第5話 アニマルスナッフ
CRTモニターに陳列される猫の死体、死体、死体。車に轢かれ、臓物をアスファルトにぶち撒けたものから、意図的に刃物や薬物などで、ズタズタに惨殺したもの。恐らく生きたまま毛皮を剥いだもの、電気を流し、燃やしたもの。手足を縛りつけながら、高所から落としたものなどなど、猫に何かの恨みでもなければ、もしくは……そういう趣味でもなければ、集まりそうにない、残虐行為の展覧会だった。
「こいつは……アニマルスナッフという代物だな」
「……猫を……こんな酷い……ウッ」
相変わらずこういった類が苦手なサツキは、再びトイレへと向かい、中から嗚咽音が響き渡る。本当にアイスを買ってこなくて良かったと思った。
「どうして、チビのGPSの場所にこんなSDカードがあったのかは分からない。けれど、これはきっと偶然とかじゃないと思います……だって……だって、こんなものを撮っているヤツは、いなくなったチビにも……同じことをされていると思ったら……私……私……」
「け……警察にはソレを届けたのかい?」
トイレの扉にもたれながら、顔面を真っ青にしているサツキが顔を出す。
「それは止めておけ。そのメディアが発見されたのが、銀座や表参道なら話は別だが、ココ……秋葉原だぞ。猫の死体集どころか、本物のヒトのも……はあ……ともかく、警察は相手をしないし、根山さんも、そんな物騒なものを所持していたら、補導されるのがオチだろう」
「……そんな……それじゃあ、チビは……もう……駄目」
ミチルは、怒りと悲しみが入り混じったような苦悶の顔を浮かべて、なすすべもなく、その場で猫の死体集を呆然と眺めている。なんとなく、かつてのサツキの姿を思い浮かんでいて、俺はとても、大きく息を吸い……。
「はあ……まだ、チビが死んでいる確証はねえよ」
「え?」
「今、お前が言っただろ。チビのGPS座標に、このSDカードがあるのは、決して偶然じゃない、と。それに関しては俺も同意見だよ。コレは地下にいる存在の意図的な仕業だ。とりあえず、このメディアの出どころを追うぞ」
「え……ということは、引き受けてくれるんですか?」
「オワゾウ君!」と、青かったサツキの顔が一気に、日が昇ったかのように明るくなる。
「さんを付けろ! 勘違いするなよ、割に合わなければ、すぐに俺は手を引くからな……それに、ハジメ店長……」
「ああ……見ての通り店は暇だからさ、上がっちゃっていいよ。一応、ハルへの連絡と……引き継ぎは任せておいて……それに、トプシーには気を付けろよ」
「……はい、肝に銘じます」
レインボーアイズを出て、サツキとミチルを連れて、蔵前橋通り沿いを進んでいき、銀座線の末広町駅、中央通りを横切り、すぐに次の通りを南……総武線方向へと向かうと、やたら巨大な電子看板や、過剰とも感じるくらいに、商品の情報と値段が辞書のように羅列された
そのジャンク大通り傍の芳林公園の近くにある、十階建マンションのニ階にランダムアクセスメモリーズという名の店……パソコンの作業用メモリ同様に、通称、RAM屋と呼ばれる記憶屋がある。
「……記憶屋……って?」
「多分、ミチルちゃんの家にも沢山あるものだよ。例えば、携帯端末……古いスマブラの中に、入れたままのマイクロSDカードや、パソコンのハードディスク、カメラに入ったままのSDカード……それに、ホームビデオで撮ったテープとか……フィルムとかもね」
「それって……他人の個人情報を売っているって事ですか?」
「個人情報にも色々あるぞ。氏名、性別、年齢、戸籍、学歴、職歴、身長に体重、血液型、健康診断の結果、加入保険の情報、買い物履歴から、クレカと口座番号、ローンの残高、銀行の預金残高に多種多様なアプリケーションの使用頻度、検索履歴、メールのやり取り、コレクティブメディアのアカウント情報。そして……ここから重要なのが、個々の趣味趣向、何に依存しているかの情報だ。この店では主に、忘れ去られた画像、動画情報を集めている店なんだ……よっと!」
RAM屋も他の店同様に、まだ開店準備中らしく、入口のシャッターが中途半端に半開きになっていて、俺はその扉を思いっきり開け放つ。
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