秋に囚われた日。

晩秋の山路をバスは行く。
乾いた薄の穂が風に揺れては、視界の端に
一点の異界を映し出す。

小さなバス停に、バスは停まらない。

ずっとずっと待っている乗客がいるのに。
バスは更に走り去る。
            その刹那

視界の端から浮き出て見えるのは、風雨に
晒された襤褸ぼろの色褪せたセーラー服。
浮き出るどころか、そのままの鎖骨が
視線を泳がせる。

 バス停を通り過ぎても、誰も何も
言わない。騒ぎにもならなかった。それは


 秋の日の不思議な体験と、まさに
取り憑かれた様な執念とが。

   バスに揺られ、秋の日の白昼夢を


 運ぶ。


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