宝石の飴

秋岡浪漫

宝石の飴

何もない雪山に頭の大きなバケモノが住んでいました。

バケモノはいつもその大きな頭で、何か考え事をしながらふらふらしています。


ある日のことバケモノはおなかが空いて、どんよりくもった雪山を降り、人里の近くをふらふらと歩いていました。


するとイチョウの木の下で、銀杏を拾い集めている村の少女と出会いました。

その少女はピアスばちばちでネイルぎらぎらで、とても心の優しい不思議な少女でした。


少女はバケモノを見ても逃げたりせず、村でも一番と評判のおひさまのような笑顔をバケモノに向けます。


バケモノさーん!お腹が空いているんですか?これあげます!二番きゅうけいどうぞ〜!


少女はポケットから飴をとりだしてバケモノの手にのせました。

バケモノは手の中のきらきらとした暖かい輝きに目がくらんでしまいます。


バケモノは飴をなくさないよう大切に握りしめ、雪山へと戻りました。そして飴を宝箱に入れて眺めながら夜を過ごします。


飴を眺めていると、とても寒い雪山の夜でも暖かい心地になるのです。


その日からバケモノの大きな頭の中は飴をくれる少女のことでいっぱいになりました。

ある時は野花で花冠を編み、またある時は詩を読み、くる日もくる日も少女に会いにイチョウの木へと行きました。


少女はいつもバケモノに笑いかけ、たくさんおしゃべりをしました。

時にはけんかしてまた仲直りして、しあわせな時間はバケモノの中のからっぽを満たしていきます。


そうバケモノはおなかが空いていたのではなく心がかわいていたのです。


少女の優しさはやわらかな雨のしずくとなり、バケモノの心に沁み込みます。

いつしか宝箱は色とりどりの飴であふれ、何もなかった雪山を彩ります。

バケモノの大きな頭は少女への想いでうめつくされ、日に日に大きくなりました。


ある日少女はいつものイチョウの木の下で、セブンスターの煙をふうと吹くと困った顔で言いました。


ねえバケモノさん?バケモノさんの頭が少し……大きくなり過ぎじゃない?


バケモノの頭は今やイチョウの木よりも大きくなり、少女の細い肩にのしかかっていました。


バケモノは自分がバケモノであることを忘れて少女の隣に座っていたのです。

心優しい少女はずっと静かに支えていてくれていました。


バケモノは少女への想いを言葉にすることで頭を小さくしようとしますが、その度にまた頭が大きくなります。


そんなバケモノを哀れに思った少女は、セブンスターの火をもみ消すと悲しそうに言いました。


バケモノさん、あの飴はね、ただの飴なの。宝石ではないの。


少女は微笑むとバケモノの隣をそっとはなれました。


バケモノはひとりイチョウの木の下で少女への想いを言葉にし続けます。ちっとも軽くならない頭をふらつかせながら。


それから少女は二度とイチョウの木にはあらわれませんでした。


バケモノは雪山へ戻ると、ずっしりと重くなった頭を抱えてうずくまりました。

そして少女の言葉を思い出し、宝箱から飴をひとつとり出して口に入れました。

飴はつかの間甘く、溶けてなくなりました。


すると頭の中の想いがひとつ、宝石となり瞳からこぼれ落ちました。

バケモノはまたひとつ飴を舐め、宝石を落とします。


宝石はぽろぽろとこぼれて、ただ美しくころがっています。



バケモノは少し軽くなった頭をゆらし、宝石の山にうもれて静かに眠るのでした。




おしまい

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