唯一の体験談。

ドキドッキー

第1話


 怖い話として成立するかは分かりませんが、僕の不思議な体験を書き殴っていきます。

 

 

 僕が小学6年生の頃のお話です。

 6年生にもなると、棲み分けとでも言いますか。

 段々と交友関係が変化していきました。

 サッカーが好きな子たちで1グループ。ゲームが好きな子達で2グループ。そしてそれ以外、みたいな。


 今の僕は無理して人と一緒に居る必要性は無いと思っていますが、当時の僕は孤独を恐れていました。

 自分が無いのです。

 

 あの日まで、3人で行動していました。


 主要な登場人物の表記はA、B、僕、アレで行きたいと思います。

 


 寒さに心が負けだした、秋の日の放課後のことです。

 僕がランドセルに教科書を突っ込んでいると、背後からAが話しかけてきました。



「お前さ、心霊スポット分かる? それがここら辺に一つあんの」


 勘弁して欲しいと、心の中で愚痴ったのを覚えています。


「……本当に行くの? 」



 Aのノリは独りよがりでした。

 

 クラスメイトの女の子が不審者に声をかけられて怖いと、ある日の夕礼中に泣き出したことがありました。

 

 Aはその子のことが好きだったのでしょう。

 不審者から守ると、その子の後ろを下校中見張り始めました。


 僕とBを巻き込んで。


 僕が勝手に家に帰ると迎えに来る程、無理矢理に。

 女の子と二人で帰るのは怖かったのでしょうね。


 色んな意味で。

 

 あ、ちゃんと女の子と御両親の許可は取っていたらしいです。



 話を戻します。


 Aは僕の言葉を聞き、ニヤニヤと顔を歪ませるとやたらとデカい声で話始めました。



「あるんだよ心霊スポット。Bの家のパソコンで調べたんだ。あの裏山、やっぱりヤバいぜ」



 こんな感じだったと思います。

 いちいちパソコンで調べたとか言う必要性あるか? と、少しイラついたのを覚えているので。

 当時はパソコンどころかスマホの普及率が高くなく、親世代しかスマホを所持していませんでした。


 

「そりゃあ、裏山の話をしただけで父さんたちキレるし、……行くの辞めようよ」


「やーい、やーいビビり!」


 

 思い出しただけでムカつきます。


 心を落ち着かせるために補足ですが、僕の住んでいた町のすぐ近くには大きな山がありました。

 そしてみんな、あの山をこう呼んでいました。


 日常生活で目に入る山を表山。町外れのトンネルを抜けないと、見ることが出来ないのが裏山。


 今は分かりませんが、大人たちは山に近づきません。熊が住んでいるという話も聞きませんでした。


 ただ危ない。それだけで距離を取るには充分です。

 

 大人も子供も、けど、Aは違いました。



「次の土曜に、みんなで探検に行こう。中学上がった時の自慢話になるぜ、もちろん来るよな」


「……分かった、行く」


 

 結局、流されました。

 土曜の昼、バス代を握りしめながら待ち合わせの公園に向かって歩いている際、自然と涙が溢れて来たのを覚えています。



 ここから先の記憶はもう、思い出そうとするだけで厳しいです。

 淡白になるのを、許してください。

 

 公園で待っていたAとBと合流し、バスに乗り、町外れまで行きました。

 

 ここから先は歩きです。

 トンネルがあるのにバスすら近づかない。


 よくよく考えれば、あのトンネルはなんなのでしょう。


 続けます。



 トンネルの中は随分と静かでした。

 それに、例えが思いつかないほど、ほんのりと臭かったです。

 慣れてくるとなんと言うか居るだけで健康になる感覚と言いますか、鼻がスースーしていくのが本当に怖かった。

 

 何処からともなく聞こえる水がぴちゃん、ぴちゃんと落ちる音も。

 

 そして妙に水の上から落ちる音は規則的でした。

 あの日以来、僕は蛇口を力強く締めるようになりました。

 

 蛇口を開けていると水に混じって、どろりとした茶色いドブが銀色のシンクタンクを汚す気がするからです。

 

 僕の膝は自然と震えていました。

 薄暗く、次の一歩で石に躓いてしまってもおかしくない長いトンネルの中で、一番恐ろしいのはBでした。



「音が外より大きく聞こえるの、反響って言うんだよ? 静かだったり、今みたいに固いコンクリートに周りを覆われてると、こうなるんだと」


 Bは背が低く、声変わりはまだでした。

 反響するBの高い声をとても恐ろしく感じたのを覚えています。

 

 Aも僕と同じような気持ちだったのでしょう。


 恐怖していた。

 何か強い口調でBに食ってかかった気がします。


 どーーーん


「うるせぇぇえ」



 ふたつのおとは、同時でした。

 Bに言い負かされ、怒り狂ったAが叫びながら思い切り地面を踏みつけたのです。


 そして、出口のある方向に向かって走り出しました。

 トンネルは一本道でしたから、Aの黄色い背中が視界からすぐに消え、足音しか聞こえなくなりました。


 最悪だったのはAが走り去ったのは裏山に繋がる出口、僕とBからして見れば、Aは真っ直ぐ進んだという点です。



「B、帰ろうよ。何もないって。Aは大丈夫だよ……」

 

「Aが生きて帰ってきて、俺とお前が逃げたなんて周りに言いふらしたらどうする? 殺すぞ。行くぞ」



 Bは普段は殺すとか口走るタイプではなかったのですが、Aと喧嘩して気が立っていたのでしょう。

 Bの剣幕に僕は、



「分かった。Aを助けに行こう」



 本当に自分が無かった

 それが悔しくて悔しくて


 気づけば辺り一面に木々が生い茂っていました。

 裏山に、辿り着いてしまったのです。


 

「なんか、普通じゃね? 山じゃん」


 Bは日光を片手で遮断しながら、辺りをキョロキョロと見渡しました。

 

 裏山の木々たちは大きく、幹の一本一本がとても太かった。

 手入れはきっとされておらず、ギザギザで黄色い部分が目立つ葉が、僕たちに手招きしているようかのように垂れ下がっていました。


 目を凝らすと、葉に黒い虫がウジャウジャと寄り添っているのが見えて、反射的に太陽を見上げました。


 太陽の光は強く、秋風はとても気持ちが良かった。この頃になると、妙な空気の臭みは消えていました。


 

「Aくーん! 何処ですかーーー!!」


 

 姿の見えないAを見つけるために、Bは叫びました。

 近くに居る僕が耳を塞ぎたくなるほど、力いっぱい。


 僕たちは、ここに居るぞと。





 


 

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