意外な提案

「じゃあ、これから練習場所についての話し合いをしてもらうよ。月曜日から木曜日までの体育館、グラウンド、グリーンコートの3箇所の使用順を決めてね」


 そんな先生の言葉と共に、俺達8人の学級委員の初めての話し合いが始まった。


「僕達D組は前日練習にグラウンドか体育館を使いたいです」


 最初に発言したのは、D組学級委員のメガネの真面目そうな男子。いかにも学級委員って感じの風貌で、目の奥を見るに普通にイケメンだから全然モテそうで腹立つな。


「それを言ったら俺達B組もそうなんだよな」


「私達C組もそうだね」


 まあ、広いし練習に使いやすいそこ2箇所は人気になるよな。最初か最後で使いたくなるのは当たり前だ。


 さて、この辺で提案をさせてもらうか。


「待ってくれ、俺から一つ提案がある」


「お、A組は何か別の意見なのか?」


 B組の男子……結構爽やかなイケメンが俺に質問を返してくる。コイツ隣にいるギャルとさっきから距離近ぇんだよな。呪ってやりたい。


「ちょっと前提を変えて考えてみないか? 俺達は何も、一箇所に一クラスが集まって練習しろと言われた訳じゃない。


 2箇所を使って、男女に分かれて2クラスで合同練習をしたって良いだろ。その方が実践形式の練習も出来るし、合理的だ」


 俺の言葉で全員が何となくこれからの話の流れを察したのか、それぞれが隣の相方と向き合って話を始める。


「とりあえず状況をまとめよう。体育館とグリーンコートがバスケとバレーのできる環境で、グラウンドはサッカーのみ。となると、サッカーの練習は男子だけできれば良い訳だから二クラス合同で2回ずつ練習できる。


 やるとしたらAB、CDの組み分けで大丈夫?」


「B組は賛成」


「Cも賛成かな」


「僕達D組も賛成です」


「じゃ、決まりだな。次に体育館とグリーンコートだけど、体育館を月曜から2クラスで2回、男子のバスケと女子のバレーに使う。で、グリーンコートを女子バスケに使う感じでいいか? 詳しい日程は後で決めよう。もちろん練習は2クラス合同で、男女それぞれ練習中の競技に出ないメンツが手伝いに入ればいい」


 反論するメリットもその余地もない意見が俺から出たことで、会議の大勢はすぐに決まった。少しは間宮に良いとこ見せられたかな。






「ねぇ、一緒に帰ろうよー」


 会議を終えて帰路に着こうとしていた俺は突然、Bクラスの学級委員に後ろから声を掛けられた。それもギャルの方に。


「えっと、別にいいけど。とりあえず自己紹介から始めないか? お互い名前知らんし」


 名前も知らん奴と一緒に帰る、というのもどこか不自然だろう。


「あーしは宮城桜子。で、こっちが」


「俺は塩谷快斗、よろしくな!」


「桐野奏助、頭脳派です。よろしく」


「頭脳派って、何それウケる」


「でもさっきのあれは凄かったぞ、流石は頭脳派!」


 まあなんというか、無難に二人とも良い奴そうで安心したわ。


 さて、今日はコイツらと一緒に帰るとしよう。あとは……


「おい、何一人で帰ろうとしてんの間宮。一緒に行こうぜ」


 どこか寂しげな顔で教室を去ろうとしていたこの美少女を一人にしないでやろう、そう思った。


「え、良いの……?」


「何急に自信無くしたみたいな顔になってんだ。当然一緒に帰るつもりでいたけど。少なくとも駅までは一緒だろ?」


 その言葉が嬉しかったのか、間宮はすぐに笑顔になってこちらに近づいてくる。


「ありがと、気使ってくれて。一緒に帰ろっか。


 間宮京子です、頭脳派くんの相方やってます! よろしくね!」


 頭脳派くんってなんか響きが不名誉だからやめて欲しいです。でも可愛いので許します。


「へー、美男美女だ。良い感じだね二人とも。あーしはそう見てるよー?」


 これまた随分とラノベにいそうなギャルだなコイツ。ってか俺の顔のどこが美男なんだよ。俺中学の頃好きな子に顔の形がナンにちょっと似てるって言われたことあるんだぞ。美男ってより微ナンだろ俺なんて。


「美男美女でお似合いって言うならお前らの方だと思うぞ。こっちは間宮の可愛さを俺の顔が台無しにしてる」


「お、堂々と女の子に可愛いって言えちゃうタイプなんだ君。そういう子はモテるぞ、磨けば光るぞ〜。


 ちなみにあーし的には塩谷はマジ無しって感じ」


 だからさっきから褒めてくんなよ。割とすぐ調子乗るし勘違いするぞ俺。あとなんで語尾ぞなんだよ。しんちゃんかよ。


 あとしれっと塩谷を振るな。可哀想だろ。


「ね、塩谷。塩谷もあーしと恋愛とか無いっしょ?」


「え、いや俺は……あ、いや無いな! うん、無い!」


 本当に可哀想だろ。


「なんかそれはそれでムカつくかも」


「お前が言い出したことだろ!?」


 いや、この二人「ある」だろ。可哀想なのはこんな青春真っ只中なやり取りを見せつけられる一生独身がほぼ確定してる俺の方だった。


 言う側が実は言われる側だったって何のホラーだよ。


「ねぇ……この二人って、そういうこと、だよね?」


「……まあ確実に付き合うだろうな」


 間宮の本日二度目の耳打ちに耐えながら平常心をギリギリ保って返事をする。するとそんな俺達の様子を見て何か勘ぐったのか、塩谷は


「あ、あの二人って……そういうこと、だよな?」


 なんて言っていたけど見事なブーメランだ。お前らが先に爆発しろバカ。






「しかし、学校側は何考えてんだろうな」


「ちょっと急すぎるよねー、マジ無しって感じ」


 急な球技大会の開催に対して、俺達は不満を言い合って帰り道を歩いていた。


「大体、学級委員にアンケ作成までさせるなよな」


「桐野君のお陰でウチのクラスは問題なかったけどね」


 そう言って俺との身体の距離を縮めてくる間宮。心臓に悪いから本当にやめてください。


「あーし達のクラスも塩谷が全部なんとかするから大丈夫」


「お前から無理矢理委員に誘ってきたのに……」


「まあまあ、落ち着いて。頑張れ〜」


「What?」


 この二人見てるとマジで悲しくなってくるからこれ以上会話しないでください。ラブコメ過ぎるから。


「あ、あーし達は京急だからここまでだよー。頭脳派君と間宮ちゃんはー?」


「俺はJR」


「私もJRだよ。じゃあ、ここでお別れだね」


「待たな、これからも仲良くしてくれよ!」


「バイバ〜イ」


 最後まで良い奴だったな、主に塩谷。宮城はちょっとギャル過ぎて近寄り難い。良い奴なのはわかるんだけどさ。


 ってか、誰も何も言わなかったから付いてきたけどみんなブルーライン乗らずに歩くのか。まだ定期買ってないし俺も横浜までで定期止めとこうかな。


「間宮は何線?」


「私は横須賀線。逗子だよ」


「え、マジ? ってことは最寄り一緒か」


 父さんありがとう、家賃高い別荘地選んでくれて。


「そうなんだ! じゃあ一緒に帰ろう?」


 こんなイベント、きっと一生に一度だろうなぁ。今朝のあずみゃの時もそうだけど、しっかり噛み締めて楽しまないとな。

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学園ラノベに憧れて中学校で大失敗した俺。高校ではイタい行動を慎もう…と思ったけど次々と起こるラノベ展開に我慢できなくなりました。主人公ムーブ全開で頑張ります! なかたつばさ @tokyo_sekai_world

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