャイムを鳴らすのを待っていた。
ダリアをもらったあの日を思い出しながら、私は小さくつぶやく。意味のない言葉を。
「ダリアちゃん、枯れないでよ」
夢見ている週末まで咲いていて。
ハンバーグ、彼の声、ダリアが咲いていたら。
洗面所に流れていく水の音。
いつまで続くのか、指先が震える。
水の音が渦を描くように聞こえてきて。
花が枯れて、それを捨てたあとも。
私は花瓶の水を替え続けているから。
「お願い、ダリアちゃん……続けさせて」
今日も私は花瓶にきれいな水を注いでいる。
私の頭の中で枯れない花瓶の花と。
思い出せない週末の日付と花の香りと。
枯れて捨ててしまったあの二輪のダリアと。
私の静かな祈りは花瓶の花で、今日も。
君を思い出す日々に。 りな @rinasan
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