大臣と労働支援サイト

五來 小真

大臣と労働支援サイト

 秘書官は、テーブルに一枚一枚裏返しにしたカードを置いていく。

 厚生労働大臣は、その様子をカードが全て置き終わるまで見ていた。

 やがて——。

「これだな」

 カードが一枚、大臣の手によって取られた。

 裏返されたカードには、『ハロージョブ』と書かれていた。

「なるほど……、面白い」

 こうして大臣の最初の仕事が決まった。

「ハロージョブは使えない、税金の無駄遣いという評判が立ってるからな」

「ハロージョブというと、やはり施設の人間の質の上昇でしょうか?」

「いや、人は後だ。時間がかかる。……サイトの方をいじろう」

「かしこまりました。資料をお持ちします」

「うむ、たのむ」

 集められた資料は、大臣の予想とおおよそ変わることはなかった。

「では、サイトの改革を開始する」


『おい、これ……、どうなってんだ?!』

『ハロージョブがこんなの載せていいのか?』



 ハロージョブのサイトは、一週間もしない内に大きく変わった。

 アクセスランキングが追加され、同じ職種の給料・休日の、最高値・中央値・最低値が表示されるようになったのだ。

 中でもレビューが書き込めるようになったのが人々の目を引いた。


『俺の企業、給料最低値かよ。値上げしてくれー』

『夏季休暇が有休使ってるのに、二重計算しとるやんけ』

『★☆☆☆☆

休日も給料も嘘っぱちでした。即バックレ。紛れなくブラック企業』



「大臣、企業からお電話です」

「おお、来たか。つないでくれ」

『あんな根も葉もないレビューを載っけやがって。営業妨害だろ!』

「申し訳ありません。取り急ぎ改革したもので、まだ対処用の機能が備わってないんですよ。良ければ特別に、あなたのところに先にそのサービスを実施しましょうか?」

「ほう、わかってるじゃないか。じゃあ近日中に頼むよ」

「わかりました。では、すぐに」

 大臣はすぐに行動を起こした。


「はい、お邪魔しますねー」

「何だお前らは?」

「労基署の者です」

「労基署?!」

「大臣の命令で、新しいサービスを先行して実施するってことで来ました。じゃ、始めますねー」

「待て待て、何をする気だ?」

「あなたの言い分は、レビューの異議申し立てが根も葉もない。レビュワーの方は、当然根も葉もあるという主張です。それを白黒はっきりさせようってだけですよ。ああ、当然根も葉もない場合、レビュワーから賠償金を取り立てるのでご安心を」

「はぁ?! ……いや、待ってくれ。——おい!」


 しばらくして、レビューに労基署認定マークが付いた。

 ただいま是正中のコメントと共に。

 

 やがて正式にサービスが開始されたが、異議が申し立てられることはなく、実施されることはなかった。

 

『今度の大臣、やりおる』

『やりすぎじゃない?』


 ネットでの大臣の評価は二分された。

 

 ハロージョブは、更に大きく変わった。

 掲載企業がほとんどなくなってしまったのだ。


『ハロージョブ、使えねぇ』


 結局、ハロージョブが使えないという評判は変わらなかったが、足を運ぶ人も減ったことでハロージョブの人間も減り、税金コストは大きく下がった。


「人はやはり後で良かったな。……しかし、思ったよりホワイト企業ってないねぇ。税金コストは下がったから、まあ70点ぐらいかな」

 大臣はそう呟くと、優雅に紅茶をすすった。

「このままでは雇用不安になるのではないですか?」

「紅茶ってさぁ、水っぽくなりすぎるとマズイんだよね。雇用も一緒なんじゃない?」

「……それでいいのでしょうか?」

「それは僕の考えることではないな。国民は、安っぽい紅茶の方が好きかもしれないね」


 <了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大臣と労働支援サイト 五來 小真 @doug-bobson

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ