第10話

「ねーぇ、アマネセル……赤と白のどっちが良いと思う?」


 あたしは難しい顔で花瓶を睨んでいた。


『俺様に訊くんじゃねーっつの。適当で良いんじゃねーの?』

「駄目よっ死んだ人に失礼でしょ! お墓に供えるのが適当じゃ! んー、やっぱり白にしよう。よし決めたっ」


 あたしは真っ白なユリの花を降らんで、修道服に付かないように抱え持つ。。そしてそのまま墓地へと歩いた。

 白い墓石の中で黒い修道服って割と映えるのよね。


「さみ……」


 ちょっとだけ肩を震わせて身震いする。いくらも暖を取れない方法だけど、結構十分だった。

 空はどんよりした雪雲。

 当たり前かあ、明日は聖夜なんだもん。

 じらしてなかなか降らない雪の所為で、ホワイトクリスマスになるか……あたしは空を見上げてそんな不安を抱えてみる。

 半分の長さに切った髪を流して、あたしはちょっとだけ感傷に慕った。

 普通の生活の長さに比べたら、あたしたちが『普通でない』暮らしをしていたのなんて一パーセントにも満たないだろうけれど。

 なんでこんなに鮮明なんだろ……。


「ボケボケ歩いてんじゃねーよルイーサ!」


「ん……もうっ、ちょっとぐらいロマンスに浸ったって良いじゃないのよ、馬鹿フロウっ!」


 あたしは無粋にぶっ壊された静寂に、怒って声を上げた。


「じゃんっ。お母さんとトーニオ神父様のお花、選んできたよっ」

「おう」


 あたしは二年もしない前に建てられたお墓と、十八年前に建った……並んだお墓の間に、百合の花束を置いた。

 半年しか経ってないなんて、嘘みたいだなあ……。


 あの後、あたしが放出した力の関係で……門は閉じた。

 その後は狂った神から解放された天国が、魔界側に紳士協定を結んだらしい。

 モチ……神は消滅、あたしたちの存在も上手く煙に巻かれた。

 死んだと思っていたフロウはびっくりなことに生きていて、なんとすでに完治している。自己犠牲と復活の奇跡だ、それも、あたしの力が関係してるとかなんとかアマネセルに訊いている。

 復活はマグダラのマリアの十八番だもんね。

 そんな力だったなんて知らなかったな、自分で抑え込んでてなんだけれど、ドッキリも良いところだ。


「ねえ、フロウ」

「あん?」

「あんたが好きなのって……一体『誰』なのさ」


 どうにか訊いた言葉。

 だって、

 今こそ訊かなきゃならない……シーンだもん。


「実は……さ」


 思わず身体を固くする。

 実は、何なのさ、フロウ。


「殆ど思い出してなかったんだよなー、あん時ってさー。ただこの際口から出まかせで前世の事持ち出して俺のもんにするのも悪くねーかなーって」

「は……?」


 だーっと早口で言ったフロウをあたしは点目で見上げる。

 ちょっと……待てや。

 あたしをさんざん悩ませた問題ってのは。


「全部嘘だったってことーっ!?」


 取って食わんばかりにフロウに詰め寄るあたしを、アマネセルが笑っている。


『だーはははははっ一本取られたなこりゃーよぉ!』

「うるさい笑うな『ルシファー』!」


 アマネセルは夜明け。暁の天使、ルシファーはアマネセルの方だったのだ。自分の名前を使って暗躍する神を見咎め、止める気で地上にやって来たのだと言う。今の俺はアマネセルですー、と笑う頭をゴンっと叩く。

 ったく何なのよ馬鹿にしてっ……!

 ひゅんっと消えたアマネセルがいた空間を見上げていると、肩でゼーゼー息をするあたしにフロウが肩掛けを寄せてくれる。うっ、喚きすぎて貧血が。思わず寄り掛かると、肩を抱かれる。


「……大変だったんだぞー、あいつとイチャついてるのにやきもち隠すの」

「え!? なんか言った!?」


 あたしは耳の奥で煩い脈で聞こえなかった言葉を問い返す。


「別に……何も」


 風が、吹いて。

 沈黙が訪れる。

 そして、

 『親』たちの前で、あたしはフロウとキスをする。

 なんてったってあたしたちだもん。

 最強のタッグを組めるよね、きっと。

 相棒だもん。


「フロウってばムードがないんだよね……ファーストキスが墓地ってのはさ」

「いーだろ別に」


 意地張ったような声に子供っぽさを見て、あたしは笑う。こいつも案外幼いところがあったんだなあ、なんて。


「ね、フロウ? 『愛してる』、って言ってみてよ。あたしまだ『好き』も言ってもらってないんだからさ」


 あたしはおねだりの目でフロウを見上げる。

 風のお陰で誰にも聞かれなかった告白。


 トラブルなんて蹴飛ばして行けば良い。

 あたしたち、きっと出来ないことなんてないよ。

 何があったって変わらない思いって、確かに存在するんだと思う。

 だから、

 あたしはそんな思いを抱いて。

 ずっとずっと歩いて行くんだ。

 フロウとあたし、一蓮托生。

 神様さえも、飛び越えて――――。

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