第6話 ランダムアクセスメモリーズ
RAM屋の店内は、店というより倉庫のような印象が強く、床から天井までビッシリと設置された棚に、大少のプラケースの箱が隙間なく埋めていられていた。そのケースにはマジックで小さく、「傷」や「火」「電柱」などと、一言で書かれていて、天井に張り巡らされているレールに沿って、クラゲのようなキカイらが、糸のように細長いマニピュレーターを動かしながら、プラケース内の円盤、ハードドライブ、フラッシュメモリ型などの記憶メディアをせっせと仕分けしていた。
「ここにあるのもの……全てが、他人の記憶……ですか?」
「正確には、他人が集めていた情報の
「はい……ん? っていうか、その保存されたメディアは、どこから仕入れるのですか? まさか……盗んだもの――」
「盗品とは人聞きが悪いなぁ……ウチの品は主に遺品として処分に困った記憶メディアを買い取っているだけに過ぎないぜ……ってか、オワゾウ……いくらガキみたいな背丈しているからって、遂に小学生の女の子に手を出したのかぁ?」
店内の奥の方から、頭に……バイクのヘルメットを彷彿させるような、仕入れたメディアの中身を確認する為のフルフェイス型のマウントディスプレイを被ったジャージ姿で細身の性別不詳の人物がぬらりと現れる。
「誰がガキみたいな背丈だ、ぶっ殺すぞトウマ」
「こ、この人が……店長……さん!?」
「あ……ハイ、そうですよ、お嬢さん。ウチがこのランダムアクセスメモリーズ……RAM屋の店長をやっている、
「しゅ……宗教?」
「息のように嘘を吐くな、四六時中スケベなメディアの中ばっか見ていたから、マウントディスプレイが頭から抜けなくなっただけだろ」
「ここに来たのは、コレを見て欲しくてきたんだトウマさん」
「おやおや、デリクのお坊ちゃんもいらしたんだねぇ。その手に持っているSDカードは……ひょっとするとDDメディアか?」
「分かるんですか?」
「分かるよ、お嬢さん……これでも、何万ともメディアを見てきたからさぁ。この世のものと、そうじゃないメディアの判別はすぐ分かる……でだ、オワゾウ、このDDメディアを我がRAM屋に持ってきた理由を教えてくれるか?」
「こいつの出所……地下の座標を知りたい。ソコの画像解析機でこのメディアを通して欲しいんだよ」
「へえ……その目的はなんだ?」
「この子……根山路留さんが愛でている野良猫を探していてな……秋葉原の地下へ向かった可能性が高いんだ。偶然にも、失踪した猫のGPS座標にそのDDメディアが落ちていて、何らかの関係があるかもしれない」
「偶然ねぇ……偶然なんて代物は念写師サマから見たら、その辺の道端に落ちている痰程度の価値だってよく知っている癖によぉ。大体分かったぜ、とりあえずそのメディアを通してみよっか」
トウマは、店の端にあるDDメディア用の解析機を起動させる。解析機の消費電力がかなり高いらしく、天井で仕分けをしていたクラゲのようなキカイの動きが一斉に停止し、チカチカと店内の照明が激しいフリッカーを引き起こした。
「ミチルちゃんだっけ? こんなクッソオンボロな見てくれの解析機で大丈夫かと思っているがねぇ、未だに大企業や御徒のラボでも現役で使われている型だし、なんせオマハ製のバイク同様、耐久度とパーツ規格の汎用性の高さが売りなんだよ。かれこれ、一番壊れやすい電源部なんて九度も交換しているのに、見ての通りピンピンしてらぁ」
「は……はあ……ピンピン?」
「どうでもいいから、とっとと画像を出せよトウマ」
「はいはい……っと」
トウマは解析機からケーブルを引っ張り出し、自身の頭部のマウントディスプレイと接続させ、それと並行しながら、ハブから外部モニターへ解析機の画面を同時に出力させる。
「ほう、こいつはクラス4級のSDカードだな。DDっていうのは、どいつもこいつも懐古主義者が多いのやら……って、コイツはっ! ヒャヒャ! いい趣味してやがるなぁ! 猫ちゃんのアニマルスナッフかよ!」
外部に出力されたモニターには、今さっきレインボーアイズで見ていた解体された猫の画像群が一気に高解像度で表示され、とっさにサツキは目を背けるが、ミチルはもう慣れてきたのか、ジッとその猫の死体を凝視していた。
秋葉原念写師奇譚 高橋末期 @takamaki-f4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。秋葉原念写師奇譚の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます