無意味な懺悔室
しちは五十六
一人目――バイクの男
「神父さん、聞いてくださいますか。
私、趣味でバイクをやってるんです。走っている時の風やスピード感が非日常的な体験をもたらしてくれるので、ストレス発散に効果的なんです。
その日は長くなっちゃったんですよ。知らない山道に入り込んじゃって、電波も届かないもんですから、帰るのに苦労してたんです。夜も更けて、辺りに明かりなんてひとつも無いんです、ますます怖くなって。とにかく帰りたいので、ヘッドライトだけを頼りにかなりの速度で走ってたんですよ。
ドンッていったんです。鈍い衝撃音がして、動物でも轢いたかもと思って慌てて確認したんです。でも、それ人だったんですよ。白髪の交じる老人でした。頭から血を流して。私はもうパニックになって、こんな山奥にこんな夜更けに、普通人がいるなんて思わないじゃないですか。
そこで助けを呼べれば良かったんですけど。こんな所で轢いたって誰も分からない、仕事だって辞めることになるかもしれないし黙ってようって思ってしまって、その場を後にしたんです。
でも、翌日やっぱり気になってまた訪れたんです。
そしたら、何にも無かったんです。轢いた老人も血痕も。きっと大丈夫だったんだろう、何とか自力で助けを呼んで帰ったんだろうってその時は考えたんです。
けどその後、山を下っている時にドンッて。また。今度はおばあさんでした。もう訳が分からなくなって。二度目ですよ、そんな偶然無いじゃないですか、同じ所で2回も人を轢くなんて、幽霊ならどれだけ良かったか。また、逃げたんです私。
でも、やっぱり怖くなってもう一度訪れたんです。無いんですよ、何にも。麓の警察署にも行きましたけど交通事故人数0って立て看板に書いてあるんですよ。無かったんです、最初から事故なんて。その帰り道、わざと同じ道をゆっくり走ってみたんです。向こうからよろよろと人影がこちらに来るのが見えて、ドンッですよ。その人は最初からかなり弱ってたみたいで、また死んでました。
それ見て私自分の心に気づいてしまって。楽しかったんです轢くことが。轢いた時の鈍い衝撃や高いブレーキの音。命を奪う温もりが好きだったんです。2回も訪れたのも本当はもう一度轢きたかったからだって気づいて。そこからはもう止まりませんでした、毎週のように山道に入っては轢いてました。轢けない時はイライラしてたくらいです。それで9回目が過ぎたあたりからでしょうか、ピタッと止まったんですよ人が来ることが、普段は2回に1回は轢けるのに。きっとおかしな夢だったんだろうと思ってその山に行くことも辞めたんです。もちろん人を轢くことはこっちでは1度もありません。
でもね、神父さん。私がここに来たのは轢いた事を許してもらうためじゃないんです。さっき警察署の話をしたと思うんですけど、山の麓に小さな町があるんですよ。先日用があって向かったんですけど、いやに若い人しかいないんです。そういう所は老人ばかり住んでる感じがあるじゃないですか。でも逆なんです、若い人しかいなくて老けてても40代くらいでした。そこで気づいてしまったんです、なぜ老人ばかり轢くのか、なぜ無事故なのか、なぜ誰も故人の家族が騒がないのか。
利用されてたんです。私、姥捨てに。それに気づいてからずっと怖くて、いつかまた彼らが私に轢かせるんじゃないか、奴らに捕まってしまうんじゃないかと考えると夜も眠れないんです。
無意味な懺悔室 しちは五十六 @Shitiha56
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無意味な懺悔室の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます