スーパースター
鷹山トシキ
第1話 🏡 野木町の夜と、新しい隣人
佐藤家の家は、栃木県野木町の、緑と新興住宅が混在する一角にあった。東京への通勤も可能な立地だが、ここには都心にはない穏やかな時間の流れがある。周囲はまだ空き地や新しい区画整理中の土地も多く、夜になると星がよく見える。
週末の夕食を終えた佐藤家。健太は食後のコーヒーを飲みながら、美咲と花が食卓を片付けるのを見ていた。
「パパ、今日の唐揚げ、いつもより美味しかったね!」花が嬉しそうに報告する。
「そうか、それは良かった。ママの愛情が特盛りだったからな」
健太が美咲に目配せすると、美咲はくすっと笑い、健太の背中を軽く叩いた。
「もう。すぐお調子に乗るんだから。…でも、明日、おばあちゃん家の畑の手伝いの後、映画の時間に間に合うか心配だわ」
美咲の実家は野木町内で農家を営んでおり、週末はよく手伝いを頼まれていた。
「大丈夫だよ。俺がダッシュで畑を耕す。野木町のスピードスター健太に任せておけ!」
健太はそう言って、胸を叩いた。
花は、そんな両親の様子を微笑ましく見つめていた。普通の、穏やかな週末の夜だ。
その時、窓の外から、少し場違いなほどの大きなトラックの走行音と、物がぶつかるような鈍い音が響いてきた。
🚚 隣家の異変
「あれ?誰か引っ越してきたのかな?」
健太が立ち上がり、窓のカーテンを少し開けた。
佐藤家の隣の区画は、これまでずっと空き家だった。新しい建売住宅だが、買い手がなかなか付かず、美咲は「あそこ、ちょっと暗い気がするのよね」と話していた場所だ。
照明が少ない夜の住宅地に、一台の大型引越しトラックと、数台の黒塗りのバンが停まっていた。トラックからは、作業員というよりは、黒い作業着に身を包んだ無骨な体格の男たちが、静かに、だが急ぐように荷物を運び出している。
「うわぁ、すごい数の人。それに、夜中に引っ越しなんて珍しいね」
花が窓に張り付いた。
「変ね。普通、引っ越しは日中よ。それに、あんなに物々しい雰囲気で…」
美咲も少し眉をひそめた。
運ばれている荷物も、どこか普通ではない。家具のような大きなものは見当たらず、黒いプラスチック製の頑丈なケースや、金属製の重そうな箱が多い。男たちは無言で作業を進め、時折、無線で短い言葉を交わすだけだ。
健太は、その様子をじっと見ていた。彼のサラリーマンとしての長年の勘が、隣に引っ越してきた住人は「普通」の家族ではない、何か重い事情を抱えていることを告げていた。
そして、トラックの横に停められた黒いバンから、一人の男が降りてきた。
👤 8人の悪人たちの一人
その男は、体格が良く、鋭い目つきをしていた。野木町の穏やかな夜の風景には、あまりにも不釣り合いな冷たい威圧感を放っている。
「あれ、あの人…」
健太は目を細めた。
男は、周囲を警戒するようにゆっくりと見渡し、佐藤家の窓の方を一瞥した。健太は慌ててカーテンを閉めたが、その一瞬、男と目が合ったような錯覚に陥った。男の顔は、先程の登場人物一覧にあった、あの警備主任—市川
(まさか…いや、人違いだろう。こんな穏やかな町に、あんな怨念みたいな顔の人がいるわけない…)
健太はそう自分に言い聞かせたが、胸の鼓動が少し早くなっているのを感じた。
「パパ、どうしたの?」
花が心配そうに尋ねた。
「いや、なんでもないよ、花。ちょっと、変わった引っ越しだなって思っただけだ。さあ、もう寝る時間だぞ」
健太は無理に明るい声を出した。
その夜、佐藤家の食卓の灯りが消えた後も、隣家からは、断続的に重い物が運ばれる音と、低い話し声が漏れ続けていた。
穏やかな野木町に引っ越してきたのは、あの病院の闇を牛耳る「八鬼衆」の一員なのか。もしそうなら、佐藤家の「普通の日常」は、今、静かに浸食され始めているのかもしれない。
スーパースター 鷹山トシキ @1982
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